ルカお嬢様とのババ抜き②

「信殿。なにがあったんですか?」


 ルカお嬢様の絶望した声を聞いたのか、ジジが様子を見にやってきた。


「ジジさん。実は、ルカお嬢様とババ抜きをしていました」


「ババ抜き?」


 ジジは、信が持っているトランプと、机の上で散らかっているトランプを交互に見る。


「なるほど。ジョーカーは、最初誰が持っていたんですか?」


「私よ」


 ルカは、べそをかきながら、ジジの質問に答える。


「もしかして、一度もジョーカーを引かれず終わったのですか?」


「そ、そうよ。また、一度もジョーカーを引かれずに終わったのよ! もう二度と、ババ抜きなんてするもんですか!」


 ルカは、なげやり気味に言った。


「ふむ。信殿。ちょっと来てくれるかの?」


 信は、ジジに手招きされて、ジジの後についていく。




「信殿。ルカお嬢様と戦ってみて、どうでしたかな?」


 信は、頬を掻きながら何て言おうか迷った。


「本当のことを言っても良いですか?」


「もちろん構いませんぞ」


「全て表情に出ていて、わかりやすかったです」


「うむ。そうでしょうな」


「ジジさんも、ルカお嬢様とババ抜きしたことがあるのですか?」


「もちろんです。ルカお嬢様は、純粋な心をお持ちで、ああいう駆け引きがあるゲームが大の苦手です。数年前に、『二度としない』と言っていたのですが、なにがあったかわかるかの?」


 信は、ジジの問いに首を横に振って答えた。


「わかりました。では、ルカお嬢様の元に戻りましょう」


 信とジジは、ルカがいるキッチンに戻る。




「ルカお嬢様。お待たせ致しました」


 ジジは、トランプを整えていたルカに声をかけた。


「なにを話し合っていたのよ?」


 ルカは、ふてくされたような表情で言う。


「事の顛末てんまつを聞きました」


「私を影で、バカにしていたんだ」


「いえいえ、そういう訳ではございません。ルカお嬢様が、大変傷ついた様子だったので、傷口に塩を塗るような真似をしないよう、慎重に話を聞いていたのです」


「そう」


 ジジの話しを聞いて、ルカは一言で素っ気なく返事をした。


「ルカお嬢様。なぜ、ババ抜きを始めたのですか?」


「それは、今度、虎丸の企画で、学科のみんなと、ババ抜き大会をすることになったからよ」


「ふむ。虎丸様が」


 四大財閥の一つである、黒田財閥。その一族である、黒田虎丸が、学科のみんなを巻き込んで、ババ抜き大会を企画したのか。


「それで、ババ抜きの練習をしようとして、このありさまよ」


 ルカは、せつない声を出して言う。


「ルカお嬢様」


 ジジは、優しい口調でルカに語り掛けた。


「なによ?」


「そのババ抜き大会は、いつ始まるんですか?」


「来週の月曜だけど」


「このジジと信が、知恵を出し合って、ルカお嬢様を本番までに勝てるよう。特訓するというのは、いかがでしょう」


「特訓?」


「えぇ、特訓です。ルカお嬢様は、誰にも負けない才能を持っている方、コツさえ掴めば、勝てること間違いないですぞ」


 ルカは、ジジの言葉を聞いて黙り込む。


「ま、まぁね。テンリ財閥の令嬢ですもの。特訓なんか、すれば余裕だわ。世界一にだって、なれるわよ」


 ルカは、暗い表情から一転、自信ありげな表情になって言った。


 ジジさん。すごい。ルカお嬢様が喜ぶ、言葉選びを把握している。


 信は、心の中で感心した。




 ジジの提案で、ルカのババ抜き特訓が開始され、信は何戦かババ抜きをした。


「ふむ。信殿、どう思う?」


 ジジは、難しそうな顔をして、信に聞く。


「難しいですね」


 ルカお嬢様は、本当に感情が顔に出ていた。ジョーカーと、そうじゃない時の差が激しすぎる。


「う、うぅ」


 ルカは、連敗による精神的ダメージで涙を流してる。


「じじさん」


 信は、ジジの方を向く。


「信殿どうしましたかな?」


「表情に変化が出るなら、マスクをしてみたらどうでしょうか?」


「信殿。それは、良い作戦ですぞ!」


 ジジは、そう言うと、キッチンから出て行く。





「ルカお嬢様。マスクをつけてみてください」


 信は、ジジが持って来たマスクをルカに渡す。


「わかったわ」


 ルカは、マスクをつける。


「これで、もう一度ババ抜きをしましょう」


 信とルカは、もう一度ババ抜きを始めた。


 ババ抜きは順調に進んで行き、残り手札が数枚の所まで来た。


「ルカお嬢様行きます」


 信は、ルカのトランプに指を添える。


 表情に変化は感じない。次は、どうだ?


 信は、隣のトランプに指をさす。


「へへ」


 ルカは、小さな笑い声を出した。


 マスクで、表情はわからないが、ジョーカーは、これだ。


 信は、ジョーカーがこれだと認識して、違うカードを抜き取り、勝利した。


 その後、半べそかいているルカと共に、ジジと信は様々な対策が練って行った。

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