ルカお嬢様とのババ抜き①

「信。ちょっと、来てくれる?」


 屋敷を掃除していたら、ルカお嬢様に呼ばれた。


「どうしたんですか?」


 信は、掃除を切り上げて、ルカの後について行く。


 キッチンの席にルカが座ると、「向かいに座りなさい」とルカが言い、信を対面に座らせる。


 一体なにが起こるんだ?


 信は、緊張感に包まれる。


「これをやりましょう」


 ルカは、そう言って、信に小さなプラスチック製の黒い箱に入った物を渡した。信は、気になって、その箱を開ける。


「トランプですか?」


 信は、黒い箱に入っているトランプの束を確認して聞く。


「えぇ、そうよ。ババ抜きをしましょう」


 ルカお嬢様の表情に、どこか焦りを感じる。どうしたんだろうか。


 信は気になったが、理由を聞かず、「わかりました」と答えて、ババ抜きに参加することにした。




「ババ抜きのルールは、最後にジョーカーを持っていたら負けという、シンプルなルールよ」


 ルカは、トランプの山札を切りながらルールを説明した。


「わかりました」


 信は、ルールを知っていたが、相手は自分が伝える主なので、頷いて返事をする。


 ルカは、信の返事を聞くと、トランプを裏面にしたまま信と自分に配り始める。


「ルカお嬢様。二人でババ抜きするには、枚数が多くないですか?」


 信は、どんどんと多くなる自分の手持ちにある手札を見て言う。


「大丈夫よ。最初に同じ数字が書かれたトランプを二枚一組で捨てるから、半分は減ると思うわ」


 ルカは、トランプを配り終えると、自分の手札を見て、同じ数字のカードを二枚一組で捨て始めた。


 信も、それに続いて、配られたトランプの数字を確認して、捨て始める。


 俺の手札には、ジョーカーがないな。


「信。準備はいいかしら?」


「はい。大丈夫です」


 信は、頷いて返事をする。


「じゃあ、始めるわよ」


 ルカは、信とババ抜きを始めた。




 ババ抜きは、二人でやっていることもあって順調に進んだ。


 信の手元には、トランプが四枚残っている。ルカには、五枚のトランプがあった。


「執事の癖にやるじゃない」


 ルカは感心した様子で言う。


「いえいえ、ただ運が良いだけですよ」


 信は、謙遜しながら言った。


 本当は、運が良かったという訳ではない。


 信は、心の中で呟いた後、ルカお嬢様のことを見る。


「ほら、次は信がトランプを引く順番でしょ? 早く引きなさい」


 ルカは、自分の手札を信の所に近づかせる。


「わかりました。ルカお嬢様引きますよ」


 信は、ルカお嬢様のトランプに手の指を添える。


 ルカの表情は、変わらない。


 信は、隣のトランプに指を添える。


 それでも、ルカの表情は変わらない。


 さらに隣のトランプに指を添えた。


 ルカお嬢様は、口角をあげて、にやついた。


 これが、ジョーカーだ。ルカお嬢様は、顔に感情が、そのまんま出ていた。


 信は、その隣にあったトランプを引き、手札にあった同じ数字のトランプと一緒に捨てた。


「や、やるじゃない」


 ルカの表情に焦りが見え始めた。ルカは、まだ一度もジョーカーが手元から離れていない。


「ルカお嬢様の番です」


 ルカは、信からトランプを一枚引く。


 ルカお嬢様の手元にジョーカーがあるから、必然的にトランプの数字は揃う。これで、ルカお嬢様が二枚。俺は、一枚手元に残ることになった。


「さ、さ、さぁ。これで、残り一組よ」


 ルカお嬢様は、今にも泣きだしそうな顔をしている。それは、そうだろう。ジョーカーが、一度も引かれずゲームが終わろうとしているのだから。


 信は、ルカお嬢様の手元にある二枚のトランプの内、一枚に指を添えた。


 ルカお嬢様の表情が変わらないな。


 信は、次にその隣にあるトランプに指を添えた。


「ひっ」


 ルカは、小さな悲鳴をあげた。


 ルカお嬢様。声にも出るようになっていますよ。


 信は、心でルカに呼びかける。


「これを引いても良いですか?」


「よ、よく考えて引きことね」


 ルカお嬢様。明らかに動揺している。さっきと比べて、ルカお嬢様の余裕がないと考えると、小さく悲鳴をあげたのが、ジョーカーではない方。


 信は、一度ルカの表情を確認する。表情は、絶望しており、生気を感じられないような青白くなっている。


 このまま半殺しにさせる訳にもいけない。ルカお嬢様。申し訳ございません。


 信は、ルカがリアクションをした方のトランプを引いた。


「何で勝てないのよー!」


 ルカは、それと同時に叫んで、机の上に頭をつけて絶望した。






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