犯人への手がかり
ルカと屋敷に帰った信は、ジジの元に駆け付ける。
「ジジさん!」
「信殿。どうした?」
ジジは、不思議そうな顔をする。
「爆発事件の解決となる、糸口を見つけたかもしれません!」
「なんと、説明してくれるか?」
ジジは、内容を知ると気になった様子で、信の話を聞こうとする。
「使用人です!」
信は、総仁からもらった名刺にある『黒田鉄道・副社長』の肩書を指さした。
「なるほど。使用人なら、あり得るかもしれないですな」
ジジは、納得したように言う。
「使用人なら、ルカお嬢様を暗殺させる動機があるかと」
「あると思いますな。使用人の中には、経営が傾いた理由で、コネづくりのために息子や娘を使用人にさせる者もいると聞く」
ジジは、そう言うと携帯を取り出す。
「優助様に、使用人が犯人だと仮定して、犯人捜しを始めると伝えて来る」
ジジは、そう言うと、どこかへ行ってしまった。
「話は終わった?」
声の方向を向くと、ルカお嬢様が柱に寄りかかって、不機嫌そうな顔で、こっちを見ていた。
「あ、終わりました」
信は、屋敷に付いて、ルカを置いて、ジジの元に走ったのを思い出してしまった。
やってしまったっと、内心焦ってしまう。
「やっと気づいたわね。まぁ、いいわ。ここに来たのは、別の理由があったからだし」
「別の理由?」
ルカは、信の元に近づいて行く。
「その、手に巻いている包帯のことよ。ボロボロでしょ?」
信は、ルカにそう言われて、自分の手を見る。
大学で、執事対抗戦に参加、移動教室の際はルカお嬢様の荷物を運び、包帯はボロボロになっていた。
「信が帰る前に、巻き直そうと思ったの」
ルカは、そう言うとポケットから包帯を取り出した。
「ルカお嬢様。その包帯は?」
「これは、昼間救急箱を借りた時、中に入っていた包帯よ」
当たり前のように言うルカを見て、信は驚いてしまった。
「勝手に、大学の備品を持ち帰っていいんですか?」
「大丈夫でしょ。こっちは、高い授業料を払っているんだから、包帯一つにケチをつけてほしくないわ」
信は、その言葉に否定も同意も出来なかった。
「それより、早く手を出してくれる?」
信は、ルカに言われるがまま手を差し出す。
「ルカお嬢様。自分で巻きます」
「主人の善意が受け取れないって、言いたいわけ?」
「いえ、そういうつもりは」
ルカの圧で、信は引き気味に答える。
ただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「じゃあ、大人しく包帯を巻いてもらって」
信は、ルカに自分の手を預けた。
「その、今日は感謝しているのよ」
ルカは、包帯を巻きながら信に、お礼を言った。
「感謝?」
「そう、感謝よ。執事対抗戦、頑張ってくれたおかげで、テンリ財閥のメンツは保たれたわ。信のおかげよ」
「そんな。たいそうなことはしていません」
ただ俺は、目の前にあったことをこなしていっただけだ。
「いいえ、大役を全うしてくれたわ」
ルカは、真剣な言葉で言った。
「ルカお嬢様」
信は、巻かれていく自分の包帯を、ただ見ていた。
「幸か不幸か、私がいる学科には四大財閥の一族が揃っているの。だから、ああいう競技やテストの点数とかは、財閥同士で比較されやすいの」
ルカは、包帯を巻きながら言う。
「比較されるのが、全てじゃありません」
信は、思ったことを言った。
信は、自分自身、執事育成学校では、首席だったが、周りから主席と呼ばれるのが好きじゃなかった。あんまり、比べられるのが子供の時から好きじゃなかったのだ。
「私も、本音を言えば、そう思うわ。だけどね、財閥が比較されるとね、財閥で働いている社員にも影響があるの。人生の大切な時間を使って、パパの財閥に尽くしてくれているのに、私が点数悪かっただけで、その人が陰口を言われたりするのは耐えられないわ」
ルカお嬢様は、まだ二十歳でありながら、何万人と働くテンリ財閥の社員を考えているのか。
