第28話 宿題
ダンジョンから戻り学校が終わると、ルークはエリンとシャルに話しかける。
「今日はいつもの勉強とトレーニングは中止にして、エリンの家に行くよ」
「うちのお店に寄るの?」
「いや、エリンの家だよ。エリンに出した『ポーション作り』の宿題を取りに行くんだ」
「えっ……は、早いよ。宿題だされたの4日前だよ! まだちゃんとしたの作れてないよ」
「安心してくれ。品質は気にしてない」
慌てるエリンを気にせずルークはニコリと笑う。
「……ん。エリンも宿題が出されてたのか?」
「いや、シャルに出した『素材集め』とは違う宿題だよ」
「えっ? シャルちゃんも宿題だされてるの?」
「色々な素材を探してきて、ご主人様にどんな物なのか教えてもらってるニャ」
「僕の護衛となるシャルには様々な知識が必要だからね。どんな状況でも周りにあるモノを有効に活用できるようになってもらいたい」
シャルはコクリと嬉しそうに頷く。
「けど、ご主人様がすでに知ってる素材を持って行くと、やり直しになるから厳しいニャ」
「うん。せっかくの機会だから僕の勉強にも役立てたいからね」
る、ルーク君。それって素材図鑑を完成させるために、シャルちゃんを使ってるんじゃないんだよね?
シャルちゃんの笑顔を見る度に、私の胸が痛むのはどうしてなんだろう。
「まあ、そういうわけだから早速エリンの家に行こう」
そう言うとオロオロしているエリンを置いて、ルークとシャルは歩き出した。
◇
「ここがエリンの部屋か? 思ったよりもずっと広いな。というか工房みたいだな」
「……ん。沢山ある棚が全部素材で一杯。エリン、凄いニャ!」
お店と鍛冶工房の間に、エリンの部屋はあった。そこは部屋の一部が作業場になっているのではなく、作業場の一部に寝るスペースが用意されている造りになっていた。
これはエリンの職業が『錬金術師』とわかったとき、ドワーフの鍛冶師ドンカがエリンの部屋を勝手に改造してしまったのだ。当時はドンカに怒って文句を言ったエリンだったが、ルークから大量の宿題を出されるようになってからは、この部屋の造りに感謝していた。
それほどまでにルークからの宿題の量がエグかったのだ。
「どれどれ、この棚にあるのが宿題分かな?」
「うん。そうだよ。ちゃんとポーションができているか少し不安だけど……」
「……ん! この棚のポーション、全部エリンが作ったの? す、凄いニャ!」
「シャル、それは違うぞ。ここからここまでの棚だ」
ルークは3つの棚に指をさす。
そのことにシャルは目を大きく開いて驚いていた。
「こ、これで何日分の宿題なのかニャ?」
「3日分だ。1日1棚だな。エリンの魔力なら丁度ギリギリのハズだ」
と、どうしてそのことを知っているの。怖いよ。ルーク君。
「どれ、ポーションの品質は……おっ、ちゃんと徐々に良くなっている。この調子なら、あと1週間ぐらい続ければ普通のポーションぐらいの品質にはなりそうだ」
「る、ルーク君! もしかして、あと1週間もこの宿題は続くの!?」
「あたり前だよ。これはお金のためにやっているんじゃなくて、エリンの修行としてやっているんだ。錬金術系のスキルは、魔力コントロールとイメージ力に大きく影響される。これを身につけるにはひたすら繰り返すのが一番効率が良い。だからこの宿題なのさ」
そうだったんだね、ルーク君。私はてっきりお金のためだと勘違いしてたよ。私の能力を伸ばすために考えてくれていたんだね!
「ご主人様。この大量のポーションはどうするニャ?」
「いくつかは僕たち用にして、それ以外の物は教会に寄付する。この品質だと売り物にならないが、教会なら使い道に困ることはないからな」
「い、以外だったよ。ルーク君なら教会に売りつけると思ってた。困っている人達に使ってもらうんだね!」
エリンは尊敬の眼差しでルークを見つめる。
「何を言っているんだ? これはこの釜を借りるための条件なんだ。毎月最低でもポーション50個。けど安心してくれ、品質は問わないと一文を設けてあるからな」
わ、忘れていたよ。この釜はマドリー様が用意してくれた物だった。あの人が何の条件も無しに用意してくれるはずがなかった。
「クッククク。三日もあれば50個ぐらいすぐにできる。そこから先、錬金釜で作ったモノは僕たちが自由にできるんだ。こんなおいしい話はない……」
なんかルーク君の方から小さな声が聞こえてきたけど、私は聞かなかったことにした。うん。この宿題は私のために出してくれてるんだもん。そうだよね。ルーク君?
その後、ルークは1つ1つの棚を『コレクト』でカード化し「教会へ納品に行ってくるよ」と言いながら帰っていった。
そして入れ違いにお父さんが部屋に入ってきた。
「エリン。ルークに頼まれた物ができたぞ。おまえも運ぶのを手伝ってくれ」
お父さんの後を付いていくと、そこには新しい棚が9つあった。
見覚えがある棚だなと思っていたら、お父さんから衝撃の事実を聞かされる。
「これ、エリンの部屋に設置しておいてくれだとよ。全く人使いの荒いヤツだぜ。あと追加で9つ頼まれているけど、本当にあの部屋に入るのか?」
る、ルーク君。私に一体何をさせる気なんだよォォォォォォォ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます