第4話 『コレクト』と『リリース』
ルークとアリスの家は近所のため、2つの家族は一緒に帰路につく。
その道中の話題は、アリスが勇者になったことについてだ。それ以外にも沢山の出来事があったが、町中を歩きながら話すには気が重かった。
アリスはパーティーの件についてルークに話しかけるが「僕は疲れた。また今度聞くよ」とノラリクラリと流される。アリスはため息をひとつ吐き、この件について問い詰めるのをあきらめることにした。
そして、両家はそれぞれの自宅に着いた。
ルークの家は、町の外れにある木造の一軒家。周囲は策に囲まれており、小さな畑もあった。父親のトーザと母親のハルナは、町中にある小さな道具屋を営んでいる。
5歳の妹のミアとルークは、毎朝お店の掃除を手伝った後は、自由に使える時間。ルークはその時間を使って、アリスとミアに文字の読み書きや、簡単な計算を教えていた。そして遊びと称して勇者になるための特訓をアリスにつけていたのだ。
しかし、その神童っぷりはルーク本人の希望により、ルークとアリスの両家だけの秘密。ただマドリー司祭のように、普段の会話や仕草からそれに気づく者も数人いた。
「さてと、今日はお店が休みだよね。僕は自分のスキルをいろいろ試してくるよ。ミアも一緒に行くかい?」
「うん。お兄ちゃんのスキル見たい!」
そして二人は家を出ると裏にある森へと入っていく。この辺りは弱い魔物しかいないのと、アリスの特訓でよく来ていたのでルーク達の間では遊び場のような感じになっていた。
二人はいつもの丸太に座った。
「お兄ちゃん、どんなスキルを覚えたの?」
「2つある。『コレクト』と『リリース』だ」
「使い方はわかるの?」
「ああ、わかるぞ。スキルを覚えたときに、簡単な使い方も一緒に頭の中に入るんだ。けど詳しい使い方は、実際にスキルを使って覚えていくしかないんだ。だからミアもスキルを覚えたら沢山使ってみるんだぞ」
「うん! ねえねえ。早く使ってみてよ」
ルークは頷くと、近くに落ちていた小石を拾う。手に持った小石をミアに見せながら「コレクト」と唱えた。すると手の平から小石は消え、1枚のカードが残っていた。
「えっ!? 石が消えちゃった!」
「そうだね。それじゃあ、手の平にあるカードには何が書いてあるか見てごらん」
ミアはルークの手から1枚のカードを持ち上げ、自分の目の前に持ってくる。
「小石の絵が描いてある。そして名前のところに『小石』って書いてあるよ。あとは……ダメだ。お兄ちゃん、これなんて書いてあるの?」
「どれどれ……それは『ランク』って書いてあるんだ。つまりそのカードの価値だな。ランクG、つまりクズアイテムってことだ」
「これって、もしかしてお兄ちゃんのスキルで小石がカードになったの?」
「その通りだ。さすがミアだ。お兄ちゃんの次に頭がいいな」
「エヘヘヘ。ミアはお兄ちゃんの妹だからね」
ルークは笑顔でミアの頭を撫でる。この調子で成長し、将来は俺を支えられるぐらいになってもらわないとな。そう言えば、最近同年代の友達と遊んでいるところを見なくなったな。俺とアリスと一緒にいることが多いのもあるが、以前はもっと遊んでいたはずだ。
「ミア、前までよく遊んでいたチカちゃんやユウくんはどうした? 最近見ないけど」
「あっ、みんなと遊んでもつまらないから、アリスお姉ちゃんと遊んでいるんだよ」
「つまらない? どうした、何か嫌なこと言われたりしたのか?」
「違うの。お買い物ごっこしても、原価や粗利とかの話をするとみんな嫌な顔するんだよ。取引先や仕入れ先、在庫とかの設定はどうするのって聞くと、そんないらないって言うし……」
「あっ、なるほどな。競合相手をどうやって蹴落として成り上がるかってところが面白いのに、その辺の設定が曖昧だと楽しめないよな」
ルークは自分とアリスにミアを付き合わせたことで、友達付き合いが悪くなったかと心配していたが、どうやら杞憂だったらしく安堵した。
しかし、同世代の遊びから大きく逸脱しているのは、この二人の方だということに気づくことはなかった。
