第37話 女神の宝箱
「魔力って実は色がついてるんだ。魔力の濃度が薄いと透明に見えるんだけど、濃くしてあげると本来の色が見えるようになる。球体が紫なのは、僕の魔力の色が紫だからさ」
2人は「きれい」と言いながら魔力で出来た球体を眺めていた。
「魔力には色がついてるんだよね? 私とシャルちゃんの魔力も紫色なのかな?」
「それはどうだろう? 魔力の色は人によってそれぞれ違うんだ。僕と同じ紫色かもしれないし、全く違う色かもしれない」
「へー。色って人によって違うんだね」
「色によって魔力の特性も変わる。僕の紫色の魔力は、わかりやすく言うと水に近い性質かな。形を簡単に変えられるし、魔力の流れも制御しやすい」
ルークは右手に浮かぶ球体を様々な形に変えてみせた。
「こんな感じに扱いやすい反面、硬さを変えられたり怪我を治せたりと特殊な効果はついてないんだ」
「……ん。けど、レアボスを簡単に倒してた。水で魔物は切れないニャ」
「そんなことないぞ。水だって圧力や密度を変えることで、石や鉄を切れるようになる。『紫月』は紫色の魔力で同じことをしてるだけさ。原理は——」
ルークの話はエリンとシャルには難しすぎたため、2人は自分の魔力の色のことをずっと考えていた。
「——そんなわけで、まずは魔力の制御を練習してもらう。上手く魔力が扱えるようになれば、自分の魔力の色も確認できるようになるよ」
「……魔力の色!? 私とシャルちゃんも、魔力の色を出せるようなるの!」
「ああ、もちろん。しかもそれだけじゃない。錬金術は魔力制御の影響を大きく受けるんだ。僕と同じぐらい魔力制御ができるようになったエリンが、進化や強化のスキルを使ったら……どうなるか見てみたいと思わない?」
「み、見たいよ。ルーク君! 凄く見てみたい!」
「よし! そんなやる気のある2人には、早速今日から宿題を出すことにしよう。僕がいればすぐに習得できるはずだ。楽しみにしていてくれ」
エリンとシャルは嬉しそうに「うん!」と返事をするが、後日このことを酷く後悔するのであった。2人は忘れていたのだ。教えてくれる相手が、あのスパルタ教育の悪魔ルークだということを。
◇
エリンとシャルは、初めてのボス部屋の中を見て回っていた。
ボスはすでにルークが倒しているため、部屋の中は安全な状態。学校の授業だと落ち着いて見られないので、ルークにお願いして時間をもらったのだ。
「ルーク君の話だと、ダンジョンによってボス部屋の作りは全然ちがうんだよね。溶岩が流れている部屋があるとか想像つかないよね」
「……ん。シャル熱いの苦手。寒いのはもっと苦手だから困るニャ」
まるで遠足のように2人はボス部屋を散策していた。
「さあ、そろそろ帰ろうか」
その声にエリンとシャルは頷きながら、ルークの方へ歩いて行く。
ルークはボス部屋の奥にある扉の前に立っていた。
「これが女神の間の扉だよ。ボスを倒すと扉は開くようになるんだ」
そう言うとルークは扉を開き、2人を連れて女神の間へと入っていく。
女神の間は学校の教室ぐらいの広さがあった。部屋の奥には女神像が祭られ、その足下には金色に輝く宝箱が3つ並んでいた。
「「……ゴクリ」」
ルークの後ろから生唾を呑み込む音がした。
「る、ルーク君。あれが……もしかして女神の宝箱?」
「ああ。学校で習ったとおり、女神の間には初回だけ宝箱が用意されている」
女神の間では、初めて入る人数分の宝箱が出現する。これを女神の宝箱と呼ぶ。
そして女神の宝箱は、不思議なことにその冒険者に適した物が入っているのだ。
「好きなの選んで開けていいぞ。女神の宝箱はトラップもないからな」
「……ん。あれれ、これ開かないニャ」
「ああ、開かない宝箱は他人のヤツだ。自分にしか開けられない宝箱があるから、それを探してみてくれ」
エリンとシャルは楽しそうに自分の宝箱を探している。
「はい。この残ったのがルーク君の宝箱だよ。みんなで一緒に開けてみようよ」
「わかった。それじゃあ。せーので開けようか」
