爆発事件を起こした犯人は......

「はぁー、たく! なんなのよ!」


 ルカは、愚痴をこぼしながら、早足で学生食堂に向かっていた。


「ルカお嬢様、そんな急いでいると転びますよ!」


 信は、ルカの荷物を持ちながら追いかけている。


 俺がクビになった時並みに、ルカが怒っている。


 怒っているルカを追いかける形で信は、学生食堂の中に入って行く。


「信! あそこに座るわよ!」


 ルカの声に驚いた学生食堂で、昼食を食べていた学生と使用人が一斉に振り向いた。


「ルカ、お嬢様落ち着いてください」


 申し訳なさと恥ずかしさが、心の中で入り乱れる。


「信! 財布渡すから、野菜が多く入っている学食を買ってきて!」


 ルカは、信の言葉を聞かずに、赤色の長財布を渡した。


「わかりました」


 ルカの今の状態じゃ、落ち着かせることが難しい。信は、悟り学食を買いに発券機に向かった。




「あら、信さんじゃないの?」


 発券機の列に並んでいると、後ろから話しかけられた。


 金持ちしかいない、この大学で、俺の名前を呼んで話しかける人がいるのか。


 信は驚きつつも、振り向く。そこには、巫女装束を着た女性、源静香が立っていた。


「静香様。こんにちは」


「そんな改まらなくても良いのよ。ルカは、どうしたのかしら?」


「ルカお嬢様は、座って待っております」


「怒っているのね」


 静香は、そう言うと持っている扇子で顔を隠した。


 扇子の下は、笑っているんだろうな。


「静香様。少々、ルカお嬢様のことを、煽りすぎではないですか?」


「あら、そうかしら?」


「はい。一限の時は、三人の個性がぶつかった結果でしたが、二限終わりの一言は余計だったと思います」


 ルカは、一限の時、「いつもの結果ね」で済ませていた。こんなに怒っているのは、二限終わりに静香との会話が原因だ。


「『反論する時が、駄々をこねている子供と一緒』って言葉かしら?」


 静香は、扇子で口と鼻を隠しているが、目が笑っていた。


「自覚しているじゃないですか」


 信は、呆れ気味に言う。


 あの言葉は、わざと怒らせるために言ったんだな。


「あれぐらい、言い返せるのか確かめたのですわ」


「確かめる?」


「暗殺未遂ごときで、落ち込むぐらいじゃ、財閥の後継ぎにふさわしくなくてよ?」


 信は、静香の発言を聞き手に力が入る。


「知っているんですか?」


「逆に知らないとでも? 源財閥の情報収集能力を侮らないでほしいわ」


 信と静香が話している間に、食券を買う順番が回って来た。


「どこまで、知っているか聞いてもいいですか?」


 信は、『牛丼』と書かれた食券を購入する。


「そうね。一昨日の今ぐらいの時間に、ルカが住む屋敷で爆発騒ぎがあったこと。次の日に、ルカの父である優助様が、海外の予定を全てキャンセルして、屋敷に帰って来たことまでは知っているわ」


「そこまで知って……」


 信は、ここまで言った所で、静香の発言に欠落している所があるのに気づいた。


「暗殺未遂は、どこで知ったのですか? 『爆発騒ぎ』って、遠回しな言い方をするのですか?」


「私が、いつ暗殺未遂が起きた情報を手に入れたって、言ったのかしら?」


 静香は、そう言うといたずらっぽい笑みを浮かべて、舌を少し出した。


「だましたのですか……」


 やらかしてしまった。他の財閥に情報を教えたって、言われてもおかしくないことをしてしまった。


「そんな、落ち込まなくていいのよ? 私が知っている情報を繋ぎ合わせるだけでも。そういうことだって推測するのは、容易いことよ」


「そうですか」


「ちなみに、誰が犯人だと思う?」


 食券を買った、静香が笑みを浮かべながら近づいてくる。


「まだ、見当もついていません」


「ちなみに、私の財閥は今回の件、関係ないから、そこの所は気を付けてよ?」


「本当ですか?」


「だって、襲う理由がないのよ? 源財閥は、『和』の象徴である日本の伝統工芸品を、日本や海外に売ることで利益を得ているのよ。わかりやすい伝統工芸品だけじゃなく、町工場も源財閥の傘下に入って、半導体なども売っているわ。テンリ財閥とは、反対の位置に存在する業種よ」


 静香が、言っていることには説得力がある。


「じゃあ、今回の事件を引き起こした犯人は……」


「テンリ財閥が主要産業にしている、『テクノロジー分野』が発展することを、恐れている連中だと思うわ」


「インターネットが発展すると、都合が悪くなる業界の人達か」


 アナログな業界。インターネットが発展することで、仕事が奪われる業界か。ジジに報告して、聞いてみよう。


「良い視点だわ。その調子で、考えてちょうだい」


 静香は、そう言うと信の肩に手を置く。


「また、進展があったら教えてほしいわ。じゃあね」


 静香は、信の耳元でそう呟くと、学食を持って離れて行った。


 源静香。頭が良い、この事件に首を突っ込んでくる気配を感じる。


「お兄さん。学食できているわよ」


「あ、すみません」


 学食を作っている、おばちゃんから牛丼を受け取った。


「とりあえず、ルカお嬢様に学食を渡すか。屋敷に帰ったら、ジジに聞いてみよう」


 信は、牛丼をおぼんに乗せてルカの元に行く。


「遅かったじゃない」


 ルカは、時間が経って怒りが収まったのか、いつもの口調だった。


「お嬢様。学食を持って来ました」


 信は、そう言うとルカの前に、牛丼を置いた。


「な……」


 ルカは、一言を言うと、肩を震わせて黙ってしまった。


 なんで、黙ってしまったのだろうか。


「どうしたんですか?」


「私、言ったわよね。『野菜が多く入っている学食』って……!」


「あ」


 信は、思い出す。静香との会話に夢中で、無意識に自分が食べたいのを買ってしまっていた。


「どこに緑があるのよー!」


 ルカの叫び声が、学生食堂中に響き渡った。

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