ルカお嬢様とのババ抜き④

「ねぇ、ここまでする必要ある?」


 ババ抜きの特訓で、私の格好がすごいことになっていた。


「うむ。お嬢様完璧ですぞ」


 ジジは、感心したように言う。


「お嬢様ばっちりです」


 信も、頷いている。


「でも、これって誰かわからないじゃない」


 鏡に映っている私は、不審者そのものだった。サングラスにマスク、手袋までしている。そして、なぜか厚着もしていて、暑い。


「我々が、考えに考え抜いた結果が、この格好なのです」


 ジジは、誇らしげに言った。


「一応聞くけど、このサングラスは?」


「目線で、ジョーカーの場所を悟られないようにするためです」


「マスクは?」


「表情で、ジョーカーがばれないようにするためです」


「手袋は、なんなのよ?」


「膨張色である白を利用することで、手の震えを悟らせないようにするためです」


 そんなに私って、わかりやすい動きをしているのかしら?


 ルカは、ジジの話を聞いて不安になった。


「お嬢様。後は、これを口に入れてください」


 ジジは、そう言うとマウスピースを渡してきた。


「こんなのも、つけるの?」


「うむ。そうですぞ。これは、少し特殊な作りをしていて、つけると言葉が発しづらくなります」


「言葉が発しづらくなるなんて、本当に不審者じゃない」


 ルカは、文句を言いながらマウスピースを口に入れた。


「完璧です。お嬢様。これで、無敵のババ抜き師になれましたぞ」


「〇〇×□□(なによそれ)」


 ルカは、内心不満だったが、ここまで試行錯誤して頑張ってくれた、ジジと信に文句が言えなかった。




「さぁ、虎丸決勝よ」


 ルカの前には、虎丸がいた。


「まさか、ルカが、ここまで勝ち上がってくるとはな」


 虎丸は、意外そうな表情をしていたが、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「テンリ財閥の令嬢を甘く見ないことよ」


 ルカは、自信ありげに答える。


 頑張ってくれた、ジジと信のためにも、今回のババ抜きは絶対に勝たないといけないわ。


「公平性を保つために、私がトランプを切って、配りますわ」


 静香が、トランプの束を持ってやってきた。


「悪いな静香。頼んだ」


「ありがとう」


 静香は、トランプをシャッフルして、配り始める。


「虎丸」


「なんだ?」


「これから、私話せなくなるけど、何か言いたいことはある?」


「いろいろと弱点を隠すために、やっているみたいだが勝つのは俺だからな」


「言うわね。この日のために、血のにじむような特訓をした私を簡単に倒せると思わないでほしいわ」


 主に、思考をフル回転させていたのは、ジジと信だけど。


「言うじゃねぇか。あっさり負けるなよ」


 虎丸の言葉を聞いたルカは、マウスピースをして、臨戦態勢に入った。




「凄いぞ、お互いの手札が五枚切ってから、一向に減らない!」


「お互い相手の心理を読んで、ジョーカーを引かせているんだわ」


 ギャラリーがざわつき始めた。


「▽△□〇(なかなかやるじゃないの)」


「お前もな」


 虎丸とルカは、お互いの奮戦ぶりに称え合っていた。


「ここまで接戦になると、相手が言っていることもわかってくるのですね」


 静香は、興味ありげな表情で虎丸とルカのことを交互に見る。


 さて、そろそろ決着をつけていきたい所だわ。


「〇〇□□〇〇(覚悟しないさい)」


「おう、かかってこい!」


 ルカは、虎丸のトランプに指を当てる。


 変化は感じないわね。でも、少しの変化も見逃さないわ。


 ルカは、隣のトランプに指を添える。


 反応がない。


 じゃあ、次はこっちね。


 ルカは、さらにその隣にあるトランプに手を添えた。


 虎丸の眉が少し動いた。てことは、これがジョーカー! 隣のこれを引けば間違いないわ!


