ランチ会と優助からの指令
「皆さん、できましたよー!」
ジジと共に、食器などの準備をしていると、サクラと優助と共にヘリから降りてきたメイド二人が、料理を運び始めた。
料理は、長方形の大きな机の上に置かれ始める。
「お、ルカ。料理ができたぞー!」
「わかっているわ」
優助とルカは、共に席に着いた。
「ジジさん。家族以外でこんな大勢と、食事を囲むのは初めてです」
「ほっ、ほっ。家族と食事を囲むのも大事ですが、こうやっていろんな人と食を共にするのも、いいですぞ。私達も席に着きましょう」
ジジは、嬉しそうに言う。
「みんな。いつも、俺と娘を支えてくれて感謝している。こうやって、また食事をできる日が来て嬉しい。これ以上ない幸せだ」
優助は、そう言うと娘であるルカの方を見る。
「……コホン。その、いつもありがとう。感謝しているわ……」
ルカは、頬を赤らめながら言った。
辺りを見渡してみると、優助含めて食事を囲んでいるみんなが、笑顔になってルカの話を聞いていた。
「よし、せっかく作ってくれた料理が冷めないように食べ始めよう。いただきます」
『いただきます』
みんな、手を合わせて「いただきます」を言うと、食事を始めた。
「優助様。フランスパン、とっても美味しいです!」
スライスしたフランスパンを食べた、サクラが美味しそうな顔をして言う。
「さすが、本場のフランスで作られた、フランパンは美味しいだろう」
「わざわざ、買ってきてくれたんですか!?」
「ま、まぁな」
優助は、歯切れ悪そうな返事をする。
「本当は、私達とフランス滞在中に食べる予定でした」
銀髪のボブの髪型をしたメイド服の女性が言った。
「シ、シル。それは、言わない約束―!」
優助は、慌てた表情で、シルと呼んだメイドに言った。
そういえば、優助と共に来た使用人達のことを知らない。
「あの、すみません。自分、みんなの名前を知らないです」
信が恐る恐る言うと、優助は、「あっ」と声をあげた。
「俺としたことが、すまないことをしてしまった。みんな、新しく来た執事の信に挨拶してくれ」
「はい。私は、シルと申します。生まれは日本ですが、父と母は、北欧出身です。目上の人でも、本音を言うとこが長所です」
淡々と話す人なんだな。銀髪なのは、地毛なのか?
「よろしく、お願いします」
仲良くなったら、髪色について聞いてみよう。
「銀髪は地毛です」
「心が読まれた!?」
「はいはーい! 次は、私が自己紹介するね! 私の名前は、花風アカリ! よろしく!」
信が、あっけに取られていると、シルの隣に座っていたツインテールをしたメイドが自己紹介を始めた。
「花風?」
この苗字には、聞き覚えがある。確か、サクラさんの苗字も「花風」だ。
「アカリは、私の妹です」
サクラは、照れくさそうにして言った。
ポニーテールをしているのがサクラさん。ツインテールをしているのが、妹のアカリさんか、わかりやすいな。
「姉妹、両方とも明るくていいですね」
「だろだろ? サクラに妹がいるって聞いた時、真っ先に、ここの面接を受けるように頼んだんだ。さすがだろ、俺?」
優助は、信に対して自慢げに言った。
「次は、執事の私かな。
眼鏡のずれを直しながら、七三分けの執事が言った。
信は、エイチの顔を見た瞬間、鼻にケチャップが付いているのに気づいた。
「エイチも、執事育成学校を首席で卒業した男なんだ」
優助は、笑顔で言う。
優秀なのは、わかったが、鼻にケチャップが付いているのは言うべきなのか。それとも言わない方がいいのか?
