合流者

 一時間が経った。その間、車内は静かで、嵐が来る前の静けさを感じた。


「来たわ」


 車内に着信音が鳴り響く。


「大事なことだから、みんなに聞こえるようにスピーカーにするわ」


 ルカは、スピーカーにしてから、電話に出る。


「もしもし、ルカよ」


『お、ルカだな。待たせたな! 監視カメラを調べて、わかったことを言うぜ!』


「えぇ、教えてちょうだい」


『まず、そこの埋め立て地に通っている車は、四台だ。四台とも、四人乗りの軽自動車だな』


「てことは、相手の人数は多くても十六人?」


『そういうことになる。歩いて橋を渡っている人は、映っていなかったから、多くて十六人な可能性は高そうだ』


「他に分かっていることは?」


『これは、埋め立て地じゃなくて、ルカの父親が誘拐された場所周辺の映像を調べてわかったことだが、犯人達は一度、この廃ビルに移動していた』


 虎丸は、そう言うと、廃ビルの写真をルカの携帯に送ってきた。


「随分年季が入っているビルね。一体なんのビルかしら?」


『ここのビルは、水井物産って会社が所有していたビルだ』


「水井物産? 初めて聞く名前の会社ね」


『知らないのも無理はない。気になって、調べて見たら、この会社は十五年以上前に倒産していた』


「十五年前……」


 ルカは、言葉を詰まらせた。


『だけど、十五年前に倒産した会社なんだが、俺とルカには縁がある会社だぞ』


「縁がある? どういうことかしら?」


『静香のとこにいた執事。先日、捕まったんだよな。スイってやつだ。その男の苗字が水井って苗字だった』


 犯行グループは、水井物産のビルを使用している。てことは、犯行グループは、水井物産の関係者なのだろうか。


「スイが……。てことは、今まで起きた事件って全て繋がっていたの?」


『そうみたいだな。スイから何か情報を引き出せればいいが、連中も知っているだろうから、悠長に待つのも危険だと思うぜ』


「警察に、この埋め立て地へ向かわせることはできる?」


『できると思うが、肝心なルカのパパが映っている映像がない。犯人の特徴も掴めていない。ただ怪しい人物が、埋め立て地にいるってことだけだと、警察は動かないだろうな』


「このGPS情報は?」


『そうか。それなら、動いてくれるかもしれないな。誰か、頼める人はいるか?』


「ジジがいるわ。ジジ、この名刺に書いてある電話番号に連絡してちょうだい。病院内であった警察官に渡された名刺よ」


 ルカは、そう言うと、警察官から貰った名刺をジジに渡した。


「了解致しました。すぐに、ご連絡させていただきます」


 ジジは、頷いて受け取った。


『ルカ。どうせ、警察が動き出す前に行くつもりだろ?』


「はいって言いたいけど、私は現場に行っても、足手まといになるだけだわ。実際に行くのは、信達よ。私の命令で、命を危険にさらしたくないわ」


 ルカは、そう言うと信とジジを交互に見る。


「信、ジジ。私は、強制できないわ。助けに行くかは、自分自身の判断に任せるわ。断っても、私は文句を言わないって約束する」


 ジジと信は、お互いの顔を見て、頷いた。


「ルカお嬢様。問題ありません。自分は、優助様を助けに行きます」


「わしも助けに行きますぞ」


 それを聞いて、ルカは頷いた。


「信、ジジ。ありがとう。虎丸聞いた?」


『あぁ、しっかり聞いたぜ。二人だけだと心配だろうから、黒田財閥からも信用できる人物を送る。協力して、ルカの父親を救い出してくれ』


「それにしても、虎丸。随分手厚いわね」


『テンリ財閥に貸しを作っておきたいからな。これからの世の中、テクノロジーとは切っても切れない関係になっていく。テクノロジー関係で、何かあった時は、テンリ財閥の地方を借りるぜ』


「わかったわよ」


 ルカは、顔に笑みを浮かべながら言った。


『行くって決まったなら、話は早い。集合場所は、埋め立て地の近くにある、この場所でいいか? 黒田財閥のグループ会社が管理している建物だ。中には、誰もいない』


 ルカの携帯に、集合場所である建物の位置情報が送られて来た。


「問題ないわ。電話を切ったら、すぐに動き出しても構わないかしら?」


『あぁ、問題ないぞ。俺から送る応援も、三十分後に着くはずだ』


「わかったわ。じゃあ、信とジジは集合場所で待機しているわね」


 ルカは、そう言うと虎丸との通話を終えた。


「信、ジジ。無茶をしないでね」


 ルカは、心配そうな声で、そう告げた。




「ここが、集合場所の建物」


 信の前には、二階建ての建物が建っている。


 事務所として建てられた建物のようだ。人の気配は感じない。


「信殿。お持たせ致しました。警察に連絡しておきましたぞ」


 ジジが、信の隣に来る。


「ジジさん。建物の中に入ってみますか?」


「そうですな。虎丸様の指示だと、建物の中に待つように言っておりましたぞ」


「わかりました」


 信を先頭にして、信とジジの二人は建物の中に入る。


 建物の中は、暗く目の前の視界もわからなかった。


「暗いですな」


「そうですね。ジジさん少し待ってください。電気のスイッチを探します」


 信は、携帯のライト機能を使うため、携帯を取り出した。


「……!? 信殿危ないですぞ!」


「な!?」


 信が、携帯の光を照らした瞬間、目の前に人影が現れた。人影は、何かを振りかぶった様子を見せる。


 敵!? もしかして、電話を盗聴されたのか!


