第21話 ダンジョン図鑑
ルークの家にシャルが住むようになってから1ヶ月が過ぎた。
今日は生徒達が楽しみにしていたダンジョン探索の日。
教室ではシエル先生がダンジョンについて説明していた。
「今日はこの町にある初級ダンジョンへ行きます。ダンジョンはとても危険なところです。下手すると怪我だけではなく命を失うことになります。だから行く前にダンジョンについておさらいをしましょう」
シエル先生の言葉に一部を除いた生徒達の表情が引き締まる。
ドランは慢心から、ルークは前回勇者だった頃の経験から周囲と比べ緊張感に欠けていた。
それを見ていたシエルは、2人に質問することにした。
「それでは先生から質問するので、当てられた人は答えてください。魔物を倒したときにダンジョンの中でだけ起こる現象はなんですか? ドラン君、答えてください」
「倒してから少しするとダンジョンに取り込まれます。そのときアイテムをドロップすることがあります」
「はい。正解です。ダンジョンの外とは違い死骸は残りません。死骸からもし素材を回収したい場合は、急いで解体する必要があります」
ドランはフンッと鼻を鳴らし腕を組み、ルークに向かってドヤ顔をする。
「それではダンジョンの最深部には何がありますか? それではルーク君、答えてください」
「最奥の間に女神の像があります。その部屋へ入るには扉の前にいるダンジョンボスを倒す必要があります。ちなみにダンジョンボスを倒すと称号が手に入ります」
「はい。その通りです。それではもう1つ質問します。一度ボスを倒した後、またボスのいるところへ行くと、どうなりますか? えっ? はい。エリンさん」
シエルとしては答えられる者はいない質問をしたつもりだったが、エリンが手を上げたので驚く。
「ボスは出現しません。女神の間にも入れます。パーティーにボスを倒したことのないメンバーがいる場合、ボスは出現します。この行為は未熟なメンバーを育てるときに行われることもありますが、死ぬ危険が高いので注意が必要です」
「えっ、あ……、そ、その通りです。よく勉強していますね。偉いわよ、エリンさん。それじゃあ……え? シャルさん手をあげてどうかしたの?」
「続きがあるニャ……です。ボスを倒すと経験値が多くもらえる。だから悪い奴は騙したり攫ってきたりして、ボス倒したことない人を無理矢理つれていく。だからダンジョン近くで攫われないよう注意するニャ……です」
シエルだけでなく、ほとんどの生徒も目をパチパチさせながら言葉を失う。
特にドランは悔しそうにグッグッッッ……とエリンとシャルを睨んでいた。
そんな中、アリスだけはルークにジト目を送っていた。それは2人の答えが前にルークから教えてもらったことと同じだったからだ。
「み、みなさん、先生の予想以上に勉強しているようですね。これなら大丈夫でしょう。さあ、出発するので準備してください」
◇
シエル先生の案内で、スタットの町から歩いて10分ぐらいの距離にあるハージマルダンジョンにやってきた。
このダンジョンは入門ダンジョンと呼ばれ、出現する魔物は弱く階層も浅い。学校の授業で使われる入門ダンジョンは、初級ダンジョンの中でも特に危険が少ないダンジョンのことを指す。
「このハージマルダンジョンに出現する魔物はFランク以下しか出ません。最下層は5階と小さなダンジョンです。しかし油断は禁物です。最初は全員で行動しますのではぐれないように付いてきてください」
そう言うとシエルは山の斜面に出来た洞窟へと進んだ。ダンジョンの中は通路のところどころが明るく光っているため松明などは不要だった。
「みなさん、これがダンジョンの中です。明るいですよね? これは誰かが灯りを用意してくれた分けじゃありません。ダンジョン自体が光っているのです。それに宝箱も出現します。とても不思議ですよね? 帝国ではダンジョンの女神がヒトを誘うために用意していると言われています」
生徒達からは「そうなんだぁ」「女神様って本当にいるのか?」などの言葉が聞こえる。ルークはこれらが三姉妹の長女『時の女神クロノア』の仕業だと知っていた。そしてクロノアこそが、世界の時間を勇者誕生前に戻した張本人であった。
少し歩くと広い空間に出る。そこには2体のスライムがいた。
「みなさん、これがスライムです。身体を形成している液体は弱い酸性を含んでいますので、触れたらすぐに洗ってください。このダンジョン以外で出てくるスライムは、毒があったり強酸だったりと種類が豊富です。だからスライムを見ても油断しないよう注意するように」
そう言うとシエルはスライムの倒し方を説明しながら木刀でスライムを倒す。その後、1階層を探索し魔物を見つけては生徒と戦わせた。生徒全員が魔物との戦闘を経験し終えると自由探索の時間になった。
「みなさん、このダンジョンの地図は持っていますね。先生は入り口近くの広間にいます。パーティーメンバーがはぐれたり、怪我をしたらすぐに先生のところまで来て下さい。あと、今日は二階層に降りないように」
こうして生徒達はパーティー毎に別れて行動することになった。
ルークは早速、エリンとシャルに声をかける。
「こっちに行くよ。付いてきてくれ」
「ルーク君、そっちは長い一本道で行き止まりだよ。みんなグルグル周回できる道の
方へ行くみたいだよ」
「そっちはダメだ。みんながいるからな。ちょっと試したいことがあるから人気がない方に行こう」
そう言うとルークはもう我慢できないとばかりに歩き出す。慌ててエリンとシャルは後を追った。
「あっ、さっそくスライムがいたな。シャル、やっちゃって」
「……ん。任された」
シャルはルークから渡された木の棒で、さくっとスライムの核を破壊する。スライムを相手にする場合、酸性の体液で武器を傷めないよう木の棒を使うとルークから教えられている。
「お疲れさま。みんなちょっと待っててくれ。『コレクト』! よしダンジョンの中でもカードに出来るな」
ルークがスライムのカードを手にしたとき、頭の中に女性の声がした。
『【ダンジョン図鑑】が解放されました』
よし! もしかしたらと思っていたけど図鑑きたァァァ!
ルークは浮かれながら『ステータス』と唱えた。
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【名前】ルーク
【レベル】1(固定)
【職業】
【スキル】コレクト、リリース
【図鑑】
魔物図鑑(9/255)
・スタットの町(9/9)
ダンジョン図鑑
・ハージマル
魔物(1/8)
アイテム(0/15)
踏破(1階層:35%)
素材図鑑(53/500)
・Eランク(5/100)
・Fランク(48/100)
ボーナス
・腕力+11
・体力+11
・機敏+13
・知力+15
・魔力+17
【称号】太陽の女神に仇なす者
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スライムはすでに魔物図鑑にコレクションしていたから『9/9』のまま増えていない。新たに増えたのはダンジョン図鑑。『魔物』はこのダンジョンに出現する魔物が8種類ってことだよな。
『アイテム』はこのダンジョンで手に入れられるアイテムの種類か? 15種類ってことは、宝箱だけじゃなく魔物からドロップするアイテムも含みそうだな。そして『踏破』は、その階層をくまなく歩いたかの達成率か。
……おもしろい! これを全部満たせばダンジョン完全攻略ってことだ!
1人でグフフフフと笑っているルークを見て、エリンとシャルはドン引きしていた。ルークは我に返ると、今の情報を2人と共有する。それを聞いたエリンとシャルは「面白そう!」と感嘆の声を上げた。
こうして『月夜の宴』は、ハージマルダンジョンの完全攻略を目標に掲げたのであった。
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