第7話 学校

 ルークはミアを見た。ミアの様子に変化は無かった。

 どうやらこの声は俺にしか聞こえていないらしい。


 ……魔物図鑑? 一体何のことだ。そんな物は持っていないぞ。とりあえず質問には返答しておくか。頭に「はい」と思い浮かべた瞬間、巨大ダンゴムシのカードは光に包まれ霧散してしまった。


『コレクションボーナスで腕力が1上がります』


 今日、何度目の驚きだろうか。あまりに予想外の言葉に、頭がフリーズしてしまう。コレクションボーナス? 腕力が上がった? 一体何が起きているんだ?

 呆然としているルークの袖を、ミアがクイクイと引っ張る。


「お兄ちゃん、どうしたの? ずっと固まったままだけど」


「えっ、あ、ああ……。よく分からないんだけど、何か異常なことが僕の身に起きてるみたいなんだ。たぶん職業である収集家の影響だと思う」


「職業……それならステータスを見てみれば? 自分のこと見れるんだよね」


 ナイスだミア! 気が動転し過ぎていて、こんな簡単なことに頭がまわらなかった。ミアの頭を撫でた後、「ステータス」と唱える。


---

【名前】ルーク

【レベル】1(固定)

【職業】収集家コレクター

【スキル】コレクト、リリース

【図鑑】魔物図鑑(1/255)

【称号】太陽の女神に仇なす者

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 オオオォォォォォォォォッ! ステータスに【図鑑】って項目が増えている!

 これって収集家の熟練度は上がっているってことだよな。つまり経験値は得られていたんだ。これなら身体能力は上げられなくても、職業の熟練度は上げていけそうだ。


 今回新しく覚えた魔物図鑑、これは一体どんな能力なんだ? 1/255の1枚は巨大ダンゴムシのカードのことだよな。図鑑について考えていると、頭の中で魔物図鑑が開かれた。そこには巨大ダンゴムシについての詳細情報が書かれており、右上に『コレクションボーナス:腕力+1』と記載されていた。


 ルークはこれが意味することに歓喜し、ミアを高く抱え上げクルクルと回る。


「お、お兄ちゃん。良いことあったんだね。おめでとう。け、けど、怖いからもうそろそろ下ろして欲しいかな……」


「あっ、ごめん。あまりに嬉しいからもう少しクルクルまわるぞ!」


「ヒェェェェェェェ!」


 こうしてミアの絶叫は、もうしばらく続くのであった。



 ◇



 一週間後、今年八歳になった子供達が学校へ初めて登校する日。ルークはアリスと一緒に学校の教室にいた。

 歳は新年を迎えたときに全員上がるため、同じ年に生まれた子供は全て同級生となる。洗礼の儀式に参加した子供達10名が、同じ教室に集まっていた。


「ルーク、どの席に座ればいいのかな?」


「ああ、好きな席に座っていいんだ。だから僕は窓際の一番後ろの席にする」


「えっ、なんでそのこと知ってるの? まあ、いいけど……それじゃあ、私はその隣にしようかな」


 二人が座るとドランが教室に入ってきた。アリスに気づくと、ルークに向かって歩いてくる。


「おい、その席はボクが座る。お前はどっかにいけ!」


「ハァ……ドラン。教会でルークに斬りかかった件で、怒られたんじゃないの?」


「うっ……うるさい! ボクは剣聖だぞ。一緒にパーティーを組む仲間と近くの席がいいんだ」


 洗礼の儀式が終わってから今日までの一週間、勇者アリスと剣聖ドランの教育方針について、町長や司祭のマドリー、学校の関係者が集まり話し合いが行われた。


 二人は英雄職のため10歳になると、大陸最高の教育機関であるアルカディア学園へ行くのは決定済み。それまでの2年間は、この町のスタット学園で学ぶことになっている。


 しかしアルカディア学園に通う生徒はみな優秀で、大半は王族や貴族といった幼い頃から高度な教育を受けている者達。それ以外には少数であるが、各町の学校で非常に優秀な成績を収めた者達がいた。


 そんな大陸中から厳選された生徒が集まる学園へ、この二人は通うことになるのだ。それを考えたとき、この町の学校で学ぶ2年間がどれほど重要なのかは言うまでもない。


 話し合いの中で決まった教育方針の一つに、アリスとドランを同じパーティーにするというのがあり、それらはアリス、ドランの両家にも伝えられていた。


「ハァ……なんで私がドランなんかと同じパーティーを組まなきゃいけないのよ。そんなに近くに座りたいなら、私の前の席にすればいいじゃない。ルークが席を移動するなら、私も一緒に移動するからね」


「グッググググッ……」


 ドランはルークを睨み付けながら、アリスの前の席に座る。

 その会話の間、ルークは二人を全く気にすること無く、この2年間の学園生活をどう過ごすかを考えていた。

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