信の体に力が入る。
「俺。ルカお嬢様に恥を欠かさないように、努めていきます」
「ふふ。期待しているわ」
ルカは、そう言うと信の包帯を巻き終えた。
手に巻かれた包帯は、ただ巻いてもらっただけに過ぎないのに、温かく感じた。
「信殿。ビンゴでしたぞ」
次の日。屋敷に着くと、ジジは嬉しそうな顔で話しかけて来た。
「手がかりが、あったんですね!」
「うむ。信殿に言われてから、ルカお嬢様と同じ学科に通っている、生徒の使用人について調べたら、親族が経営危機に陥っているという条件に合う使用人が数十人いましたな」
「数十人……多いですね」
予想より多かった。そこから、絞り込むのは骨が折れそうだ。
「いや、そこまで考え込む必要はない。これは、生徒の親が雇っている全体の使用人についてで、生徒に付き添っているとなると、もっと絞れるはずだ」
ジジは、そう言うと一枚の紙を信に渡した。
「この中に、知っている顔のやつはいるのではないか?」
ジジから渡された紙をよく見てみる。
顔写真と、名前が書かれている。
信は、上から順に顔写真と名前を確認していく。
「え」
一人見つけた。名前と顔を覚えている使用人。
だけど、この人物は、そんな暗殺とか物騒なことをするイメージから遠くかけ離れた人物だった。
「スイさん」
源静香の執事である、スイの写真があった。
「信殿。この執事に見覚えがあるのだな?」
「はい。源静香様の執事です」
「これは、難しい相手ですな」
ジジは、そう一言言って黙り込んでしまう。
「ジジさん。このリストにいるからって、犯人だとは限りません。証拠を見つけるために時間をくれますか?」
「私も、そう思った所だ。まずは、証拠探しをするのが一番だ」
信は、財布に挟んでいた一枚の名刺を取り出した。
「信殿。それは?」
「静香様から、もらった名刺です。作戦があります」
信は、ジジに作戦内容の説明を始めた。
「うむ。それなら、証拠が見つかるかもしれないの。わしも、それまでに、このスイっていう執事の情報を集めておこう」
「助かります」
信は、ジジにお辞儀をした。
「二人とも、なに話しているのー?」
明るい女性の声が聞こえた。振り返ると、ほこりはたきを持ったサクラが歩いてこちらに向かって来ていた。
サクラさん。今日も綺麗だ。
「サクラ殿。今話していたのは、スイとわしの大事な話でしたぞ」
ジジは、笑いながら話す。
「え、また。私を仲間外れにしていたんですかー!?」
サクラは、悲しそうな様子で言う。
「サクラ殿。内密ですが、ヒントを与えますぞ」
「ヒント?」
「サプライズですぞ」
サクラは、その言葉を聞いて目を丸くする。
ジジは、ウィンクをし、人差し指を自分の唇にあて、静かにっていうジェスチャーを出した。
「うん」
サクラは、口元を綻ばせながら頷いた。
「サクラ殿は、表情に出やすいからの。直前まで、黙っているつもりだったのだ。内容を言うまで待ってくれるかの?」
「わ、わかった。私、隠し事下手だもんね! 待つ事にする!」
サクラは、声を上ずりながら返事をした。
サクラさんは、本当に隠し事が下手みたいだ。
「うむ。それがよろしい」
ジジは、笑顔で頷いた。
「私、ここいいたら邪魔になるね! 掃除の続きしてくるー!」
サクラは、そう言うと、すぐに来た道を戻って行った。
「ジジさん」
「信殿。どうしましたか?」
「『話し方』上手ですね」
信は、様々な意味を込めて言った。
「ほっ、ほっ。財閥一家の執事ですからの。こういう会話の仕方が自然と身に付くぞ」
ジジは、自慢げに話した。
ジジは、サクラさんに嘘をついたとは言え、その判断は正しかったと思う。もし、サクラさんが会話内容を知っていたらと考えると、ルカお嬢様を見る度に、表情が変わっていたかもしれない。
『ついた方が幸せな嘘もある』
信は、心の中で、そう呟いた。
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