 信は、とっさに避けて黒い人影による攻撃を回避する。


「信殿! 大丈夫か!?」


「な、なんとか、大丈夫です!」


 信は、すぐに体を起こそうとした。


「ん? 信?」


 人影が、信の名前を呟いた。


「どうして、俺の名前を知っているような口調で話す」


 起き上がろうとしていた信の動きは止まった。


「貴様は、一体誰だ!?」


 ジジは、その人物に光を照らした。


 あ、この人は確か。


「執事対抗戦の時にいた総仁さん!」


 信は、嬉しそうな声で言った。単眼眼鏡をかけた虎丸の執事だ。


 心強い味方が来てくれた。執事対抗戦の時、一緒に競い合った執事だ。


「お久しぶりです。ここは、敵の拠点近く、警戒をしておりましたので、攻撃してしまいました。どうか、ご無礼を許して下さい」


 総仁は、信に手を伸ばす。


「いいえ、気にしないで下さい」


 信は、総仁の手を借りて立ち上がった。


「ふむ。総仁殿。その名前、聞いたことがありますな。黒田財閥に仕える執事で、黒田財閥の社長からも、気に入られているって聞いている」


「そういうあなたは、テンリ財閥のジジ。テンリ財閥が、ここまで成長したのは、ジジのサポートがあったと、同業者の間では有名な話だ」


 信は、総仁とジジを交互に見る。


 この二人、雰囲気というから、オーラまで似ている。執事は、熟練まで行くと、こんな雰囲気になるのか。


「ほっ、ほっ。それは、大袈裟な話ですな。私は、既に老体の身。残る仕事は、経験を生かして、こういう大きな仕事をこなすことと、新人の育成ですな」


「はは。ご謙遜を、今回の仕事ぶり、部下として見本にさせていただきます。二階から、敵が拠点にしている埋め立て地を見ることができます。どうぞ、上へ」


 信とジジは、総仁の案内に従って上に上がる。総仁は、扉の前で、止まった。


「信。二階から、敵の拠点が見えるということは、相手からも見えるということ、ライトは照らさないでください」


「わかりました」


 信は、総仁に頷いて返事をする。総仁は、返事を聞くと、部屋の扉を開けた。


「信、ジジ。こちらに来てください」


 掃除は、部屋の中に入ると、窓際の所まで誘導する。


「東京湾の海を隔てて、見える所が、優助様が囚われている可能性が高い、埋め立て地です」


 東京湾の向こうに、建物が点在する小さな離島みたいのが見える。あそこが、埋め立て地なのか。


「ふむ。暗くて、細かくは見えませんな」


 ジジは、目を細めながら言った。


「そう言うと思って、これを用意しています」


 総仁は、近くの段ボールから、双眼鏡を二つ取り出した。


「これは、双眼鏡ですね。これで、見えるんですか?」


「これは、黒田財閥が開発した暗視ゴーグルになります。本来は、防犯カメラに備えていた機能です。虎丸、坊ちゃまが『双眼鏡に暗視機能あったら、超かっこいい!』って要望で製造しました」


 前から思ったが、虎丸の権力強くないか? 虎丸の要望に応える黒田財閥の技術力もすごい。


「確かに、これは便利ですな。よく視えますぞ」


 ジジは、さっそく暗視ゴーグルを使っていた。信も、ジジの様子を見て、早速使ってみる。


 確かに昼間のように明るい。これは、便利だ。


「総仁殿。白く映っている影は、なんですかな?」


「拡大して見れば、人影になります」


 ジジは、双眼鏡をいじって、もう一度見る。


「しっかり人影になりましたぞ。見えている限りでは、人数は、五人ぐらいですな」


「私も、確認していましたが、外の警備は五人で回しているようです。建物中に、倍の人数がいると考えれば、虎丸坊ちゃまの言う通り、多くても十六人だと考えられます」


 相手は、十六人だと仮定して、俺達は三人。人数差は五倍以上になる。


「虎丸殿。一つ質問をしていいかな?」


 ジジは、双眼鏡から目を離して、虎丸の方を見る。


「なんですか?」


「最初の難関は、埋め立て地に向かうルートですな。先ほど、地図で確認したところ、二本の橋が確認できた。しかし、相手も当然ながら橋を警戒しているはず。何か、考えはあるのですかな?」


 総仁は、そう言うと一枚の紙を、ポケットから取り出した。


「あの橋を建設したのは、黒田財閥です。ちゃんと設計図も保管しておりました。確認したところ、点検用に橋下に人が通れる道が作られています。その道を使えば、確実かと。小型のボートで下を確認しないと、視認できないので、敵も気づいてはいないはずです」


「それで行こう。それで、その後の作戦だが……」


 ジジは、作戦内容を信と総仁に伝えた。

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