謎の絵②

 ジジは、倉庫の中に入った。


「優助様は、倉庫の中に答えがあると言っていたな」


 情報になりそうな物と言えば、日記や史書みたいな記録関係の書物。まずは、絵が描かれた年代を調べないとだな。


 ジジは、金髪の美しい女性の外国人が書かれた絵の裏面を調べてみる。


「一八五六年十月九日。江戸時代に書かれた絵か」


 結構古い絵だ。そう考えると、なおさら、この絵は不思議な絵になる。今では、外国人が当たり前のように、日本にいるが、この時は限られた地域にしかいなかったはずだ。


「確か、場所は長崎だったはず。名前は、出島」


 ジジは、歴史の知識を掘り出しながら、記録の書物が保管されている倉庫の棚を見る。


 一番古い書物で、一九四八年か。


「この棚には、戦後から、今までの記録しか残されていない。それより前の記録はどこだ?」


 倉庫の中を調べてみるが、記録の書物らしきものは見当たらなかった。


「こまったな」


 ジジは、そう呟くと棚に手を添える。


「……ふむ。当たり前のようにあったから、気にしてはいなかったが」


 この戸棚の裏から、隙間風を感じる。何か後ろにあるな。


「一回、書類をどかしてみるか」


 ジジは、空の段ボールを持って来て、棚にあった書物を段ボールにしまい始めた。


「これで、動かせるかの」


 ジジは、棚を持って引っ張ろうとした時、棚が壊れるかもしれないというのに気づく。


古いとは言え、これは優助様の私物だ。壊してはいけない。


「サクラ殿に、力を貸してもらうかの」


 ジジは、倉庫を出て、サクラを呼びに行った。




「この棚を、どかせばいいのですね」


 掃除をしていたサクラを倉庫に呼んだジジは、二人並んで棚の前に立っていた。


「うむ。そうだ」


「それにしても」


 サクラは、そう言うと近くに置いてあった外国人が描かれた大きな絵を見た。


「綺麗な女性ですね」


 サクラは、まじまじと絵を見つめる。


「わしが気になって、調べているのもわかるだろ?」


「はい。わかります。私も、この絵を見つけたら誰か気になります」


「その絵には、それぐらいの魅力があるのだ」


「ジジさん。もしかして、こういう人が好みなのですか?」


 サクラは、顔をにやつけさせながら聞いて来た。


「いや、そういうわけではない」


 ジジは、顔をそむけて言う。


 サクラ殿は、こういう時に働く直感は鋭い。何もなかったことにしよう。


「ごほん。サクラ殿では、棚をどかすのを手伝ってくれるかの?」


「はい!」


 サクラは、元気よくと返事をすると、戸棚の端を持つ。ジジも反対側の端を持った。


「せーので、持ちますぞ」


 サクラ殿からの返事がない。


「サクラ殿?」


 ジジは、気になりサクラがいるの方を覗く。


 すると、サクラは、顔を赤くして棚を持とうとしていた。


「うーん! うーん!」


「サクラ殿?」


「あれ? ジジさん?」


 サクラは、ジジに話しかけられて、ぽかんとした表情になった。


「話聞いておりましたかな?」


「はい。せーのって言ったので、持ちました」


 ジジは、頭を抱えてしまった。


「私は、『せーので、持ちますぞ』って、言ったんですぞ」


 ジジは、そう言うとサクラは、みるみる顔を赤くする。


「や、やめてくださいよー。ははは。恥ずかしい……」


 まぁ、よくある勘違いの一つか。


「サクラ殿。もう一度、やりますぞ」


「わ、わかりました」


 ジジは、サクラの返事を聞くと、元の場所に戻る。


 両手に力を入れて、棚の端を持つ。


『せーの!』


 ジジとサクラ、二人で声を合わせて、棚を持って、どかした。




「凄いですね」


 サクラは驚いた様子で棚の後ろにあったものを見ている。


「ふむ。倉庫として使われていた部屋と、隣の部屋の間隔が少し広いと感じていたが、まさかこうなっていたとはな」


 戸棚の後ろには、マンションのベランダと同じくらいの広さをしている隠し部屋が広がっていた。


「なんで、優助様は、こんなことをしたのでしょう?」


「ふむ。優助様のことだ。『せっかく小さな部屋があるから、隠し部屋っぽくしよう』と言ったのだろうな。おそらく、本来の用途は、クローゼットか、収納スペースとして造られたのだろうな」


「なるほど、優助様らしいと言えば、優助様らしいですね」


 ジジは、棚で隠されていた部屋に足を踏み入れる。サクラも、その後について行った。



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