ルカの大学へ
「ルカお嬢様。今日の一限はゼミとなっております」
「わかったわ」
信とルカは、車でルカが通う大学に向かっていた。
「信って、免許持っていたのね」
「はい。持っていれば、何かあった時に使えると思って取りました。こんな高級車を、いきなり運転することになるなんて、思いませんでしたが」
この車は。確か数千万した気がする。ジジに頼んで、前日の内に慣らしておいて良かった。
「あそこの道を右に曲がって、駐車場があるわ」
ルカの指示通りに、道を右に曲がると『ノーブル大学駐車場』という名前の看板が見えた。
「ここが、ルカお嬢様が通う大学」
「そうよ。ここに通う生徒は、財閥はもちろん、上場企業社長の子供や芸能人の子供が通う大学よ。大学側からの招待状がないと入学できないようになっているの」
「なるほど」
大学側からの招待状がなければ入学できないのか。それなら、知らなかったのも納得できる。
信は、車を駐車場に止めた。
車から降りて辺りを見渡してみると、高級車が多く駐車している。外車も混ざっているぞ、確かあれはドイツで生産されている車だな。
「信。早く行くわよ」
「わかりました」
信は、車からルカの荷物を手に持って、ルカの後についていく。
「見る感じ、造りは他の大学と変わりがなさそうですね」
「そうね。周りの建物から浮かないために、そうしているって聞いたわ」
「なるほど」
一つの建物だけ目立つと、注目とか浴びやすいんだろうな。
ノーブル大学の敷地内に入ると、景色が一変した。
「お坊ちゃま。お次は、化学棟で人体構造の勉強です」
「りょーかい」
「お嬢様―! そっちの方向は、違いまーす!」
「な……なんで、もっと早くに言わないのよ!」
ルカと同じ学生に、メイド服やスーツを着た執事と思われる人が付き添っている。見渡す限り、全員二人一ペアで行動していた。
「信。なにぼーっとしているのよ。早く行くわよ」
「は、はい!」
先に歩き始めるルカに慌てて、信は追いかけた。
「ここが、ゼミが行われる講義室」
信は、ルカがゼミを受ける講義室内に入る。
「ルカさん。おはようございます」
入口の近くに座っていた、丸眼鏡をかけている女性が話しかけて来る。
「おはよう青葉」
ルカは、その人物を知っているようで、苗字を呼んであいさつを返した。
「青葉って、青葉財閥の青葉か?」
「は……はい。青葉ミツです」
信は、つい声を荒げてしまい、ミツは少し怯えてしまう。
いきなり、四大財閥の一つである、青葉財閥の一族が現れた。信は、緊張する。優助の言う通り、この大学にいる人物なら爆発物の一つや二つ簡単に作れそうだ。
「こら、信。怯えているじゃないの。青葉、あなたのメイドはどうしたの?」
「今、私の忘れ物を取りに行ってもらっています」
「そういうことね。また、話しましょ」
ルカは、そう言うと講義室の奥に進んで行く。
「一緒に座らなくていいのか?」
「今回のゼミは、席が指定されているのよ」
ルカは、そう言うと一枚のプリントを俺に渡す。
プリントの内容を読んで見ると、一人一人に席が割り振られていた座席表だった。
「ゼミのメンバーは三人ですか」
「そうよ。本当は、青葉みたいな性格の子が一緒だったら、やりやすかったんだけどね」
ルカの表情が、険しくなった。
表情から察するに、同じゼミのメンバーは、癖が強い人物が集まっているらしい。
「あら、あら、ルカさん。遅かったですわね」
巫女装束に、扇子を煽っている長髪の女性が、話しかけて来た。
この女性も、生徒なのか。
「朝から元気ね。静香」
信は、ルカから渡されたプリントを見て、静香って名前を確認する。
「源静香」
源財閥の一族だ。日本の伝統工芸品を牛耳っていると言われる源財閥。近年は、『メイド・イン・ジャパン』を掲げて、海外進出もしていると聞く。
「そういえば、いつものメイドじゃないのね。新入り?」
「え、えぇ。そうよ」
「ふーん」
静香は、そう言うと信の元に近づく。
「春町信です」
信は、どう反応したらいいかわからず。とりあえず、自己紹介をした。
「信さんね。優男っぽいけど、努力家って言ったところかしら?」
「なんで、そんなとこまでわかるのよ」
ルカは、投げやりな言葉で、静香に聞いた。
「姿勢かしら、それに手を見ればわかるわ」
静香は、信の手を取って手の平を見る。
「やっぱり、手の平にタコや血豆の後があるわね。毎日どんな訓練をしているの?」
興味津々な顔で、見て来る静かに、信は苦笑いするしかなかった。
こんなに、女性に顔を近づけられたことがない。香の匂いか、甘い匂いがした。
「えっと、毎日腕立てとランニング、途中で寄る公園での懸垂をしていたりします」
静香は、それを聞いて笑顔になる。
「良い心がけね。どう、源財閥に来る気はない? 君みたいな、日々の努力を欠かさずにやる人は大歓迎よ」
「ちょっと、私の執事に何を言っているのよ!」
ルカは、静香の言葉を聞いて、静香の肩を掴んだ。
「優秀な人材は、より好待遇で引き抜くのが、私達源財閥の社訓でもあるのよ。優秀な人材を手に入れるために、多少の出費も惜しまないわ」
静香は、ルカに向かって不気味な笑みを浮かべた。
信に向けた笑みとは違う。まるで、敵対している人物に宣戦布告をしているような、敵対している人に向ける笑みだ。
「な……」
ルカは、静香の不気味な笑みを見て一歩後ろに下がる。
「すみません」
信の一声に、静香は元の笑みで、信の方を向く。
「私の財閥に来る気になったかしら!?」
静香は、興奮気味な様子で聞いてくる。
「自分は、執事育成学校に在学する前から、テンリ財閥に行くと決めていました。誘ってくれてありがたいのですが、その誘いに応じることができません。申し訳ございません」
信は、深々と頭を下げた。
「そう。残念だわ」
残念そうな表情をする静香だが、懐から一枚の名刺を取り出した。
「気が変わったら連絡ちょうだい。源財閥は、いつでもあなたを歓迎するわ」
「ちょっと、静香!」
ルカは、その名刺を取り上げようとしたが、静香はそれを避けて、信の胸ポケットに入れた。
「ふふふ。連絡が来る時を楽しみにしているわ」
「ははは! 春休み明けなのに、元気だな!」
茶色く日焼けした、茶髪の男が近づいてくる。
「黒田虎丸」
ルカは、その男の名前をぼそっと呟いた。
黒田……黒田財閥の者か。待て、じゃあこの講義室には、四大財閥の一族の子供が揃っているのか。
なんて、大学なんだ。
執事育成学校を出ている信は、この出来事を異常事態に捉えていた。冷や汗が、流れる。
「はい。みんな静粛にー。講義を始めるぞー」
気の抜けた中年の男性が講義室に入って来た。
「あの男、どこかで見たことがある」
信は、講義室に入って来た男に見覚えがあった。
「春休み明け、最初の講師が鈴木孫一ですの?」
「静香、俺だと不満なのか? アーチェリーだけが、取り柄じゃないんだぞ。しっかりと教員免許も取っているんだ」
信は、静香の言葉を聞いて、思い出した。鈴木孫一、十年以上前に開かれた北京オリンピックで、金メダルを取った男だ。講師まで、著名人なのか。
信は、ルカの隣に座って辺りを見渡す。
この中に、ルカを狙った爆弾事件の関係者がいる。
信は、今まで以上に気が引き締まっていた。
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