静香との会話

「最初は、嘘をついてまで、ここに侵入しようとした理由を教えてくれるかしら?」


「ルカお嬢様を爆殺させようとした犯人が、紛れ込んでいると思っていたからだ」


 信は、できる限り正直に話すと決めた。


 下手に嘘をつくと、ただでさえ危険な状況がさらに危険になる。話せる範囲で話していこう。


「なぜ、源財閥に犯人がいると思ったのかしら?」


 静香は、真剣な表情で、信に聞いた。


 話に喰いついた。静香も気になっているみたいだ。


「学科に付き添っている使用人の中で、スイだけが、テンリ財閥に因縁があるのをわかったからだ」


 スイの顔が少し引きつったことに、信は気づいた。


 スイも何か隠しているな。だけど、今は自分の状況を何とかするのが優先だ。


「内容は、私がさっき話したことで間違いないかしら?」


「間違いない」


 信も知っている情報はこれしかなかった。


 後は、ジジがどこまで調べてくれて、情報を手に入れているかだ。まだ、俺には、ジジが調べている情報は持っていなかった。


「なぜ、学科内に犯人がいると思うの?」


「ルカお嬢様のお父さん。優助様が、そう考えているからだ」


 静香は、それを聞いてしばらく黙った。


「スイ。あなた、テンリ財閥から疑われているみたいだけど、何か言いたいことある?」


 静香は、隣に立つスイのことを見る。


「そうですね。確かに、私の両親が営んでいた会社は、テンリ財閥のテクノロジーによって廃業に追い込まれました。しかし、それは循環作用と言うもの。恨む理由なんて、一つもありません。両親も元気にしています」


 スイは、淡々と答える。


「だそうよ。私も、スイの働きを近くで見てきたわ。他財閥の令嬢を、爆殺させるような人ではないわ。読みが外れたわね」


 静香も。スイをフォローするように言った。


「外れたなら、それはそれで良い。俺は、同じ学科の人達を疑いたくない」


 信の言葉を最後に辺りは、静寂に包まれた。


「一旦ここまでね。また、しばらくしたら尋問をするわ」


 静香が、そう言うと尋問は終わった。


 信は、再びさっきの部屋に戻される。


「ん? あれは?」


 部屋に戻されると、部屋の中央に何か置かれていた。部屋から出て行く時には、なかった物だ。


 信は、部屋の中央に置かれている物に近づいて行く。


「おにぎりと、お茶か?」


 近づいてみると、おにぎり三つに、ペットボトルのお茶が置いてあった。


「そういえば、お腹がすいたな」


 捕まってから何も食べていない。なんなら、捕まる前に出されていた懐石料理も、少ししか食べてなかった。


 信は、おにぎりに手を伸ばそうとした所で、動きを止めた。


「いや、待て、これに毒が入っていたらどうする?」


 ここに捕まったのも、出された和菓子の道具に毒を塗られていたからだ。むやみに出された食べ物を食べるのは、まずい。


 信は、おにぎりから手を引く。


「毒なんて、入れていませんわ」


 突如、部屋の中に静香の声が響いた。信は、慌てて周りを見る。


 静香の姿が見えない。だけど、今のは静香の声だった。


「よく、天井を見てくださいませ。スピーカーを使っているのですこと」


 信は、天井を注意深く見る。換気扇の近くに、小さな穴が開いている。カモフラージュのためか、細かい網目をした蓋みたいのが、備え付けられている。


 あれから、声が聞こえているのか。


「信には、聞きたいことが、まだありますわ。餓死されたら困りますもの」


 信じてみるか。


 信は、静香の言葉を信じて、おにぎりとお茶を飲んだ。


 食べ終わった後、体調の変化がないか確認しながら、座っていたが大丈夫だった。毒は、盛っていなかったようだ。




 しばらくすると、部屋のドアが開かれた。


「少しは、話す気になったかしら?」


 部屋に入って来たのは、静香だった。


「話したことは、さっきので全部だ」


 信は、座りながら静香に答えた。


「本当は、もっとあるんじゃなくて?」


 静香は、疑いの目で信のことを見る。


 静香は、何を聞き出したいんだ?


 静香の態度を見て、信の心に疑問が生まれた。


「静香様。なにか、あったんですか?」


 信は、真剣に聞いているという意志表示で、『様』付けをして、静香の名前を呼んだ。


「……」


 静香は、黙っていたが、その態度が事実であると信は確信した。


「確かに、自分はルカお嬢様を、殺そうとした犯人を捜しに来ました。嘘をついて来たことは申し訳ないと思います。しかし、このままではお互いの問題が解決しません。今は、問題の解決を優先しませんか?」


 信は、真っ直ぐルカの目を見る。


 自分の中で、精一杯な誠意を表したつもりだ。


「しばらく、考えさせてほしいですわ」


 静香は、そう言うと部屋を出て行った。


 静香様に、何があったのだろうか? そもそも、大きな問題が無ければ、俺をこんな風に捕まえていないはず。新人とは言え、他財閥の人を拘束するのは、リスクが高すぎる。


 信は何もない天井を見上げながら、考えた。




 気付けば、眠りについていた。


「俺としていたことが、寝ていたのか」


 信は、体を起こして周りを見渡す。


 食料が置いてある。


 信の前には、前と同じように食料と飲み物が置かれていた。


「今回は、パンと水か」


 信は、パンを一口食べる。


 食料が出されたってことは、日付は変わったと思って良いのかもな。


「おはよう。ですわ」


 信が、パンを食べていると、静香が部屋に入って来る。


「おはようございます」


 信は、食べるのを止め、座り直してから静かに挨拶をした。


「そんな改めなくてもいいですわ」


 静香は、そう言うと信の前に座る。強化ガラス越しに、信と静香は対面した。

 寝ていたことを考えると、数時間は経過しているはずだ。聞いてみるか。


「静香様が抱えている問題を、話させてもらいませんか?」


 静香は、しばらく無言になった。


「わかったのは、つい先週ですわ」


 静香が、暗い口調で話し始める。

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