第6話 魔物図鑑

 ——翌日、トーザのお店の掃除を終えたルークが、年相応に目をワクワクさせていた。


「お父さん、今から装備みてもいいかな。もし予算があれば教えてほしいんだけど」


「予算って……おまえは本当に8歳児なのか? いやルーク相手に今更の話だったね。予算は気にせずにとりあえず気に入った物を持ってきなさい。全ての装備を見て考えるから」


 トーザのお店の中は、ほとんどが生活用品などの雑貨が陳列してあるが、小動物を狩りに行く時向けの簡単な装備も取り扱っている。

 ルークはトーザにお願いして、全てのナイフとショートソードをカウンターに並べてもらった。


「じゃあ早速確認していこうか。『コレクト』!」


 並べられた武器を片っ端しにカード化し、名前とランクを紙に記録していく。

 10本ある武器のうちランクがE-の物が2つ、残りはFだった。

 E-の武器を持ち比べ、取り扱いやすかった方のナイフを選んだ。


「お父さん、武器はこのナイフにするよ。あと防具の方も同じように並べてもらっていいかな」


 防具も武器を選んだとき同様に、指先の空いたグローブと一般的な狩り用の服を選んだ。どちらもランクFだったが、機動性と従量を優先して選んだ結果だ。


「ルーク、革のジャケットとかも着た方がよくないか? お父さんはちょっと不安なんだけど」


「いや、この装備で致命傷を負うような攻撃なら、皮のジャケット着ていても無駄だと思うよ。それよりも、このベルトに付けられる鞄と背負えるリュック……それとこの外套も欲しいんたけどダメかな?」


 少し考え込んだトーザに「僕の職業は収集家だからね。鞄は絶対に必要なんだ。外套は使い方によっては立派な防具にもなる」と説明すると、ルークの言う通りにして失敗したことはなかったからなと全て購入してくれることになった。


 自分のお店の物であっても当然お金は支払う。この都市国家バルムでは、売上の3割を所属する商業ギルドに収める必要があるのだ。このお金の内訳は商業ギルドが1割、村や町に税として1割、公庫として1割になっている。


 都市国家バルムには王族や貴族がいないため、各都市や町村の代表者が集められたお金を住民生活の向上のために使う。複数の都市や町村をまたぐような大規模な開発には、公庫に貯蓄されたお金を利用することになっていた。


 こうしてルークは、希望通りの装備を手に入れることができた。

 ミアと家に帰ると、早速買ってもらった装備に着替え森へ出かけることにした。



 ◇



「お兄ちゃん、今日は何して遊ぶの?」


 森の中にあるいつもの遊び場で、ミアはルークに尋ねた。


「今日は魔物を狩ってみようと思う。いくつか実権がしたいんだ」


「わかった。アリスお姉ちゃんとした特訓ごっこみたいなやつね」


「そうだ。あのとき僕は手を出さなかったけ、今日は僕が主体だ。だからミアは手を出さないようにね。スライムか巨大ダンゴムシを見つけたら教えてくれ」


「はーい!」


 ルークとミアは二手に分かれて、遊び場付近にいる魔物を探す。

 少しするとミアがルークを呼んだ。駆けつけてみると、巨大ダンゴムシが地面をノソノソと動いていた。


「ナイスだ。ミアは少し離れていてくれ。それじゃあ『コレクト』……やはりダメみたいだな。生きたままだとカード化できないみたいだ」


「変なの。ヒーリル草はカード化できたのにねぇ」


「そう言われると変だな。なんとなく想像は付くが試してみるか」


 ミアに巨大ダンゴムシを見ててもらい、ルークは近くの草に手を触れ『コレクト』をかけたがカード化はされなかった。そして草を引っこ抜いてから『コレクト』を使うとカード化することができた。


 なるほど……そうなると、これなら巨大ダンゴムシもカード化できるのか?

 ルークは巨大ダンゴムシをトーダからもらったナイフで倒す。表面が少し硬いが、動きは遅く攻撃もしてこないため、子供でも倒すことが出来る最弱の魔物だ。無害そうだが作物を荒らすため駆除対象となっている。


 ルークは巨大ダンゴムシの死骸に触れると、『コレクト』を唱えた。すると巨大ダンゴムシはカードに変化した。


「「おおっ!」」


 ルークとミアは早速カードを見た。


・【巨大ダンゴムシ】ランクG


 予想通りランクはGだった。『リリース』すると外傷もそのままで復元された。

 その後も何体かの巨大ダンゴムシをカード化してみたが、ランクは全てGだった。まあ魔物や小動物を倒しても、カード化すれば子供の身体でも持って帰れるということだ。


「お兄ちゃん! これからどうする。もう帰るの?」


「いや、もう少し魔物を倒すつもりだ」


 ルークにとって、ここからがメインの検証だった。

 女神の洗礼の儀式を受けた者は、レベルが授けられる。レベルは魔物を倒したり、様々な経験を積むことで上がっていく。

 ルークは太陽の女神ノエルから、生涯レベルが1固定になる呪いをかけられた。最初は絶望したルークであったが、ふとあることに気がついた。


 経験値は得られるのか?


 経験値はがレベルが1のままなのか。経験値がからレベルが1のままなのか。この2つは同じ結果に見えるが、それの意味することは大きく違っている。ルークは己にかけられた呪いが、どちらなのか早急に知りたかったのだ。


 職業は経験を得ることで熟練度が上がり、スキルを新たに覚えたり進化していく。呪いにより経験値が得られない場合、下手をすると職業の熟練度があがらない可能性があるのだ。


 ルークは巨大ダンゴムシを倒し続けるが、レベルは上がらずスキルにも変化は見られなかった。


「くそっ! 最悪だ! 経験値がもらえない呪いだったのか……」


 落胆したルークは、無意識に巨大ダンゴムシに『コレクト』をかける。そしてカードを拾ったとき、驚くべき事が起きた。


『【魔物図鑑】にコレクションしますか?』


 頭の中で初めて聞く女性の声がした。



――――――――――――――――

後書き失礼します!


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