執事対抗戦一種目目
「みんな。集まってくれてありがとう!」
虎丸は、自分の執事が持って来た台の上に乗り、大きな声を出す。
「ルカお嬢様」
「どうしたの、信? 今いいとこよ?」
「この執事対抗戦が、開かれた理由はなんですか?」
「話を聞いていればわかるわよ」
信は、それを聞いて、虎丸の方を向いた。
「さぁ、今回の執事対抗戦は、この学科内で最強の執事は誰かを決める争いだ。うちの執事が最強だって、自信があるやつはいるかー!?」
『おー!』
みんな、拳を上にあげて大きな声を出した。
すごい熱気だ。
「今回の執事対抗戦は、三つの競技を行う。その、総合得点で、最強の執事を決める。一種目は動体視力! 自分の主を危険から守るのも執事の役目。瞬時に危険から守らないといけない。それには、早い瞬発力、動体視力が必要だ」
虎丸が、そう言うと白衣を着た人達が、大きな白い布を被せた物を台車に乗せて持って来た。
「なんだあれ?」
成人男性と同じくらいの高さで、横幅が大きい。
「これは、黒田財閥が試験的に作り上げた、動体視力と瞬発力を同時に測定できる画期的な機械だ。布をとれ!」
『はっ!』
白衣を着た人が声を揃えて返事をし、布を取り上げる。
布の下から現れたのは、赤色のボクシンググローブをした人型の機械だった。
「虎丸。これが何か、わかりやすく教えてちょうだい」
ルカが、手を上げて虎丸に質問をした。
「これは、人の動きに合わせて、パンチを繰り出す。ピッチングマシンではなく、パンチングマシンだ!」
「どこに予算をかけているのよ」
ルカは、頭に手を当てて大きくため息をついた。
「ルカ。ため息をつくのは、まだ早いぞ。これは、スポーツ連合と協同研究して創り出した機械だ。ちゃんと、科学的根拠を基づいて制作しているぞ!」
虎丸。アイデアが奇抜すぎるぞ。
「ちゃんとした機械であることを期待しているわ」
ルカは、呆れた声で返事をした。
「早速、最初の挑戦者はいるか!?」
虎丸は、周りに声をかけた。
「へへ。坊ちゃん、俺、行って来ていいですかい?」
「あぁ。いいぞ。行って来い」
舌を垂らしながら、肌黒い男が前に出てきた。猫背で前傾姿勢をしている。
俺と同じジャージを着ているぞ。てことは、あいつも執事なのかよ。執事に全く見えない。
「最初の挑戦する執事は君だな!?」
「あぁ、俺だ」
「君、どこかで見た事あるね」
「元ミドル級王者ジームだ」
「あ、そうだよな! 小学生の時に、テレビで見たことがある!」
「へへ。俺が、いきなりトップに立つことになるがいいかい?」
ジームは、余裕そうな笑みを浮かべる。
「もちろん大歓迎だ。レベルは十段階あるけど、どれがいいんだ? レベルごとに一発避けられれば、貰える点数が変わる仕組みだよ」
「わかりやすいルールだ。レベル十で構わんよ」
「本当に?」
「へへ。本当だ。遠慮をしなくて良い。避けに避けまくって、圧倒的な差を見せつけてやる」
「元プロボクサーが相手か、これは良いデータが取れそうだ!」
虎丸は、白衣の人達に目線を向けた。
白衣の人達は、頷いて、データを取る準備をする。
「一応言っとくけど、当たったら分かるようにグローブに水性の赤インクをつけている。ずるはなしだよ」
「そんな真似しねぇよ」
「よし! 準備ができたら教えてくれ」
ジームは、靴紐を結んで立ち上がる。
「へへ。いつでもいいぞ」
「よし、レベル十からだ! よーい、始め!」
「げ!?」
一瞬で、タコ殴りにされるビーム。
パンチしている挙動が見えなかったぞ!? なんて、速さだ。
「ビ、ビーム!」
ビームの主人が、声を出したが、この時には既に時遅し。パンチングマシンにより、ぼこぼこにされたビームは、全身を赤インクにより、真っ赤に染まって床の上で伸びきっていた。
見る人が見る人なら、警察沙汰になりそうだ。
「ちょ、虎丸!? なんて、難易度設定をしているのよ!」
「そうだ!」
「なにを考えていやがる!」
ルカの一声がきっかけで、学科内の生徒から批判の声が出た。
「やっぱ難しかったか」
「虎丸。ビームが避けられないのを知っていて、止めなかったわね」
「ははは、悪い! ここまでなるとは思わなかったんだ!」
虎丸は、苦笑いしながら謝る。
「ちゃんと、一般人でも大丈夫な難易度設定にしてくれるかしら?」
「も、もちろん。レベル五までにしよう。これなら。良い勝負になる」
「虎丸、坊ちゃま。私が行きましょう」
虎丸の隣にジャージを着た執事が立つ。ジジより若いが、四十代ぐらいの男性だ。単眼眼鏡なんて、珍しい物を付けているな。
「すまない総仁! 頼んだ!」
「レベル五で良いですぞ」
「わかった!」
虎丸が言うと、総仁がパンチングマシンの前に立った。
総仁は、床の状態を確認するためか、軽く動く。
「虎丸、坊ちゃま。準備はいいですぞ」
確認を終えた総仁が、虎丸の方を見た。
「わかった。用意!」
虎丸は、片手を上に上げる。
「始め!」
虎丸が手を下に下げると、パンチングマシンが動き出した。
