第20話 ケアルの実

 翌日の放課後ルーク、エリン、シャル、ミアの4人はいつもの森の遊び場に集まっていた。


「2年後の今頃、僕達はアルカディア学園にいる。そこで困らないためにもこれから勉強や戦闘技術を教える。僕が教えればアルカディア学園の学生に劣るなんてことはないので安心してほしい」


 ルーク君、もう学園に行けることは確定してるんだね。エリンは心の中でツッコミをいれる。


「シャルはご主人様の護衛。だから勉強いらないニャ」


 昨日の一件以来、シャルはこのメンバーでいるときに語尾の『ニャ』を隠さないようになっていた。エリンはそんなシャルの心の変化に喜んでいた。


「いや、それはダメだぞ。シャルには護衛だけじゃなく伝令とかの任務も任せることになる。最低限の知識は覚えてもらうよ。けど安心してほしい。エリンが覚えることの3分の1ぐらいしかない」


「3分の1?」


 シャルは首をコテッと傾ける。それを見たミアは胸の前で両手を握りウゥゥッ……と抱きつきたいのを我慢した。


「そう、最低でも3分の1の意味がわかるぐらいには、勉強が必要ってことだ」


「お兄ちゃん、それじゃあ早速勉強するんだね! 私はシャルちゃんを教えたい!」


 ミアの呼び方もいつの間にか『シャルお姉ちゃん』から『シャルちゃん』に変わっていた。


「いや、それだと効率が悪い。まずは魔物を倒してレベルアップするのが先だ。そうすることで知力のステータスも上がるはずだ」


「知力? ルーク君、私のステータスには知力って無いんだけど……」


「ああ、無いのが普通だから安心してくれ。これはたぶん隠しステータスなんだ。僕の考えだとレベルが上がるときに腕力、体力、機敏、知力、魔力の5つの項目に分類されて能力が上がっていく」


 ルークが『収集家』のコレクションボーナスで得られるようになった5種類の能力。これらの項目は前回勇者だったときのステータスには存在しなかった。

 しかしレベルが上がると身体能力だけではなく知力や魔力も上がっていた。だから ルークは思った。存在しなかったのではなく、隠れて存在していたのではないかと。


「つまり知力という能力が上がれば、それだけ計算や理解が早くなったり、すぐに暗記することができるようになる。簡単に言うと頭が良くなるはずなんだ。だから今は勉強と平行してレベルアップで知力も上げていく」


「す、凄いよ! レベルが上がれば頭が良くなるんだね。それでどうやればレベルは上がるの?」


「シャルもレベル上げたいニャ!」


「ミアも!」


 それを聞いたルークは、少し困った表情でミアに話しかける。


「ミアはまだレベルが上がらないんだ。レベルは職業と一緒に洗礼の儀式のときに授かるからね」


「えー、ミアだけレベルは上がらないの?」


「けどミアは十分に頭がいいから、今から勉強して全く問題ないぞ」


「そうだね。ミアはお兄ちゃんの次に頭が良いから大丈夫だもんね!」


 ルークはミアの頭の良さを高く評価していた。下手すると英雄職になってしまうのではないかと危惧するほどに。


 4人は魔物を狩るため森の奥へと進んでいく。すでにこの辺りの魔物では相手にならないほどルークは強くなっていた。図鑑にカードを集めたときにもらえるポイントで身体能力が強化されているからだ。


 シャルにターゲットのカードを持たせて『探索』を使う。それにより魔物は簡単に見つけることが出来た。

 倒しやすい魔物から順に飼っていく。2時間が経過したとき、2人はレベルが3になっていた。


「ふぅ……疲れたぁ! けど楽しかったよ。怖かったけど、シャルちゃんが先に魔物を弱らせてくれるから簡単に倒せたよ。ありがとね」


「ん。シャルに任せる。ご主人様、ナイフ返す。これ凄く切れた。シャルもほしいニャ」


「楽しかったみたいで良かったよ。明日からは自分達だけで戦ってもらう。僕も近くにいるようにするけど、やることがあるからね。2時間ぐらいレベル上げをしたら、その後は3時間勉強だ。しばらくはこのスケジュールでやるよ」


「「…………はい?」」


 エリンとシャルは固まってしまった。それを見てミアが不思議そうな顔をする。


「私とアリスお姉ちゃんはもっと小さいときから、そのぐらい毎日やってたよ」


「「エェェェェェェェ!」」


「そういうこと。すぐに慣れるから安心してくれ。今日は初日だからこれで解散にしよう。僕も用事があるからね」


 ルークとミアが手を振る中、エリンとシャルは肩を落としながら帰っていく。

 2人が見えなくなった後、ミアはルークに尋ねた。


「お兄ちゃん、今日も『』を取りに行くの?」


「もちろん。この周辺の採取ポイントはすでに調査してあるからね。毎日欠かさず周回すれば、しばらくは今の状況を維持できそうだ」


 実はこのスタットの町周辺で採れる『ケアルの実』は、半年前からルークが独占的に集めていた。ケアルと呼ばれる稀少な植物になる実で、もともと数は取れない。栽培するのも難しいため、それの売買を生業とする者はほとんどいなかった。


 それに目をつけたルークは採取できるポイントを洗い出し、ときには同業者を出し抜くことでほぼ独占することに成功した。そして現在のハイポーションの高騰もルークの仕業である。


「他の町から買ってきたり、売りに来たらどうするの?」


「大丈夫だよ。その場合はこの町まで運ぶのに輸送コストが発生する。そうなるとその分は価格が上がるから、僕たちよりも高い売値になる」


「それでもお兄ちゃんより安く売ったらどうするの?」


「アハハハハ。ミア、残念ながらそれはないんだ。『ケアルの実』は需要があるから、安く売るぐらいなら現地の町で売った方が儲かるんだよ」


「そっか! お兄ちゃんってやっぱり頭良いね!」


 ルークは笑いながらミアの頭を撫でた。


 太陽教との取引も、売り先の確保という狙いもあったが、本当の目的は教会に表立ってもらい自分の存在を隠すことであった。

 仮に教会が『ケアルの実』の独占を疑われたとしても、ルークの存在を明かすことはできない。なぜならルークと違法取引していることまで明かすことになるからだ。

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