「……ん!」
全員、自分の宝箱の前にしゃがみ準備万端。
人生で初めて開ける女神の宝箱は、その人にとって特別なモノが入ってると言われている。実際に前回勇者だったときも、激レアアイテムだった。
ふぅ……ヤバい。ワクワクが止まらない。
「それじゃいくよ」
「「「せーの!」」」
3人は一斉に自分の宝箱を開けた。
ルークが宝箱を覗いてみると、そこには1枚の手紙が入っていた。
『自由になれたようだね。
今度は僕の暇つぶしに付き合ってもらうよ。
あの時みたいに世界を混乱に導いておくれ。
——時の女神クロノアより』
はっ? クロノアからの手紙!? それに世界を混乱に導いてくれってどういう意味だよ。
ルークは戸惑いながらも手紙に手を伸ばす。触れた瞬間、手紙はドロリと血のような赤い液体に変わり、ルークの右手に浸食するように入り込んでいく。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然のルークの叫び声に、エリンとシャルはビクッとする。
ルークを見ると、伸ばした右手を凝視したまま固まっていた。
「る、ルーク君、一体どうしたの!?」
「ご主人様、どうしたニャ!」
「ち、血が……僕の右手に入っていったんだ!」
「急いでステータスを確認する! 状態異常があればそれでわかるニャ!」
ルークはシャルの言葉にハッとし、急いで『ステータス』と唱えた。
---
【名前】ルーク
【レベル】1(固定)
【職業】
【スキル】コレクト、リリース
【図鑑】
魔物図鑑(17/255)
・スタットの町:完成
ダンジョン図鑑
・ハージマル
魔物:完成
アイテム(7/15)
踏破
・1階層:100%
・2階層:100%
・3階層:24%
・4階層:31%
・5階層:27%
素材図鑑(113/500)
・Dランク(9/100)
・Eランク(41/100)
・Fランク(63/100)
ボーナス
・腕力+24
・体力+26
・機敏+27
・知力+35
・魔力+40
【称号】太陽の女神に仇なす者
【称号】時の女神に挑む者(New)
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待て、待て。なんだこの『時の女神に挑む者』って称号は!?
また変な称号が追加されてるじゃないか!
ステータスは……他に変なところはないみたいだな。すぐに対応が必要なわけではなさそうだけど。くそっ、今度はどんな呪いなんだ!?
「ご主人様、どうだった。何か問題あったかニャ?」
ルークはこのままだと2人に不安を与えてしまうので、この称号の調査を後回しにすることにした。
「…………いや、何も異常はなかった。どうやら問題ないらしい。ハハハ」
「なんか大丈夫じゃなさそうだけど」
「本当に大丈夫だよ。それよりも、2人は何をもらえたんだ?」
ルークは話を少し強引に切り替え、エリンの宝箱を覗くと何も入っていなかった。
「ハハハ。それがこんな大きな壺が突然現れて……」
宝箱の横には、エリンの腰のあたりまである大きな壺が置いてあった。宝箱より大きなアイテムが入っている場合、開けると宝箱の近くにアイテムが出現するのだ。
「ああ、それは宝箱より大きいアイテムが入ってたときの現象だ。それがエリンの宝箱の中身で合ってるよ」
ルークはそう言うと壺をじっくりと観察する。
壺の表面は赤黒く禍々しい形をし、人の目や口に見えるような文様が刻まれていた。時折、不気味なうなり声のようなものが聞こえてくる。
「な、なんなんだ。コレ? こんな異様なモノは初めて見るな」
「えっ! ルーク君でも見たことないの? ちょっと、見た目が怖いんだよね」
エリンが恐る恐る壺に手を伸ばし触れてみると、壺の表面の模様が突然生き物のように動きだし、口に見える模様の部分がパクッとエリンの手を咥え込んでしまった。
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