侵入

 信とジジは、総仁が用意していた、真っ黒な服装に着替えて、目立たない格好になった。


「ここから、近くにある船着き場に、小型ボートを隠してあります」


 総仁は、そう言うと先頭を歩く。


 これから、平気で車を衝突させる危ない思考も持つ集団がいる所に行くのに、総仁は口調も変わらず、余裕そうに見える。


「総仁さんって、こういう敵地に行くみたいな経験をしたことがありますか?」


「私は、元傭兵でした。黒田財閥が、海外支援で外国に鉄道を張り巡らせる時、山賊から守るように依頼が来たのです。その時、鉄道を護衛していた所、虎丸様のお父様に勧誘され、執事として働いています」


「そんな経験が」


 総仁は、一台の小さなボートの前で止まる。


「これが、私達が使うボートです。目立たないように黒で装飾されています」


 ボートに乗った総仁に続いて、信とジジも、ボートに乗る。


「今回は、いざとなったら戦うことにもなるでしょう。そう言う時のために、小型ボードに武器を置いてあります。ぜひ、使用してください」


 信は、ボートに乗っている荷物を調べてみると、警棒とスタンガンを見つけた。


「その警棒は、岩も砕けるほど頑丈な素材で、できています。戦う以外にも、様々な用途で使えるでしょう」


「そこまで、頑丈にさせたのも、虎丸様の指示ですか?」


 総仁は、信の言葉を聞いて、笑顔になる。


「虎丸様の性格が、わかってきましたな。そうです。虎丸様は、大学内ではやんちゃそうに振舞っていますが、芯に宿っているのは科学者気質な性格。虎丸様のおかげで、黒田財閥は、いくつのも特許を取ることができたのですぞ」


 虎丸様って、そんなに凄い人だったのか。


「では、早速救出作戦に向かおう」


 総仁は、ボートのオールを取り出す。


「ついているエンジンは、使わないのか?」


「エンジン音でばれる可能性もあるからな。オールを使って静かに行こう」


「わかった」


 信は、総仁からオールを貰い、こぎ始めた。




「ここが、橋の下だ」


 信達は、誰からも見つかることなく橋の下まで行くことに成功する。


「そこにある梯子を、使えばいいのか?」


 ジジは、橋の壁面に付けられている梯子を指さす。


「あぁ、その梯子を使ってくれ」


「わしが先頭で行く。信と総仁は、後ろからついて行ってくれ」


「わかった」


 ジジは、梯子を登り始めて、その先にある足場まで行く。


 信と総仁は、その後に続いて行った。


「総仁殿。足場を進み切った後は、どうすればいい?」


「その先は、足場を下りた所に、隠し通路がある。それを使えば、優助様がいると思われる建物の近くに出られるぞ」


「わかった」


 ジジは、橋に備え付けられていた足場を渡り切ると、梯子を使い下に降りる。


「俺も行く、ちょっと待ってくれ」


 総仁も、その後について行った。信も下に降りる。


「確か、この辺にだな」


 総仁は、コンクリートの壁を触り何かを探し始める。


 何を探しているんだ?


「あった、これだ」


 総仁が、コンクリートを強く押すと、何かが外れる音が聞こえた。コンクリートの壁の一部が動き、人が一人通れるぐらいの大きさまで開いた。


 こんな所に通路が、これは、誰も気づかない仕掛けだ。


「今度は、俺が前に行く番だ」


 総仁は、そう言うと先頭に出て歩き始める。


「信殿。ここからは、警戒して進みましょう。何が起こるかわかりません」


「わかった」


 信は頷いて、隠し通路を進み始める。




 隠し通路を進むと、一枚の扉が現れた。


「この先からは、外だ。慎重に開けて、確認する」


 総仁の言葉に、信とジジは頷いた。


 総仁は、慎重に扉を開ける。


「誰も……いないみたいだな。外に出るぞ」


 総仁は、扉を開いて外に出た。信とジジも、その後に続いて出て行く。


 外に出ると、舗装された綺麗な道路があるのに、建物は白い外壁のみで、何も装飾されていない。


 不気味に感じる。こんな所に、優助様が囚われているのか。


「優助様の場所は、ここから建物を二つ挟んだ先にある。誰もいない内に進むぞ」


 総仁は、敵地を慎重かつ、スピーディーに進み始めた。


「信殿。私達もいきますぞ」


「はい」


 信とジジも、その後に続いて行った。


 しばらく、総仁の後について行くと、総仁が建物の陰で止まる。


「総仁殿どうしたのだ?」


「この先に見張りがいる。人数は二人だな」


 信とジジは、ゆっくりと、その先を覗いて見る。


 そこには、覆面をした人物が二人、武器を持って巡回していた。


「武器を持っているな」


「バットと、釘抜き。相手は、やる気まんまんですな」


 物陰に戻り、信はどうやって突破するか考える。


「ここは、私が行きましょう」


 総仁が、信とジジに向かって提案をする。


「総仁殿。勝算はあるのか?」


「任せてください」


 総仁は、見張りがいる方向に向かって進みだす。




 敵の数は二名。


 総仁は、物陰から、もう一度状況を確認した。


「傭兵時代の勘で行くと、相手はプロではない。半グレやヤクザなど、腕に自信があるだけで、戦闘訓練は受けていないやつだろう」


 久々の戦場だ。二人共、テイクダウンで落として見せる。まずは、外周にいる、バッドを持ったやつからだ。


 総仁は、場所を敵が巡回するルートまで移動する。


「この位置なら、もう一人の男には気づかれないだろう」


 総仁は、警棒を構える。


「まずは、敵を、こっちにおびき寄せる」


 警棒で、軽く近くにあった排水ポンプを叩く。


「ん?」


 巡回している敵が、こちらにライトを向けた。


「誰かいるのか?」


 敵が、こちらに呼びかける。


「橋の見張りと、海岸を見張りしている仲間からは連絡が来ていない。侵入者じゃない。また、盗み食いをしているのか」


 警戒している敵の声色が明るくなった。


 どうやら、勝手に勘違いをしてくれたな。


「今度は、何を盗み食いしているんだ? また、社長に怒られるぞ」


 総仁は、男が曲がり角を曲がって、覗き込もうとしたタイミングで、路地裏に引きずり込んだ。


「お前」


 男が、喋り終わる前に気絶させる。


「まずは、一人目」


 この男、社長って言っていた。


「スイの親が使っていた、水井物産のビルを使っていたことを考えると、社長はスイの両親のどちらか。だが、事前に黒田財閥の調べた情報だと、スイの両親は関係がなかった。てことは、社長って一体……誰だ?」


 総仁は、男を見つからないように縛り付けて隠した。


 これで、今日一日は大丈夫だろう。


「残りは、一人だな」


 総仁は、暗闇に身を隠した。

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