スイの行方
源財閥の本社、鎌倉城。その城内にある監視室に入ると、数十人の職員が慌ただしく動いていた。
「現状は、どうなっているのかしら?」
静香は一人の職員に声をかける。
「スイの行方は掴めていません。おそらく監視カメラの位置を把握しているかと、死角を上手く使っているようです」
男性の職員が見ている画面を見ると、いろんな所に設置されているカメラの映像を見て、スイの行方を必死に探していた。
「カメラの位置が知られているなら、監視カメラの映像をいくら探しても、見つからないですわ」
静香は、悔しそうな表情で言った。
「静香様どうしますか?」
監視カメラだけだと有効打にならないと悟った信は、静香にどうするかを聞く。
「そうですわ。お父様が雇った、ボディガードを捜索に回すのよ」
「しかし、それだとお嬢様を守る警備が手薄になってしまいます」
男性の職員は、慌てて静香に忠告する。
「構いませんわ。それに、スイは私の元執事。武術の大会でも優勝経験がある人よ。ただの職員では、太刀打ちできませんわ」
静香の言葉を聞いて、男性職員は黙ってしまう。
「わかりました。それで、いきましょう」
男性職員は、そう言うと近くにある黒い無線機を取る。
「静香様のボディカードに連絡。静香お嬢様から、スイの捜索をするようにと指令をいただいた。該当する者は、スイの捜索に当たってくれ」
男性職員の言葉を聞いて、静香は満足したように頷いた。
「静香お嬢様は、これからどうしますか?」
「私も、スイの捜索に向かいますわ」
「静香様。それは危険です」
信は、慌てて静かに話しかける。
話を聞くとスイは武術の達人でもある。どこにいるのかもわからない敵を相手に、動き回るのは危険すぎる。
「大丈夫ですわ。私には、他にも武術の心得がある執事と、信もいますわ。ちゃんと、守ってくれるのでしょう?」
静香は、扇子で口と鼻を隠しながら言う。
止めても言うこと、聞かないのだろう。静香も、ルカと同じ自分の意志を貫き通す人だ。
「わかりました」
信は、説得が無理だと判断した。
説得が無理なら、静香お嬢様に危険が及ばないようにするしかない。
静香は、監視カメラのカメラ映像を何個か見た後、「スイを捜索しにいくわよ」と言って、信と使用人の執事を二人引き連れ、監視室を後にした。
「静香様。まずは、どちらに向かわれるんですか?」
信は、道を歩きながら静香に聞く。
「まずは、一番安全に脱出できると考えられる、地下通路を探しに行きますわ」
「地下通路」
「えぇ、災害時に、脱出できるよう作られた道ですわ」
静香の足取りは早かった。
スイを確実に逃がさないように、急いでいるのか。
「信」
「静香様。なんでしょうか?」
「私は、ルカに起こった爆弾事件は、単独犯ではないと思っていますわ」
静香は、淡々と話し始めた。
「スイ以外にも、作戦を考えた人がいると?」
「えぇ、そうですわ。今までの事件を考えると、単独犯であることは考えづらいと考えていますの」
言われてみれば確かに、警備が厳重と言っていた、薬品を盗み出すには、スイ一人の力では無理そうだ。誰かが、裏で協力していたことも考えられる。
「静香様は、誰だと考えているのですか?」
「まずは、スイの両親を疑っていますわ。動機としては十分ですもの」
スイの両親は、テンリ財閥が行った近代化によって、淘汰された企業の一つだ。
「自分も、スイが犯人だと考えると、最初に怪しいと疑っています」
静香は、信の返事を聞くと、一緒について来ている執事の一人に顔を向ける。
「今すぐ、警察に連絡して、スイの両親を調べるように、協力を煽ってちょうだい」
「わかりました」
執事は、携帯を取り出し通話を始める。
「もうすぐで、地下通路ですわ」
静香は、そう言うと曲がり角にあった階段を下り始める。
ここから地下通路に繋がっているのか。
信達も、静香の後について行った。
鎌倉城の地下。そこは、コンクリート製の壁と天井、床に囲まれた和とは、かけ離れた場所だった。明かりも、完備されていて鎌倉城の中と同じくらい明るかった。
「地下室は、現代っぽいですね」
信は、思わず見たままの感想を口に出してしまった。
天井をよく見てると、換気のためだと思われるダクトが通っている。
「ほほ。もしも、崩落したら緊急用の通路じゃなくてよ? 緊急用の通路は、安全面を重視していますわ」
静香は、笑いながら答えた。
いけない。つい、思ったままの言葉が出てしまった。気を引き締めなければ。
「ここの監視カメラは、どこに設置しているんですか?」
静香は、通路が続く一直線を扇子で指した。
「出口に、一台、ついていますわ」
「出口に一台」
てことは、出口までの通路には監視カメラが設置されていないことになる。
「通路は一直線なのですか?」
「基本一直線ですわ。しかし、救急用の物資などが入った倉庫が何室かありますわ。そこを探索するのです」
なるほど、隠れるならそこが隠れやすいのか。
「倉庫の広さは、どれくらいですか?」
「一人暮らしの部屋、一部屋分と考えて良いですわ」
「わかりました。自分が先頭に行きます。静香様は、執事達と一緒に後ろからついてきてください」
「任せましたわ」
信を先頭に、静香達は進んで行く。
進んで行くと、一枚の扉が見えた。
「静香様。あの扉が、倉庫の扉ですか?」
「そうですわ」
信は、静香の返事を聞いて、扉の取っ手に手をかける。
この中にスイが潜んでいるかもしれない。気を引き締めて行こう。
「では、開けます」
信は、静香達の方を見て、頷いた。静香は、頷き返す。
手に力を入れて、勢い良く開けた。奇襲かけられてもいいように、構えたが、何も起こらなかった。
「信、これを使うのですわ」
静香は、同行していた執事から懐中電灯を受け取り、信に渡した。
「ありがとう」
信は、懐中電灯を受け取って頷いた。
倉庫の左右を確認し、奥を照らす。人の気配は感じられない。
「中に入ります」
信は、倉庫の中に入り確認してみたが、スイの姿は見当たらなかった。
人が立ち入った痕跡もない。
「静香様。この倉庫には、スイの姿は見当たりません」
「わかりましたわ。次の倉庫に向かいましょう」
信は、倉庫から出て、通路を進んで行く。
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