優助の行方
「ここなら、人は来ないわね」
病院内にある空き病室。その中に、信とルカは入る。
「ルカお嬢様。勝手に入っても、大丈夫なのですか?」
「短時間だけなら大丈夫でしょ」
ルカは、そう言うと、病室内に置かれていた椅子に座る。
「それで、話とは?」
ルカは、しばらく沈黙をする。
「十五年前。テンリ財閥の本社で、爆発事故が起きたのは覚えている?」
「はい。覚えています。自分が、ここにいるのも、その事件がきっかけになっています」
「その時に亡くなった。七歳の少女は、私の姉よ」
ルカは、窓から遠くの景色を見るように言った。
「あの時の死んだ女の子は、ルカお嬢様の、お姉さん」
突然のことで、信は驚いた。
だけど、それなら屋敷で感じた違和感も納得する。屋敷には、『天理優助とルカの幼少期の二人が、一緒になって描かれている絵画見当たらなかった』。本当は、存在していたんだと思う。『天理優助とルカ、ルカのお姉さんが描かれていた絵画』が存在していた。
「本当のことを言うと、私は小さかったから、お姉ちゃんとの記憶が、ほとんどないわ」
ルカは、悲しそうな顔で言う。
「だけど、パパが酷くおちこんだのは、鮮明に覚えているわ。私のお姉ちゃんを描いていた絵画をすべて外した」
「ルカお嬢様……」
「信。私は、これ以上家族を失いたくないわ。必ず、パパを助けましょう」
「はい。必ず助けましょう」
信はとルカは、優助を必ず助けると決意した。
信とルカ、サクラは、病院から出ると、目の前に一台の車が停まった。
「ルカお嬢様。お待たせ致しました」
車から顔を出したのは、ジジだった。
「ジジさん。今まで、どこに?」
「信殿の質問には、後で答えます。ルカお嬢様、ひとまず、場所を移動しましょう」
「わかったわ。みんな、ジジの車に乗るわよ」
信達三人は、車の中に入る。
しばらく、車が走ると、ビルの駐車場に辿り着いた。
「ここなら、周りに迷惑をかけず、ゆっくり話せますな」
ジジが、そう言うと、車のエンジンを止めた。
「ジジさんは、一体なにをしていたんですか?」
「これの追跡許可を、管理会社から頼んでいました」
ジジは、リモコンを取り出して、ボタンを押す。すると、車の天井から、モニターが降りて来た。
画面に、地図と赤い点がある。
「ジジさん。これは、なんですか?」
「これは、優助様の携帯に備えられているGPSで、ございますぞ」
GPS、携帯の位置情報が、わかる機械か。
「そんなものが……」
会話を聞いていたサクラが驚いた表情で言った。
「でも、ジジさん。なんで、そんな優れている物を優助様が、いなくなった時に使わなかったの?」
サクラは、不思議そうな顔で、ジジに質問をした。
「優助様が、自分自身の身の安全を守るため、何重にもロックがかかっていたのですぞ。安易に第三者から、追跡されないようにしていたのですな。ルカお嬢様の名前を使って許可をお願いしても、丸一日かかりましたぞ。もうすぐで、許可が降りるって連絡が来たので、車の中で待機していたのです」
だから、病院内にまで、ついてこなかったのか。
「パパ。用心深いのはいいけど、こういう緊急時は、すぐに追えるようにしてほしいわ」
ルカは、ため息交じりに言った。
「ルカお嬢様。これができるんであれば、黒田財閥に協力しなくても、大丈夫だったのでは?」
信は、ルカの方を見て聞いた。
「虎丸は、保険よ。まだ、病院内にいた時は、許可が降りるかわからなかったからね。予防策は、何重にも張るのが、ベストなのよ。これが、ダメだったら、虎丸に頼んでいたわね」
さすが、ルカお嬢様だ。ちゃんと、何通りかの追跡手段を用意していたのか。
「ジジさん。このモニターに映っている赤い点に、優助様がいるんですね」
信は、モニターの赤い点を指で、指しながら言った。
「そうですな。そこに優助様がいるはず」
「優助様がいる場所は、どこです?」
信が、ジジに聞くと、ジジはモニターの地図を広げる。
「ここは、東京湾の埋め立て地ですな。確か、ゴミを電力に変える、ゴミステーションを作る予定で、埋め立てたと聞いた覚えがありますな」
「ここの土地を管理しているのは、誰?」
ルカが、ジジに質問する。
「確認してみますぞ」
ジジは、そう言うとパソコンを座席の脇から、取り出して調べ始めた。
「これは……」
「ジジ。どうしたのよ? 誰が管理していたのか、わかったの?」
「それが、現在土地の保有者がいないですな」
「土地の保有者がいないの? だって、ここはゴミステーションになるはずだったのでしょ?」
