第33話 ハージマルダンジョン攻略(5)

「いやぁ、ごめん。ごめん。少し取り乱したよ。予想していたとはいえ、本当にスキルが進化するとはね。あとはどうやってスキルカードを使うのかだけど……これについては時間がかかりそうだから、今はとりあえずボスを倒しに行こう」


 そう言いながら、ルークは二枚のスキルカードをしまう。

 するとエリンとシャルは意外そうな顔をした。


「2人ともどうした?」


「珍しいニャ。ご主人様は欲望のままに行動すると思っていたニャ」


「うん、うん。ルーク君のことだから『今日は中止だ。家に帰るよ』って言い出すんじゃないかと思ってたよ」


「アハハハ。そんなわけないだろ。ちゃんとここに来た目的は忘れてないよ。それに明日からトレーニングの時間は、2人でここの攻略を目指してもらうつもりだし。僕はその空いた時間に、スキルカードの調査をすすめるから安心してくれ」


 エリンとシャルは、パチクリと目を二度まばたく。


「る、ルーク君。今、私とシャルちゃんだけで、明日からこのダンジョンを攻略させるって聞こえたんだけど……」


「ああ。そう言ったんだ。だからエリンの耳はちゃんと聞こえているよ」


「ち、違う、質問しているのはそこじゃないってば! 2人だけで攻略とか無理だよ!」


「アハハハ。エリンは心配性だな。だから僕が今日2人を連れてきたんじゃないか。道はシャルが覚えているから迷子になることはないよ。それに1回で攻略する必要は無いんだ。自分達のペースで着実に攻略していけばいい」


 ルークはそれでも不安そうにしている2人の様子を見てふと気づく。


「あっ、なるほど……エリンの心配はわかったよ。シャルが暴走する3階層をどうするかってことだな。それなら大丈夫。最初から全滅させるつもりでいけばいいんだ。やり方は後でちゃんと教えるよ。シャルは強いし、これからドンドン強くなるから余裕だよ」


 エリンは愕然とした。


 だ、ダメだ。ルーク君には、全く話が通じてないよ……シャルちゃんはルーク君に頼られて、ニコニコ嬉しそうにしているし。本当に大丈夫なんだよね?


 そんなエリンを尻目に、ルークはスタスタと階段を降り始めた。


「さあ、次は四階層だ。ここからはゴブリンが出てくる。人型の魔物で対人訓練にもなる。けど今までの魔物と比べると格段に知能が高いから油断しないように」


「ルーク君。ゴブリンって……たまに町を襲いに来るゴブリンのことだよね? いつもは大人達が倒してくれるけど、私達だけで倒せるのかな?」


「ああ、簡単に倒せるよ。それにダンジョンに住むゴブリンはダンジョンゴブリンって呼ばれていて、外にいるゴブリンと全く違うんだ。ヤツらはダンジョンの侵入者を殺すためだけに徘徊している。だから……ね」


「え、え、え、『ね』って何なのルーク君!?」


 だ、ダメだ。ルーク君は「アハハハ」と笑って答えてくれないし。絶対に子供が聞いちゃいけいないヤツだよね?


「ちなみにこの階層に出てくるのはゴブリンだけだ。ただ複数で行動してることもあるから、そこだけ注意してくれ」


 そんな話をしていると、通路の先にある曲がり角から1匹のゴブリンが現れた。こちらに気づき、木の棒を振り上げ走ってくる。


「持っている武器は個体によって違うんだ。たまに石を投げてくるヤツもいるので、注意してほしい。今回は木の棒だな。よし、エリンが戦ってみようか」


「えっ? わ、私なの!? 嫌だよ。怖いもん」


「大丈夫。木の棒は最弱の武器だ。エリンならショートメイスを振り回せば一発だよ。あと相手は魔物だ。躊躇ちゅうちょすると、ころ……気をつけるんだよ」


 絶対に今『殺される』って言おうとしたよね!?


 言いたいことだけ言うと、ルークは笑顔でエリンの後ろに回る。それを見てシャルも「エリン、がんばれだニャ」と一声かけて後方に下がっていく。


 小型と言われるゴブリンも、8歳児のルーク達と身体の大きさはあまり変わらない。子供同士でケンカをした経験がないエリンにとって、棒を振り上げ襲ってくるその姿は恐怖だった。


「えっ、ちょ、ちょっと。止まってェェェ!」


 恐怖で目をつぶりながらヤケクソに振ったショートメイスは、ツボを割ったかのような手応えを残す。エリンが目を開けたとき、そこには頭が吹き飛んで後ろに倒れようとしていたゴブリンの姿があった。


「エリン、凄いじゃないか。初めての人型の戦闘は、もっと乱戦になるもんだよ。それを一撃とは、僕が心配する必要はなかったようだ」

「さすがエリン! 次はシャルが戦いたいニャ!」


 へっ?


 必死に振り回したメイスは、どうやらゴブリンの頭にあたったようだ。けど、なんかものすごく脆かったけど、こんなものなの?


 通常、ゴブリンとはいえ8歳児が簡単に頭を割れるほど脆くはない。エリンの腕力の方が常識外なのだ。このとき、既に冒険者以外の大人の男性よりもエリンの方が腕力は強いほどであった。


 ルークはそんな戸惑うエリンを尻目に、ワクワクしながらゴブリンの死骸まで歩いて行く。そして『コレクト』と唱えカード化した。


『コレクションボーナスで魔力が1上がります』


 ルークはゴブリンの魔物カードを、表面にいくつも小さな穴が空いているドロップ化用カードホルダーにしまう。そして「さあ、次はシャルの順番ね。行くよ!」と意気揚々に歩き出すのであった。


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