第19話 シャルへの報酬
しばらくするとシャルは目を覚ました。
側にいたミアはすぐに気がつき、ルークとエリンを呼んだ。
「シャル、気がついたな。それで、勝負の件は僕の勝ちってことでいいか?」
いきなりその話から入るところがルーク君らしいよ。
エリンは呆れ顔でルークを見る。
「まいったニャ。シャルの負け。ルークを飼い主と認めたニャ」
「飼い主って……本当に僕が飼い主でいいのか? 契約魔法じゃなくて?」
飼い主? シャルちゃん、一体何の話をしているの?
エリンは2人が話してる内容に嫌な予感がしていた。
「ルーク強いし物知りニャ。将来お金持ちになりそうだし、一緒にいればシャルは楽しめそうニャ」
ルークは少し考えた後、2回頷き決心したようにシャルを見る。
「わかった。シャルはとても得がたい人材だ。僕でよければ飼い主になろう」
それを聞いたシャルは、ガバッと起き上がりルークに抱きついた。すると2人の身体を淡い光が一瞬包み込んだ。
「これでルークはシャルのご主人様だニャ! ちゃんと面倒見る!」
「ああ、これからよろしく頼むよ。ちゃんと衣食住は用意するから安心してくれ」
「ちょ、ちょっと待って。シャルちゃん、今ルーク君のことご主人様って言わなかった? る、ルーク君……まさか奴隷契約したんじゃないよね?」
「何を言ってるんだ? 僕がそんなことするわけないだろ。飼い主契約を結んだんだよ。これは犬人や猫人が持つ特性なんだけど、衣食住を面倒見る代わりに飼い主を主人と見なし生涯を共にする契約だ。これは猫人の方から契約を要望して初めて締結されるものだから、信頼関係がないと成立しない。奴隷契約とは全く別物だよ」
アワワワワ……シャルちゃんがルーク君を飼い主に選んだってことだよね? 重い、重すぎるよ、シャルちゃん! その人は一番選んではいけない人のような気がするけど、本当に大丈夫なの!?
◇
その日の夕方、トーザとハルナが仕事から帰ってきた。
「ただいま。ルーク、ミア、今帰ったよ」
「あれ? 誰か来てるみたいね。アリスちゃんが来てるのかしら」
リビングに行くと、そこにはルークと見知らぬ2人の女の子がいた。
「お帰りなさい。この2人は僕のパーティー『月夜の宴』のメンバーのエリンとシャルです」
「こ、こんにちは。エリンです。いつもルーク君に助けてもらってます。よ、よろしくお願いします」
「し、シャルです……猫人と人のハーフ。よろしく頼むニャ……です」
2人は簡単な自己紹介をすると頭をペコリと下げる。
トーザとハルナも笑顔で挨拶をする。
「ルークのことをよろしくね。何か困ったことがあったら遠慮無く相談に来なさい」
「こんな可愛い子がパーティーなんて、ルーク良かったわね。アリスちゃんは一緒じゃなかったの?」
「うん。アリスは英雄職だからドランと同じパーティーだよ。僕たちは非戦闘職だからアリスとは違うパーティーになるんだ」
「そうなんだ。それは残念ね。あっ、そうだ。せっかくだから2人ともうちでご飯食べていきなさい。ルークの学校生活の話もいろいろ聞きたいし」
エリンとシャルはルークの顔を見る。
「その前にちょっといいかな。相談があるんだ」
「ルークから相談か……わかった。それじゃあ、お茶を飲みながら聞こうか。ハルナも一緒の方がいいんだろ?」
ルークは頷き、みんなでお茶の用意を始めた。
テーブルにはそれぞれのお茶とクッキーが置かれた。女性陣はこのちょっとした共同作業で打ち解けていた。
「みんな席に着いたね。さあルークは話してくれ」
トーザとハルナがルークを優しく見つめる。ルークは事前の打ち合わせ通り話し始めた。
「——という分けで、シャルは一人暮らしをしているんだ。空き家の軒下で寝泊まりし、食べ物も毎日困っている状態。だから学校を卒業するまでの間、この家で飼って
——住んでもらうのはどうかなと思ったんだ」
トーザとハルナはどちらから先に話し始めるか、顔を見合わせていた。
少し躊躇いがちにトーザの口が開く。
「ルークの言いたいことはわかった。シャルさんがその歳で1人暮らしするのは、私もさすがに無理があると思うよ。そして……ルークのことだからこの話にはまだ続きがあるんだろ? 私とハルナはそれを聞いてから判断するよ」
