第25話 錬金釜

 翌日、学校が終わりいつもの森の遊び場にルーク達は集まっていた。


「ちょっと早めだけど、今日の勉強はここまでにする。実はエリンに渡したいモノがあるんだ」


 そう言うとルークはベルトに付いているカードケースから1枚のカードを取り出した。このカードケースは昨日ドンカに制作依頼したカードケースである。


 リザードマンの皮を使うことで軽量ながらも耐久性は高く、カードの蓋の留め具にはミスリルが使われている。特殊な製法でルークの魔力でしか開閉できない仕組みになっていた。


 これを学校でエリンから渡されたとき、ルークは教室で小躍りしたぐらい気に入っていた。


 そしてルークは取り出したカードを地面に置き『リリース』と唱える。

 すると樽ぐらいの大きさの錬金釜が現れた。


「これって錬金釜!」


「そうだ。これはエリン専用の錬金釜。性能は折り紙つきだ。この辺の町ではまず売ってない」


「えっ、ちょ、ちょっとルーク君。そんな凄いモノを私が使っていいの? だって私、『錬金』スキルが使えないんだよ!?」


「アハハハ。だから錬金釜を用意したんだよ。錬金釜は『錬金』スキルの成功確率や品質を上げる効果がある」


「うん。それは知ってる」


「高性能な錬金釜になると、釜本体に様々な魔法陣が内包される。ちなみにこの錬金釜に内包されている魔法陣は……『錬金』だ!」


「錬金釜に『錬金』?」


「不思議に思うかもしれないが、これにより使用者の『錬金』スキルの性能を上げたり消費魔力を減らす効果があるんだ。つまり、これならエリンも似非エセ『錬金』が使える!」 


「え、エセ錬金なんだね……嬉しいような。悲しいような複雑な気分だよ」


 ルークは「気にするな」と笑いながら、錬金釜にヒーリル草と水を入れる。そしてエリンに釜を使ってみろと促した。

 エリンは緊張しながら錬金釜に両手を添え「錬金」と発声し魔力を込めた。すると錬金釜が輝き、中にあったヒーリル草は消えて緑色の液体だけになっていた。


「で、出来たよ! ルーク君、私でも作れたよ!」


「……ん! エリンおめでとニャ!」


「良かったな。これで毎日ポーションが作れるぞ。安心してくれ在庫は気にする必要はない。余っても売る先は確保済みだからな」


「えっ? えっ?」


「アハハハ。大丈夫。僕はいろんなレシピを知っているからね。ポーション以外にもちゃんと教えるから心配しないでいいよ」


 これを使って『錬金』できるようになれば、お父さんも喜んでくれるよね。けど、おかしいんだよね。嬉しいんだけど、なぜか喜んじゃいけないような気がしてるんだ。


 あれ……そういえば、この錬金釜はこの辺りじゃ買えないって言ってたけど、ルーク君はコレをどこで手に入れたんだろう?


「この錬金釜をどこで手に入れたかって? エリンも気になるか」


「いや、まだ聞いてないんだけど!?」


「みんな、絶対誰にも言うなよ。この錬金釜はマドリー司祭に調達してもらったんだ」


 うん。なんとなく想像ついてたよ。マドリー様ってルーク君の悪友みたいな感じだもん。


「エリンのこと話したら、すごい乗り気になってさ」


「えっ? 私のスキルのこと話したの!? 契約魔法したから他人に話せないんじゃ……」


「ん? あれはエリンが約束を守るって契約だからね。僕には適用されないよ。けど安心してほしい。僕は誰にもしゃべらないから」


「いや、マドリー様に思いっきりしゃべってるから!?」


 ルークは「アハハハ」と笑い、首を左右に振る。


「エリン、僕はこう考えている。『月夜の宴』の太陽教担当者がマドリー司祭なんだ。そう考えれば全く問題ない。現にそう動いてくれているしね。あの人、絶対に女神なんて信仰してないよね」


 あっ、言っちゃった。ルーク君、それは公然の秘密ってお父さんが言ってたよ。

 それに、いつの間にかマドリー様が『月夜の宴』のメンバーになっているし。

 もう無茶苦茶すぎるよ、ルーク君!


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