「話が脱線したけど、今からもうひとつのスキルを使うから見ていてくれ」
ルークはそう言うと、カードを手に持ち「リリース」と唱える。するとカードは消えて、手には小石が置いてあった。
「エェェェェェェェ! お兄ちゃんのスキルって、カードにしたり戻したりできるってことだよね!? 凄い!」
「ああ、実は僕もこのスキルに感動しているところだ。今度は大きい物をカードにしてみよう」
それからルークは、近くにある様々な物に『コレクト』を試してみる。
「なるほどな……どうやら同時に5枚までしかカード化できないようだ」
「あの丸太はどうしてできなかったの? 3枚しかカードにしてなかったよ」
「たぶんだけど、対象のサイズにも制限がありそうだ。厳密に言うと体積だな」
「体積ってなあに?」
「それについては今度アリスと一緒のときに教えるよ。簡単に言うとお父さんの水筒ぐらいまでならカード化できる感じかな」
ルークは実験の結果を頭の中で整理する。この能力を使えば荷の持ち運びに重宝するだろう。一度にカード化できる対象は1つに限られる。つまり石10個を1枚のカードにすることはできない。
しかし、これには抜け穴があった。石を袋に入れることでカード化できたのだ。もちろん『リリース』で元に戻した袋の中には、石が10個入っていた。
「ミア。僕のスキルで何か気づいたことはあるかい? 何でもいいから気になったことがあれば教えてくれ」
「それじゃあ、カードをミアに貸して」
ルークは言われた通り、ヒーリル草と小石のカードを渡した。
ヒーリル草とは回復ポーションの原料となる草だ。
「うーん。お兄ちゃん、見比べたいからもう1つ小石のカードをちょうだい」
足下に落ちている小石に『コレクト』を使い、カードをミアに渡す。
「アハハハハハ。これ面白い!」
「どうした? 何か発見したのか?」
ミアはウッシシシといたずらっ子のような表情で、2枚のカードを裏にしてルークの前に並べた。
「今、お兄ちゃんがミアに渡した小石のカードはど~っちだ? 当ててみて!」
ルークは裏になっているカードの表面をそれぞれ触る。
「こっちだぞ」
「えっ? なんでわかったの?」
「カードに触れると、カード化する前の状態がはっきりと分かるんだ。なるほど……ミアの様子を見ると、これはスキルの持ち主である僕だけかもしれない」
「えー、つまらない。これならお兄ちゃんを騙せると思ったのに」
そう言うとミアは2枚のカードを表にする。
「お兄ちゃんが、どっちを指差しても『ブップー、間違ってまーす』って言うつもりだったのに——えっ、お兄ちゃん、どうしたの?」
ルークは2枚のカードを見て固まっていた。そこには全く同じカードが2枚並んでいたのだ。カードの絵柄は特徴を捉えた絵になっていた。まるで図鑑に描かれている絵のように。
「どうしてこんなことに気づかなかったんだ。……あっ! カードに触れたまま解析していたから、頭の中では別々のカードにしか見えなかったんだ」
ルークはすぐにヒーリル草を見つけてきて、『コレクト』を使い手持ちのカードと見比べてみる。2枚のヒーリル草のカードは、全く同じものだった。
この現象にはきっと使い道があるはずだ……まさかっ!
ルークは1枚のヒーリル草のカードを『リリース』で元に戻す。そして、思いっきり踏みつけた。
「お、お兄ちゃん。何してるの!?」
「見ればわかるだろ。踏みつけてるんだ。本当なら枯れそうなヒーリル草がほしいところだけど面倒だからな」
そしてルークは傷んだヒーリル草を『コレクト』でカード化し、2枚のカードを見比べてみた。
「アハハハハハハ、やはりそうだ! 面白い。このスキルは面白いぞ!」
ミアはルークの隣へ移動し、カードを覗き見た。
・【ヒーリル草】ランクF
・【ヒーリル草】ランクF-
「あっ! ランクが変わってる!」
「そうなんだ! このスキルは鑑定としても使えそうだ!」
「よかったね、お兄ちゃん!」
二人は笑いながらハイタッチを交わすのであった。
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