信の内心は、言うべきか、言わないべきかの狭間で葛藤をしていた。
「あ! エイチくん! 鼻にケチャップが付いているよ!」
「な!?」
エイチは、顔を赤くして、ティッシュで鼻をふく。
言ってもいいんだ。
「これで、自己紹介は終わりかな。また、会うと思うから、みんな仲良くしてくれ」
優助の言葉に、三人供返事をすると、食事の続きを始め、全員で話しながらランチを楽しんだ。
「いやー、食べた食べた。美味しかったな」
優助が、満足そうに言った。
久々に美味しいものを食べた気がする。周りを見てみると、みんな満足そうな顔をしていた。
「優助様。そろそろ、時間です」
エイチが、優助の元に近寄って言う。
「もう、そんな時間か。エイチ、一つ言いたい事があるけど、いいか?」
「はい? なんでしょうか?」
「ほっぺに、マヨネーズが付いているぞ」
「な!?」
エイチは、恥ずかしそうな顔をして、ティッシュで頬に付いたマヨネーズを拭いた。
「パパ。もう、仕事なの?」
さっきまで、父親である優助に反抗的だったルカが寂しそうな表情をする。
「大丈夫だよ。爆発事故があったから、海外への出張は、オンラインで対応することにした。しばらくは、ずっと日本にいるよ」
「本当!?」
「あぁ、本当だよ」
喜ぶルカに、優しく笑う優助。
親子なんだな。信は、その光景を見て、心の中で思った。
「温かい家庭でしょ」
「はい……あ!」
サクラが信に話しかけて来て、信は素直に感想を口にした。
やばい、すっかり気が緩んでしまった。
「ふふふ。慌てなくて、いいのよ」
「すみません」
「実はね。私の親は、離婚しちゃって、ほぼ育児放棄みたいな感じで育って来たの。だから、ルカお嬢様と、優助様のやり取りうらやましいって思う時があるの」
サクラは、羨ましそうな目で、ルカと優助を見ている。
「サクラさん」
姉妹揃って、明るい性格しているのに、そんな過去があったなんて驚きだ。
「私も、あんな家庭を築けるのかな」
サクラは、不安げな表情をした。
「築けます」
「え?」
「サクラさんなら、幸せな家庭を築けると思います」
信が真剣な表情で話すのを、サクラは驚いた顔をした。
「あ、ありがとう」
サクラは、少し顔を赤くして、お礼を言った。
「よし、シル、アカリ、エイチ。次の商談場所に行くぞ」
『はい!』
優助の使用人である三人は、声を揃えて立ち上がった。
「ルカ。何かあったら、連絡を送ってくれ」
「わかったわ」
「今回の爆発事件を受けて、テンリ財閥が雇用している警備員を数十人、屋敷内と周辺に配置しておく。しかし、いざとなった時に、ルカを助けられるのは、ジジとサクラ、信の三人だと思ってくれ」
「わかりました」
ジジは、深く頭を下げた。
「それと、信」
「はい!」
優助に突然呼ばれた信は、慌てて返事をする。
「明日から、大変になると思うが、娘を任せたぞ」
「あ、明日?」
信は、思わず首を傾げてしまった。
明日から、何かあるんだろうか?
「ルカ、言ってなかったのか?」
「あ、言ってなかったわ」
ルカは、うっかりした表情をした。
「明日から、何かあるんですか?」
信は、優助に向かって聞く。
「ルカは、明日から大学の登校日なんだ。信には、執事として朝から夕方まで、ルカと同行してもらう」
「え!?」
信は、つい驚いた声をあげてしまった。
明日から、ルカお嬢様の大学に付き添うなんて、初めて知った。何も準備をしていないぞ。
「大丈夫よ。私が行っている大学の学生は、みんな付き添いとして執事やメイドがいるわよ。今までは、サクラに同行してもらったけど、パパの判断で男である信に、同行してもらうことにしたわ」
「そんな大学があるんですね……」
驚いた信は、そんな感想しかでなかった。
「それに、信には、もう一つ頼みたいことがある」
優助は、そう言うと、信の所に近づいた。
「ルカと同じ大学内に、今回起こした爆発事件の関係者がいる。君には、ルカの周辺に怪しい人物がいないかをチェックもして欲しい」
優助は、小声で信にしか聞こえないような声で言った。
「え」
「頼んだぞ」
優助は、そう言うと信に優しく微笑んだ。
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