「その計画ですが、数年前に流行ったウイルスで起きた不況で、頓挫したらしいですぞ。現在管理しているのは、不動産会社ですな」
「不動産会社に連絡しても、巻き込むことになるわね。だからと言って、私達が行くとしても、何も事前情報がないから危険が大きいわ」
ルカは、しばらく黙り込む。
「仕方ないわね。虎丸を使うわ」
ルカは、そう言うと携帯を取り出した。
「もしもし、虎丸?」
ルカは、虎丸と会話を始める。
「私のパパが、東京湾の埋め立て地にいる? それは、わかっているわ」
虎丸も、黒田財閥の情報網を使って、優助様の居場所を突き止めたのか。
「なんで、わかったかって? テンリ財閥の情報網をなめないでほしいわ。それよりも、虎丸。そこの埋め立て地に、黒田財閥が設置したカメラはあるかしら?」
ルカは、そう言うと、ジジからパソコンを貰って、操作し始める。
「埋め立て地に繋がる橋と、埋め立て地内の道路沿いに数カ所、置いてあるのね。パパを連れ去った犯行グループは、全員で何人かわかる?」
財閥が力を合わせると、ここまで細かい情報が入手できるのか。下手したら、警察より捜査能力があるかもしれない。
「人数の特定は、難しいのね。わかったわ。うん。だいたいの人数が、わかったら、教えてほしいわ。わかった。それじゃ」
ルカは、通話を終えると、携帯を閉じた。
「ジジ。そのモニターって、パソコンの画面って共有できるかしら?」
ルカは、ジジの方を見て聞く。
「もちろんですぞ。テンリ財閥の技術を詰め合わせた車。他の車では、できないこともできますぞ」
ジジは、そう言うとケーブルを一つ取り出して、パソコンと車を繋げた。
「青い点で、示されているとこが、防犯カメラがあるとこよ」
信は、モニターを見てみると、今まで赤い点しかなかった地図に、青い点が加えられていた。
「今、黒田財閥の方で、監視カメラの記録を確認しているとこよ。一時間ぐらいしたら、調べ終わるって言っていたから、それまでは待機ね」
ルカがそう言うと、パソコンの操作を始める。
「埋め立て地の大きさは、ショッピングモールが四つぐらい建てられるぐらいの広さみたいだわ」
「だいぶ広いですね」
「元々。ゴミステーションを建てる予定だったらしいから、ゴミを置く場所も踏まえて、広めに取っているのね。都心は、人工が多いから、ゴミの量も多いのよ」
「なるほど」
「虎丸も、私が電話してくる前に、少しは調べていたみたいで、現在の埋め立て地の状況もわかったわ」
モニターの画面が切り替わった。
「工場みたいな建物が建っていますね」
「えぇ。どうやら、計画が白紙になった段階で、建物の半分は完成していたみたいだわ。電気と水道も通っている」
「優助様が、いる建物はどれになるんですか?」
「パパがいる建物は、一番大きい建物だわ」
モニターに映った建物は、大きな工場ぐらいの大きさがあった。
「一通り説明は終わったけど、質問はあるかしら?」
ルカは、そう言うと車内を見渡す。
「あの」
車内にいたサクラが手を上げた。
「サクラどうしたの?」
「私は、何を手伝えばいいですか?」
「サクラは、病院に行って、妹の傍にいてあげなさい」
「でも、みんなが頑張るのに、何もしないなんて」
「わかったわ。サクラには、これをあげるわ」
ルカは、そう言うと、車のダッシュボードから、手の平ぐらいの大きさである機械を取り出した。
「これは?」
「無線機よ。病院内で待機して、信達が心折れそうになったら、励ましてあげて」
「うん! わかった!」
サクラは、納得したようで、ルカの提案を受け入れてくれた。
「ほっ、ほっ。では、ルカお嬢様も一緒に待機ですな」
ジジは、笑いながらルカに言う。
「なんで、私も待機なのよ! 私は、行くわよ」
「ルカお嬢様。それは、いけません。私は、優助様にルカお嬢様を『危険から守れ』と命じられています。ルカお嬢様が危険な場所に行くことは、許しませんぞ」
ルカは、ジジに言われて黙り込んでしまった。
「ルカお嬢様。自分とジジさんで、優助様を必ず助けます。辛いでしょうが、ルカお嬢様も安全な所にいてください」
信も、ルカのことを説得する。
「わ、わかったわ。でも、これだけは約束してちょうだい」
「はい」
「必ず、パパと一緒に帰ってくること、絶対に生きて帰って来てね」
信とジジは、頷いた。
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