ルークは頷くと続きを話し始める。
「まず理解してほしいのは、この話は僕が望んでいるということ。シャルはとても優秀なんだ。もちろんエリンもだけど。今日、僕たちのパーティーは冒険者ギルドで依頼をこなし銀貨7枚と銅貨40枚を稼ぎました。これは彼女達のスキルが大きく影響しています。つまり突発的ではなく、安定して稼げるほど優秀なんです」
1日で銀貨7枚稼いだことにトーザとハルナは驚く。銀貨7枚と言えばルーク家の1ヶ月の食費を十分まかなえる額だ。
「この相談をする前に、当然だけど孤児院とかもいろいろ考えました。けど孤児院だとシャルは里親が決まり連れて行かれてしまう可能性がある。もちろんシャルが幸せになれる里親ならいいんだけど、亜人に対する差別が強い今の環境では不幸になる可能性の方が高い」
「つまり孤児院には預けられない。1人暮らしはさせられない。そうなると誰かが預かるしかない分けだね」
「はい。そしてシャルは猫人のハーフ。こんな小柄だけど身体能力は高く腕が立ちます。僕がアルカディア学園に行くときには、僕の護衛役をしたいと言ってくれてます」
「……ん? 今、アルカディア学園に行くとか聞こえたけど」
「はい。けど今は本題からそれるので
「報酬って……お金になるのかしら?」
ハルナの答えにルークは首を横に振る。
「シャルはあと2年もすればお金に困らないぐらい1人で稼げるようになります。さらにお金での取引は、お金で裏切られる可能性もあります。そんなシャルに僕たちが報酬として用意できるもの……」
「それがこの家で一緒に暮らしてもらうこと。そういうことかい?」
「はい。言い方が良くないかもしれませんが、シャルは今困難な状況にあります。僕達からしてみればチャンスなんです! だから僕は自分のためにもシャルにここで暮らしてもらいたいと考えています」
ルークが話し終わると、トーザとハルナはシャルの顔を見ていた。
エリンはこの光景を見て恐怖を覚えた。シャルがお願いする立場ではなく、いつの間にかお願いされる側になっているのだ。
両親が帰ってくる前、ルークは私とシャルに「僕が話すから2人は何も言わないように。飼い主のことも内緒だ。大丈夫、むしろあっちからお願いさせてみせるよ」と言っていた。恐ろしい。ルーク君、恐ろしすぎるよ。
フゥ……ため息をひとつ吐き、トーザは口を開いた。
「ルークの話はわかったよ。理解もできる。シャルさんの能力は知らないけど、ルークがここまで必要とするのなら間違いなく優秀なんだろう。ハルナ、私はいいと思うけどどうかな?」
「私はいいわよ。シャルちゃん可愛いし! ただ……ルークがどんどん詐欺師みたいに見えて不安になったわ」
エリンは心の底から同意した。ウンウンと頷きそうになったのを必死に止めたほどだ。ルークは「アハハハ、お母さんそれは酷いなぁ」と全く気にした素振りも無い。
シャルはお世話になりますとペコリと頭を下げていると、ミアが部屋に飛び込んできた。
「話は終わった!? シャルお姉ちゃんはミアのお部屋で一緒に暮らすんだよね? さあミアのお部屋に案内してあげる!」
「ミアがそう言ってるけど、シャルさんもミアと同じ部屋でいいかな?」
シャルはルークの部屋で暮らすつもりだったが、トーザとハルナから見えない位置でルークが首をブンブンと縦に振るのが見えた。
「……ん。あっ、ハイです。家の中で寝られるだけで贅沢。シャルはどこでも大丈夫」
「トーザ、一緒に暮らすのにシャルさんなんて他人行儀な呼び方やめましょうよ。ねぇ、シャルちゃん」
「……ん。シャルもその方が嬉しいニャ……です」
「「「キャー! 可愛い!」」」
揉みくちゃにされながら、シャルは今の幸せをルークに感謝した。
――――――――――――――――
後書き失礼します!
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
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