アフターストーリー

謎の絵①

「ふむ」


 ジジの前には、巨大な絵が一枚ある。


 ルカお嬢様が住む屋敷内で、倉庫を掃除していたら出て来た。


 天理一族は、代々自分の肖像画を絵師に書いてもらう伝統がある。恐らく、目の前にある大きな絵も、その一つなんだろう。


 車のドア二枚分の大きさであろう絵が目の前にある。


 それにしても......。


「この美しい外国人誰だ?」


 ジジは首を傾げた。


 優助様の妻を除けば、天理一族は日本人しかいないはずだ。それなのに、目の前には、鼻が高く、綺麗な金髪をしている外国人の肖像画がある。


 優助様の奥さんも、美しい方だったが、この外国人の女性も並ぶくらい美しい女性だ。


「不思議だ」


 ジジは、倉庫内で一人呟いた。




「え、女性の外国人の先祖が天理一族にいたかですか?」


 掃除を止めて、廊下に出たら、サクラが廊下をモップがけしていた。


 ジジは、サクラに聞いてみた。


「うーん。わかりません。すみません。力になれなくて」


 サクラは、申し訳なさそうな様子でジジに謝った。


「いや、気にしないでくれ。すまぬな」


 サクラ殿が、ここで働き始めてまだ数年しか経ってない。よく考えてみれば、知らないのは当然だ。それぐらい、あの絵の謎が気になっているのか。


「ふむ。違う事をしてみるかの」


 こういう時は、違う作業をしていると、ひらめきが生まれるものだ。


 ジジは、昨日途中で終わらせていた庭の手入れの続きをする。


 数週間前に、庭で爆弾が爆発してから、庭がボコボコになってしまっている。合間、合間をぬって少しずつ手入れをしているので、庭は元の形になり始めていた。


 爆発で空いた穴を埋める。この辺は土壌がいいから、すぐに芝生となる草は生えるだろう。


「ん?」


 穴に何かの破片が見えた。


 手に持ってみると、数字が書かれたプラスチックの丸い板だ。


「爆弾が入っていた箱の中にあった時計かの?」


 そういえば、信殿が『時計の針みたいな音が聞こえた』と言っていたな。てことは、これが、その時計の破片なのだろう。


 ジジは、掃除用に置いてあったビニール袋の中に、時計の破片を入れた。


「ふむ」


 頭の中に、あの絵がよぎる。あの絵の正体が気になって仕方ない。


「聞いてみるかの」


 ジジは、屋敷内に戻り、電話をとる。通話先は、優助様だ。


『もしもし、ジジどうした?』


 優助は、いつも通りの口調で話す。


「優助様。一つ聞きたいことがあります。お時間を少し頂いてもいいでしょうか?」


『あぁ、構わない。周りには、療養中と伝えていて、数十年ぶりに暇という感覚を味わっていたとこだ。そろそろ、味替えがほしいと思っていた』


 優助は、誘拐事件以降。財閥幹部に『休暇をとる』と言って、休んでいた。


 家族と過ごす時間を増やすために、休暇以降の仕事量をどう調整するか、考えていたのだろう。暇をしている優助様だが、財閥内では副社長と同等の権力が持てるポストが増えると、幹部達は知って、出世競争が起きていると聞く。優助様は、それを気にしていない様子だ。能力がある者がついてくれれば、それでいいのだろう。


「屋敷内にある倉庫を、ご存じですか?」


『あぁ、知っているぞ。酒蔵を営んでいた父の実家にあった遺品とか置いてある場所だよな』


「はい。その倉庫です」


『何かあったのか?』


 優助は、気になった様子で聞く。


「実は———」


 ジジは、倉庫で見つけた正体不明の外国人の絵について教えた。


『正体不明の金髪の美しい外国人が描かれた絵か。はは、あれか』


 優助は、それを聞いて笑った口調で返事をした。


「優助様、知っているのですか?」


 ジジは、優助に何であるかを聞く。


『知っている。そのまま教えるのも良いが、少し謎解きをしないか?』


「謎解き」


『あぁ、ジジは、その絵が何で書かれたか調べてみてくれ。答えは倉庫内にあるだろう』


「ふむ。わかりました。しかし、謎解きをするには、何か景品が欲しいですな」


 ジジは、笑みを浮かべながら言った。


『そうだな。ボーナスの時、一月分多く上乗せしてやろう』


「やりましょう」


 優助殿も、電話の向こうでは笑っているの。完全に遊びモードに入っている。


『期限は今日中。連絡を待っているよ』


 優助は、そう言うと、電話が途切れた。


「謎解きは、久々だの」


 ジジは、倉庫がある所に向かって歩き出す。


「それにしても」


 倉庫に向かっている途中、ジジは、もう一つ疑問を覚えた。


 倉庫として使われている部屋と、隣の部屋の間隔。他の部屋と比べると、少し広い気がする。


「謎解きと言われたせいで、何でも疑い深くなっているな」


 ジジは、内心楽しくなっているのに気づいて、軽く笑みを浮かべた。

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