総仁は、年齢を感じさせない軽いフットワークで、パンチを避けていく。
横から見ると、パンチのスピードが速く感じるが、目で追えない程、早すぎる訳ではない。良い感じのスピードだ。
「あの執事いつまで避けるのよ」
隣で見ていたルカが悔しそうな表情をして、総仁のことを見ている。
最初見た時は、年齢が高めに見えて大丈夫かと心配したが、年齢なんて、ただの数字なんて言葉を思わせてくれるような動きをしている。
順調に避けていた総仁だが、突然後ろに下がり、パンチングマシンから距離をとる。
「総仁、どうしたんだ?」
虎丸は、不思議そうな顔で総仁のことを見る。
「かすってしまいましたな」
総仁が、そう言うと自分の右肩を見る。
よく見てみると、総仁の肩に赤色が付いている。
パンチングマシンのグローブに付けられていた、赤色の水性インクだ。
「そうか。何発避けていた?」
虎丸は、パンチングマシンの近くにいた白衣の着た男に目を向ける。
「総仁様。二十五発避けました。レベル五のパンチングマシンなので、百二十五点です」
「まぁまぁですな」
総仁は、そう呟くと虎丸の元へ戻った。
「ご苦労だった。みんな、要領はこれでわかったな。次、参加する者は!?」
総仁が、お手本を見せたからか、続々と黒のジャージを着た執事を名乗りあげる。
「よしわかった。みんな順番に並べ!」
パンチングマシンに、執事たちは次々と並び出す。
「ユウリ様、七十五点」
「高広様、五十点」
「光様、九十五点」
次々と、参加者たちが参加して、点数が付けられていく。
「信。あのパンチングマシン、なかなかの速さね。見ていると、目に残像が残って、おかしく感じるわ」
「百六十キロです」
「え?」
「昨日、お嬢様に言われて、体を動かした方が良いと思い、帰りにバッティングセンターに行きました。その時、百六十キロのボールを十本連続、ホームランを打つまで打ち続けてから帰るようにしたのです。速さには、目が慣れています」
信は、そう言うと手の平をルカに見せる。
手の平には、バッドを振り続けていたせいか、豆が出来ていた。何個かは潰れて血豆になっている。
「ち、血豆が出来ているんじゃない! 信、その手で、私の荷物を持っていた訳!?」
ルカは、一瞬青ざめた表情をしたが、すぐに顔を赤くして怒った。
「そ、そうですが」
まさか怒るとは思わなかった。てっきり、「頑張ったね」とか言ってくれるもんかと。
ルカは、そう言うと近くにいた白衣を着た人に、目を向ける。
「ね、ねぇ! そこの白衣を着ている人!」
白衣を着た人物は、周りを見渡して、自分のことを指さす。
「そうあなたよ」
白衣を着た人は、急いでルカの元に来た。
「な、なんでしょうか?」
「救急箱とか持ってない? 包帯が欲しいの。持ってきてくれるよね?」
ルカは、強めの口調で、詰め寄った。
「わ、わかりました! 取ってきます!」
白衣を着た人は、慌てて救急箱を取りに向かった。
「信」
「お嬢様。どうしましたか?」
信がルカの方を振り向くと、顔を赤くした。
「その、怪我をしたなら、早く言いなさいね。私は、そこまで鬼じゃないのよ」
「わかりました」
ルカお嬢様に、初めて心配されたかもしれない。
次怪我した時は、もっと早めに言うことにしよう。
しばらくすると、白衣を着た人が救急箱を持って来た。
信は、救急箱を開き包帯を巻こうとする。
「信は、じっとしてなさい」
ルカは、そう言うと信から包帯を取り上げる。
「血豆以外に痛むとこある?」
「い、いえ。ありません」
ルカは、膝をついて信の手に、包帯を巻き始めた。
「お嬢様。包帯なら自分で巻けます」
お嬢様に包帯を巻いてもらうなんて、情けなすぎる。これぐらいは、執事である自分がやらないと。
「さっきも、言ったでしょ? じっとしてなさい。もう一回、止めようとしたら、クビにするわよ」
ルカは、そう言うと手に包帯を巻き始めた。
ルカお嬢様って、金髪だけど地毛なんだよな。地毛の金髪って、こんなにも綺麗なのか。信は、ルカにしばらく見惚れてしまった。
「うん。これで良いわね……ってなに、ぼーっとした目で見ているのよ」
ルカは、怪訝そうな目で信のことを見た。
「い、いや、なんでもありません」
信は、慌てて首を振った。
「まぁ、いいわ。ほら、私が巻いてあげたんだから、一位とってきなさいよね」
ルカは、そう言うと、信の背中を強く叩く。
「はい!」
信は、そう言うと、パンチングマシンに向かって歩き始める。
目標は、虎丸の執事である総仁の点数、百二十五点を越えてやる。お嬢様に包帯を巻いてもらったんだ。一位を取らないと、顔向けできない。
「次は……おっと、ルカの執事だな?」
虎丸は、興味津々な表情で、信の方を見る。
「いつでも、準備が出来ています」
「わかった。早速始めよう。用意!」
虎丸は、片手を上に上げた。
「始め!」
虎丸が、手を下げると、パンチングマシンが機械音をあげて、動き始めた。
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