第16話 完了報告

 教会を出るとエリンとシャルが尊敬のまなざしをルークに向けていた。


「2人ともどうした? 僕の顔に何か付いているのか?」


「い、いや。そういう分けじゃ無くて、マドリー様とあんな風に取引できるなんて凄いなぁって思ってたんだよ。けど、何か悪いことしているようにも聞こえたけど大丈夫なのかな?」


 シャルが猛烈に首を縦に振る。


「あの婆さん、口と見た目から想像できないかもしれないけど、儲けたお金でこの町の福祉活動をしているんだ。例えば孤児院を運営していたり、不作だったときに備えた食料の備蓄。貧しい人が病気になったときの治療費の立て替えとか。あっ、今言ったことは絶対に秘密だぞ。これらがバレると脱税しているのもバレるからな」


「うん。絶対に秘密にするよ。それにしてもマドリー様って、そんなことしてくれていたんだね。全く知らなかったよ」


「ルークがケアルの実をメアリー様に売ると、メアリー様は儲かる……のか?」


「ああ儲かるぞ。今、ハイポーションは供給が止まっているから、非常に価格が上がっている。通常なら原材料のケアルの実の価格も高騰するところだが、僕は今までの仕入れ価格で販売すると約束した。だから教会としては原価は変わらず、販売価格が上がる。つまり儲けは大きくなるのさ」


「「…………?」」


「ちょっと難しかったか。まあいいさ。これからしっかり勉強してもらうから、そのうち分かるようになるよ」


 そう言いながらルークは一軒の店に寄った。

 森へ行く前にも寄った『契約屋アラン』だった。ルークは2人を待たせ店の中に入っていく。少しすると袋を抱えてお店から出てきた。


「お待たせ。さあ冒険者ギルドへ行こう」


「ルーク、その袋はカードから戻した……のか?」


「ああ、冒険者ギルドでカードを見せたくないからな」


「さっきのお店に寄ったのは、それが用事だったの?」


「いや違うよ。借りたお金を返したんだ。ハイポーションを作ってもらうのにお金が必要だったからな。事前に借りておいたんだよ」


「エェェェェェェェ! 教会に寄るところまで全て予定していたの?」


「もちろん。ただこんなに上手くいくとは思わなかった。2人のおかげだよ。最高の仲間を持てて僕は幸せ者だよ」


 エリンとシャルは、顔を見合わせて嬉しそうに笑った。8歳児の子供が簡単にお金を借りてくる異常さに気づくことはなかった。


 冒険者ギルドに着くと全員が待っていた。タミルのパーティーはヒーリル草の採取の依頼を受け5本納品。アリスとドランの『英雄の集い』は納屋の鼠退治の依頼を受け失敗に終わった。逃げ回る鼠にしびれを切らしたドランが、ホーリースラッシュを使い納屋を破壊してしまったのだ。修理費用はドランの親である町長に請求されることになった。


 みんなの視線を受ける中、3人は受付の女性に依頼の完了報告を行う。ルークが袋をカウンターで広げると受付の女性は感嘆の声をあげた。


「これは凄いですね。ヒーリル草が20本。しかも綺麗に採取されているので傷みもありません。誰かに採取方法を習ったんですか?」


 エリンとシャルは同時にルークの方を見る。


「ヒーリル草の採取は、小さい頃からやっていたので得意なだけです」


「そ、そうなんですね」


 受付の女性は「今より小さい頃って一体いつからやっているのよ」とツッコミを入れたかったが我慢した。


「これなら一本銅貨2枚で買い取ります。合計で銅貨40枚になりますが良いですか?」


「はい。あとこちらもお願いします」


 ルークはハイポーションを背中の鞄から取り出した。


「これはハイポーション入手の依頼分です」


「こ、これは……ハイポーション!? 生産者は……太陽教の刻印付き! もしかして、教会でハイポーションの販売が再開されましたか?」


「いいえ。販売は再開されていません。これは名前を言えませんが、ある方から譲ってもらいました」


「今、ハイポーションは非常に品薄のため入手に関する情報があれば、購入いたしますが如何されますか?」


「すみません。ハイポーションを譲ってもらう条件か匿名にすることなので、教えることはできません。それに手持ちの最後の1本らしく、入手の伝があるわけではないので情報としても価値がないと思います」


「そういうことでしたら仕方が無いですね。それではハイポーションは依頼通り銀貨7枚で買い取ります。こちらが今回の報酬になりますので確認をお願いします」


「はい。確認しました」


「今回の結果はいずれも評価の高いものでした。その分もきちんと冒険者ポイントとして加算されますので、今後も引き続き頑張ってください。今回はありがとうございました」


 そして受付の女性は周りを確認した後、ルーク達に小声で話しかける。


「私はメアリーといいます。もしよければ次回以降も私に声をかけてください。皆様のお役に立てるようがんばりますので」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 3人はペコリと頭を下げると先生達の方へ戻っていった。

 メアリーは、いつの間にかベテラン冒険者を相手にしている気になっていた自分に失笑する。そしてこの子供達はいずれ名のある冒険者になると確信を深めたのであった。


 3人はシエル先生のところに戻ると、依頼結果を報告する。

 それを聞いていた他の生徒達がザワつきだした。


「今、2つも依頼を達成したと言ってたよ」


「ボクたちはヒーリル草5本で銅貨3枚だったのに、ルーク君たちは20本で銅貨40枚だって。なんでこんなに違うんだ!?」


「ぎ、銀貨7枚だって! そんな大金もらえるなんて凄いよねぇ!」


 これにはシエルも内心驚いていた。

 『英雄の集い』の依頼結果もありえない内容だったが、この『月夜の宴』の依頼結果はもはや異常。Cランクの冒険者でもこんなに早く達成するのは難しい。それを8歳児のパーティーが初めての依頼で達成したなんて……ありえない。

 たとえパーティーにがいたとしても、ここまでの結果は出せないはず。


 そしてシエルはルークとシャルを見て思う。

 これは楽しみが増えたわね。

 

 その脇ではドランが「グギギギッ……」と歯ぎしりしていた。アリスはそんなドランとルークを見てため息が出た。


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