第34話 ハージマルダンジョン攻略(6)

「マタビ村の戦闘ゴッコの方が、まだ手応えがあったニャ~」


 そう言いながら、シャルはゴブリンの頭上でクルリと回転し、エリンのお店で購入したショートソードでゴブリンの首をはねる。


 着地した瞬間を2匹のゴブリンに狙われるも、シャルはゴブリンの影にそのまま落ちるように消えてしまう。キョロキョロとゴブリン達はシャルを探すが、シャルの気配に気づいたときには首を切り落とされていた。


「ご主人様、シャルの戦い方はどうだったかニャ?」

 

 褒めて欲しいと言わんばかりに、シャルはルークに視線を送る。


「ああ、さすがシャルだ。『影隠密』のスキルもかなりスムーズに使えるようになっていた。日頃のトレーニングの成果がバッチリ出ていたよ」


「3匹相手に1人で倒すなんて凄いよ。シャルちゃん、いつの間にこんなに強くなってたの!?」

 

 2人の賛辞に照れたシャルは、プイッと反対方向を向く。そして「……ん」と一声漏らし頬を赤らめる。その姿に我慢しきれなくなったエリンは、後ろからシャルを抱きしめ頭をよしよしと撫でるのであった。


 遭遇したゴブリンが1匹ならエリン。それ以上いたときはシャルが担当する決まりで、4階層を進んでいく。戦闘を重ねることでエリンも対人戦闘に慣れ、ルーク達は30分ほどで無事4階層を突破した。



 ◇



 5階層へ降りる階段の途中でルークは立ち止まり、2人に向かって話しかける。


「ここがハージマルダンジョンの最下層だ。この階層にはゴブリンファイターが出てくる」


「ルーク君。ゴブリンファイターはゴブリンと何が違うの?」


「ファイターはゴブリンと比べて、体格が二回りぐらい大きく身体能力も高い。まあ、最初に戦い方のお手本を見せるから、よく見ていてくれ」


 そう言うとルークは通路を歩き出す。いくつかの分かれ道を過ぎたとき、正面に5体の人影が見えた。そのうち1体は大人ぐらいの背丈があった。


「あのデカいのがファイターだ。ちょっとここで見ていてくれ」


 ルークはナイフを逆手に持つと、ゴブリンの集団めがけて駆け出す。それに反応するように、ゴブリンファイターはゴブリン達に何か命令をするが、言い終わる前にルークは2匹のゴブリンを斬り倒した。


 ルークは鋭く睨み付けてくるゴブリンファイターを無視して、反撃する時間を与えること無く残り2匹のゴブリンも切り伏せる。

 そしてゴブリンファイターだけになると、ルークは一度その場を離れてナイフをしまう。


「さあ、かかってこい。僕は丸腰だぞ」


 遠くから「危ないよ!」と声が聞こえてくるが、ルークは気にせずゴブリンファイターへ向かって歩き出した。


「グ、グガァァァァ!」


 ゴブリンファイターは手に持つ剣で、ルークに斬りかかる。しかしルークは大人が子供を相手に遊んでいるかのように、あっさりと全て躱してしまう。

 そしてエリンとシャルに向かって話しかける。


「こんな感じだけど、動きはわかったかな?」


 エリンとシャルが首をコクコクと縦に頷くのを見て、ルークはナイフを抜きゴブリンファイター目がけて投げつけた。ナイフが眉間深くに突き刺さると、ゴブリンファイターはそのまま後ろへと倒れ絶命した。


 ルークは何事もなかったかのように、倒した魔物をカード化してまわる。ゴブリンファイターをカード化したとき、いつもの女性の声が頭の中で聞こえた。

  

『コレクションボーナスで機敏が1上がります』


 ルークが1人満足したようにたたずんでいると、呆然としていたエリンとシャルが我に返り近寄ってきた。


「る、ルーク君。武器を持たずに戦うなんて危ないよ。めちゃくちゃ過ぎるよ!」


 心配させないでよと不満を言うエリンと違い、シャルは神妙な顔でルークを見つめる。


「……シャルは今のままだとご主人様の役には立たない。強く……もっと強くなりたいニャ」


 シャルはルークの護衛になり、どんなことからも守り抜くと誓っていた。しかし、その護衛が守る対象よりも弱いのだ。シャルはルークの戦闘を見れば見るほど自信を失っていた。


 ルークはシャルのその気持ちを理解していた。だからこそ優しい言葉では無く、キツい現実とそれに立ち向かう方法を話すことにした。


「シャル。確かに今のままだと僕はシャルに守ってもらう必要はなさそうだ。さらに言うと、僕はどんどん強くなるつもりだ。そのための努力も今以上にする。そうなるとシャルと僕との実力の差は今以上に広がるかもしれない」


「……ん」


「けど、僕はシャルの強さだけを買っているわけじゃない。僕にはできない多様性がシャルにはある」


「……多様性?」


 シャルはうなだれていた頭を持ち上げルークを見る。


「そうだ。僕やエリンは自分の職業を伸ばすことで成長していく。言い換えると、自分の職業以外のことは伸ばせない。けどシャルは違う。シャルの職業『野良猫』は後天的にスキルを覚えていく変わった職業なんだ。だから戦闘以外にも様々な分野でシャルは活躍できる」


 シャルは首をコテッと傾け、不思議そうな顔をしている。


「シャル、僕はどこかに戦争でもしにいくのかい? 僕は腕っ節の強い護衛よりも、いろんな仕事を頼める護衛がほしいんだ。だからSランク冒険者よりも、シャルの方が僕は必要としているんだよ」


 ルークが言い終えると、シャルはルークの胸に飛びついた。顔を隠すように胸に顔を埋めるシャルの頭を、ルークは優しく撫でるのであった。

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