事件のその後

 間に合って良かったわ。


 私がドアを開けた時、パパとジジ達、みんな生きていた。


 ルカの後ろには、武装した警察が、大勢待ち構えている。


「取り囲んでちょうだい」


 ルカの命令に、警官は頷いた。


「包囲しろ!」


 警官の一人が、そう叫ぶと、エイチたちを囲もうとする。


「動くな!」


 エイチは、天井に向けて、銃を一発撃った。


 銃声の大きな音で耳鳴りがする。


 銃声を聞こえた瞬間。警官達は、動きを止めた。


「ルカお嬢様。こんな所まで、足を運んできたのですか?」


 エイチは、警官が動かなくなったのを確認した後、ルカに銃を向けて質問をする。


「テンリ財閥の令嬢である私に何を向けているのかしら?」


 ルカは、慌てない様子で返事をした。


 撃たれたら死ぬ。だけど、テンリ財閥の令嬢である私が、こんな所で慌ててはいけないわ。


「ルカお嬢様。さっき撃った通り、これは本物ですよ? もしかして、私なら人に向かって、銃を撃たないとでも思っているのですか?」


「あなたは、次の弾を撃つことができないわ」


 ルカの言葉に、エイチは首を傾げた。


「次の弾を撃つことができない? 何を言っているんですか?」


「その言葉の通りよ」


「強がりですね」


 エイチは、不敵に笑みを浮かべて言った。


「強がりに見えるかしら?」


 エイチは、自分が大事な見落としをしていることに気づいてない。


「本当は、殺す予定に入っていなかったのですが、仕方ないです」


「エイチ。私以外にも、気を付けるべき人はいるんじゃない?」


「なに!?」


 エイチは、自分が見落としていることに、ようやく気付いたようだ。後ろにも、さっきまで取り囲んでいた敵がいることを。


「ルカお嬢様!」


 信は、エイチに向かって、棒状の物をエイチに投げつけた。


「こんな物!」


 エイチは、それを腕で防ごうとする。


「があ!?」


 エイチは、痙攣するようにして倒れた。


 その行動、あだになったようね。遠くてよく見えないけど、棒の上下の先端に、何かついている。恐らく、それがエイチを倒した原因ね。


 ルカは、自分の窮地が脱することができて、心の中で安堵した。




「テンリ財閥の令嬢である私に何を向けているのかしら?」


 信は、エイチの注意が、自分達からルカお嬢様に向いたことを見逃さなかった。


 他の人も、みんなルカお嬢様のことを見ている。


「ジジさん。スタンガンをもらっても良いですか?」


 信は、ジジに小声で話しかける。


「む?」


 ジジは、気になった顔で信の方を見た。信は、真剣な表情でジジのことを見る。


「わかった」


 ジジは、信にスタンガンを渡した。


 これで、材料は揃った。警棒の上下にスタンガンを一つずつ付けよう。スタンガンを動かなくするために、優助様の口に咥えさせていたタオルと、優助様の手首を縛っているロープを切って使えば、固定できる。


 これで、完成だ。


「信殿。それは、いつ使うのだ?」


「ルカお嬢様から、銃口が離れた時に投げます。ルカお嬢様からは、こっとの状況が見えているので、状況がわかるはずです」


 信は、スタンガンの電源を付けた。


「強がりに見えるかしら?」


 ルカと信が目を合わせる。


 ルカお嬢様と目が合った。俺がやろうとしていることに気づくはずだ。


「本当は、殺す予定に入っていなかったのですが、仕方ないです」


 エイチは、気づいていないみたいだ。後は、銃口がルカお嬢様から外れてくれれば。


「エイチ。私以外にも、気を付けるべき人はいるんじゃない?」


「なに!?」


 エイチが驚いた声をあげて、こっちを振り向こうとした。


 今だ!


 信は、エイチに向かって、スタンガンを取り付けた警棒を投げた。投げた警棒は、真っ直ぐエイチの元に飛んでいく。


「こんな物!」


 エイチは、咄嗟に銃を持っていない方の手で、それを防ごうとする。


「があ!?」


 エイチは、スタンガンに触れて感電した。


 感電したエイチは、力なく倒れて行く。


 終わったのか?


「か、確保―!」


 警官が、そう叫ぶと、部屋内にいた犯人達を一斉に捕縛しに行く。


「は、離せ!」


「なにをする!」


 犯人達は抵抗するが、警官達によって無力化されていった。


「信殿。ナイス判断でしたぞ」


「さすがだ。信」


 ジジと総仁は、信のことを褒める。


 ルカが信の所に近づいて来る。


「信。その感謝するわ。あなたの対応力に助けられた」


 恥ずかしそうな顔をしてルカは、お礼を言う。


「いいえ、お嬢様が駆けつけてくれたおかげです」


 信は、笑顔でお礼を言った。




 数日後。


 事件は、十五年前の事件によって生まれた歪みによって引き起こされたと断定されることになった。犯人は全員逮捕され、主犯格であるスイとエイチは、重罪として検察が訴えるということだ。


「ルカお嬢様。一件落着ですね」


 信は、屋敷内にいるルカに紅茶を入れて渡す。


「そうね。後は、パパが『自分で後始末を付ける』と言っていたわ」


「後始末?」


「ほっ、ほっ。優助様は、今回の事件の原因は、自分が引き起こしたことにも等しいって反省をして、捕まった犯人の家族を経済的に援助するつもりそうですぞ」


 ジジが、扉をノックして入って来た。


「ジジさん。こんにちは」


「確かに、今回の事件はパパにも原因があるわ。私も、それで巻き込まれた訳だし」


 ルカは、悲しそうな顔をする。


「私も、パパの手伝いはするわよ。信とジジも手伝ってね」


「わかりました」


「ルカお嬢様の手伝いなら、この老体頑張りますぞ」


「しばらくは、ゆっくり休みたいわ」


「ルカお嬢様。それはいけませんぞ。学校側からのご好意で、一週間休みをいただいていますが、明後日からは登校してください」


「えー、いいじゃない! 私、命狙われたのよ!?」


「それでもです」


「うー」


 ジジの言葉に、ルカは悔しそうな声を出す。


「信。何か言ってやってよ!」


 ルカは、信の方を向いて助けを求める。


「ルカお嬢様……登校しましょう」


「そんなー」


 ルカは、悲しそうな声をあげた。


「信殿。これからも、ルカお嬢様のことを頼みましたぞ」


「はい」


 信は、ジジの問いに返事をした。


「信! 甘いものを食べたいわ! 何か買ってきて!」


 ルカは、信にリクエストを要求し、財布を信に投げ渡した。


「わ、わかりました」


 信は、屋敷から出る。


 信の執事生活は、始まったばかりだ。

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