第10話 エリンの悩み

 ルークが素材図鑑を覚えてから一週間が過ぎた頃、学校のグラウンドに生徒が集まっていた。


「みなさん基本的な読み書きができるようになってきましたので、今日は自分のスキルについて学習します。スキルは職業によって違います。これらのスキルは自分に合ったものを覚えますので、お友達と比べる必要はありません。どんなに凄いスキルでも、自分に必要の無いスキルだったら意味がないですよね?」


 担任のシエル先生の言葉にほとんどの生徒が「はーい」と返事をする中、ドランはニヤニヤと笑いを浮かべていた。そんなのは綺麗事で職業やスキルの優劣はある。ザコスキルしか覚えられないなんて、みんな可哀想すぎる。そう優越感に浸っていたのだ。


「それでは少しの間、自分のスキルを試してみてください。攻撃系のスキルの子は専用の訓練場がありますので、私について来て下さいね」


 そう言うとシエル先生は、アリスとドランとサミエルとトムの4名を連れて行く。サミエルの職業は剣士でトムは木こり。二人は入学早々にドランに絡まれ、今では舎弟のような立場になっていた。


 ルークはアリスの視線に気づいたので手を振ると、アリスが舌をべーっと出した。女心は難しいもんだと思いながらルークは花壇へ歩いて行った。


 おっ、結構いろんな種類の植物が植えられているな。さっそく片っ端から試してみるか。


 ルークは周りに人がいないことを確認し、傷めないように植物をこっそりと抜いて『コレクト』でカード化。素材図鑑に登録されるか確認後、カード化を解除し元に戻す。これを花壇に植えられている全ての植物で試した。


 その結果、2つの植物が素材図鑑に登録されたことをルークは喜んだ。そしてステータスを唱え図鑑とボーナスを確認する。


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【図鑑】

 魔物図鑑(9/255)

 ・スタットの町(9/9)

 素材図鑑(48/500)

 ・Eランク(5/100)

 ・Fランク(43/100)

 ボーナス

 ・腕力+10

 ・体力+10

 ・機敏+12

 ・知力+14

 ・魔力+16

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 一週間で素材を48種類見つけていた。この48種類の半分ぐらいは肉魚野菜などの食材であった。


 ボーナスもかなり増えている。腕力や体力といった項目は、前回勇者だったときには存在しなかった。もしかすると職業にもあるのかもしれないが、俺にとっては初めての経験。腕力や体力といった値が、1つ増えることでどのぐらいの効果があるかは自身で試しながら把握している最中だ。


 感覚的でしかないが今の俺の身体能力は、前回勇者だったときのレベル5相当と感じている。勇者の身体能力は他の職業と比べてかなり優秀。さらに入学して一週間ぐらいしか経っていないことを考えると、凄いと言うより異常と言えた。


 ルークが花壇からグラウンドに戻ると、一人の少女が話しかけてきた。普段、他の生徒とほとんど交流を持たないルークにとって珍しいことだった。


「あのぉ……ルーク君って勉強できるから、もし知ってるなら教えて欲しいんだけど……」


「ん? ああ、何がしりたいの?」


 話しかけてきたのは錬金術師のエリンだった。エリンは人族とドワーフ族のハーフで、茶色の髪をした小柄なメガネっ娘。父親はドワーフ族で鍛冶師をしている。


「実は……スキルが使えないの。先生にも相談したんだけど、言われたとおりやってもスキルが発動しないの」


「錬金術師のスキルって『錬金』だったか……確か素材Aと素材Bを組み合わせて素材Xを生み出すスキルのはず。使い方はスキルと一緒に覚えるから、その通りやればいいんじゃないのか?」


「えっ? AがBでX……ルーク君が何を言ってるのかよく分からないけど、わたし『錬金』のスキルは覚えてないよ。『強化』と『進化』ってスキルを覚えているんだ。それを先生に話したら『強化』は鍛冶師、『進化』は熟練の錬金術師が覚えるスキルだから、わたしが覚えているのはおかしいんだって」


「よく分からないけど、覚えたスキルを使えればそれで良いんじゃないのか? 『強化』と『進化』は使ってみたのか?」


 エリンは両手を胸の前で握りながら、不安そうに頷く。


「頭の中にある通り『強化』と『進化』を使ってみたんだけど、全く発動できないの。わたしが錬金術師で良かったって喜んでいたお父さんも、すごくショックを受けて……」


「そうなのか。それじゃあ『強化』の使い方を教えてくれ。いろいろ試してみよう」


 ルークのその言葉に沈んでいた顔がパアッと明るくなった。


「あ、ありがとう。すごく嬉しいよ! 使い方は簡単なんだ。同じ素材を2つ以上集めて『強化』と唱えるだけ。けどスキルが発動しないんだよね」


「…………もしかして……レアなのか」


「えっ? なになに。何かわかったの?」


 ルークは返答することなく地面に落ちている小石を2つ拾いエリンに渡す。


「その小石で『強化』を使ってみてくれ」


 そう言うとルークはエリンの左手の甲に、自分の手を重ねた。


「ちょ、ちょっとルーク君、なんか手が——」


「気にしなくていい。そのままスキルを使ってくれ」


「えっ、あっ……ひゃ、ひゃい。そ、それじゃあ、いくよ」


 エリンは顔を赤くしたまま、両手を合わせるように小石を持ち『強化』と唱える。しかし少し経っても両手の小石に変化はなかった。


「失敗しちゃった。ルーク君がいるから、もしかしたら出来るかもって思ったけど、やっぱりわたしにはムリなのかな……」


「この実験でわかったことがある。君のスキルの発動方法に問題は無い。ちゃんと魔力は注がれていた。スキルが発動しないのは素材が原因だよ」


「エェェェェ!? 今のでそんなことがわかっちゃったの!」


 エリンは黒髪の少年の言ったことに驚いた。シエル先生と2時間一緒に調べて分からなかったことを、たった一度の実験で素材が原因だと言い切ったのだ。

 そして黒髪の少年は腰の鞄から取り出した二枚のカードをエリンに見せる。


「今度はこの2枚のカードを使って『強化』をやってみてくれ。やり方はさっきと同じでいいよ」


「えっ、このカードが素材ならスキルは成功するの?」


「君のスキルが僕の考えている通りなら、このカードなら成功するはずだ」


「よ、よくわからないけど、とりあえずカードを強化すればいいんだね。やってみる」


 エリンは2枚のカードを両手で挟み『強化』を唱える。すると両手が淡い光に包まれた。光が消えた後、エリンはポカーンとしながらルークの顔を見る。


「あれ? アハハハハ。本当にできちゃったみたい」


「スキルの効果を確認するからカードを僕に返してくれ」


「え、あ、うん。はい、これがカードだよ。あれ? カードが1枚しかない」


 ルークは何も言わずエリンから1枚のカードを受け取ると、すぐにカードを確認する。


・【小石】ランクG+


 ルークはエリンから見えないようにガッツポーズをした。ランクGの小石のカード2枚が、エリンの『強化』でランクG+になったのだ。まさしく強化! このスキルは絶対にほしい! なんとしてでも手に入れてやる!


 障壁になりそうなのはアイツか……先に手を打っておく必要があるな。



――――――――――――――――

後書き失礼します!


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