 ルカは、確信した様子で隣にあったトランプを引いた。


「〇△(なに!?)」


 ルカが取ったのは、ジョーカーだった。


「ははは。残念だったな! まんまと罠にはまりやがって、俺の隠し芸に『眉ぴく』があったの忘れたか!」


「〇〇〇〇(そんなの初めて聞いたわよ!)」


 ルカは、ジョーカーの位置をばれないように、手札をシャッフルした。


「そんな、子供だましは無駄だー!」


 虎丸は、すぐさまルカの持っているトランプの一枚を引き抜いた。


「数字だ!」


「試合の均衡が崩れたぞ!」


 しまった。動揺してしまったわ。虎丸に足をすくわれた。


「これで、俺の手札は残り三枚。ルカは、残り四枚だが」


 次は、私が引く番だから、虎丸は残り二枚。私は三枚になる。


 ルカは、虎丸からトランプを引いて、揃った数字を捨てた。


「次は、俺の番だ。ここで、俺がジョーカー以外のトランプを引けば勝ちになる」


 虎丸は、そう言うとルカの持っているトランプに手を伸ばす。


 私の変化で見破るつもりだわ。負けるもんですか。ジジと信が時間をかけて、対策してくれたのよ。これぐらいではやられないわ。


「なかなか、変化を表に出さないな。ルカは、結構感情が表に出やすい性格だから、わかると思った。なかなかやるな」


「〇〇〇△□(私を甘く見ないでほしいわ)」


 虎丸は、ルカが持っているトランプの真ん中を引いた。


「ジョーカーか」


「おおおおお!」


「なんて、緊張感なの!?」


 一手でも間違えれば、試合が終わる場面。観客の生徒達は、試合の経過をかたずをのんで見守っていた。


「〇〇〇(次は私の番ね)」


 虎丸がシャッフルをして、ルカの前にトランプを引かせるように出す。


 ルカは、あえて迷わず、虎丸が右に持っていたトランプを抜いた。


「△□〇(ジョーカーね)」


「また、ジョーカーを引いたぞ!」


「終わる気配を感じない!」


 ルカは、手札を見えないようにしてシャッフルした。


「お互い、悪運が強いようだな」


「△〇(そうね)」


「この作戦は、ルカの所にいる執事達が考えたのか」


「□□〇(ええ、そうよ)」


 ルカは、言葉だと伝わらないと思い、頷いて返事をする。


「良い執事を持ったな」


 虎丸は、そう言うとルカのトランプに手を添える。虎丸が手を添えたのトランプの柄は、ジョーカーだ。


 反応しない。反応しない。このまま引きなさい。


 ルカは、心に強く言い聞かせる。


「なぁ、ルカ?」


 虎丸は、ルカに話しかけると、ジョーカーの隣にあったトランプに手を添えた。


「〇×(なによ?)」


「耳が赤くなっているぞ」


「××□〇〇△!(しまった! 耳は隠せてない!)」


 ルカは、咄嗟とっさに手で耳を隠す。


「その動揺! ジョーカーだと見せない反応だ! てことは、これは数字のカード!」


 虎丸は、大声をあげて、そのカードを取る。


「××(あぁ……)」


「ビンゴ」


 虎丸は、満面の笑みを浮かべて、揃ったカードを捨てた。


 ルカは、震える手で、虎丸の持っている最後のトランプを引いて、試合が終了した。ゲームの優勝者は、虎丸になった。




「えぇぇぇぇん!」


 ルカは、屋敷に帰るなり、リビングにあるソファに飛び込んで泣き始める。


「ルカお嬢様。頑張りましたよ」


 信は、そう言ってルカに紅茶を持って来た。


「ぐす、ぐす」


「ふむ。耳は、盲点でしたな」


 信の後に入って来た、ジジがババ抜き大会の出来事の感想を呟きながら入って来た。


「はい。すっかり、見落としてしまいました」


「ルカお嬢様。申し訳ございません」


「ぐす。いいわよ。信達が力を貸してくれなかったら、決勝までいけなかっただろうし」


 ルカは、そう言うと、涙を拭きながら、ソファに座り直す。


「ジジと信。力を貸してくれてありがとうね」


「いえいえ、力になれて良かったですぞ」


「はい。いろいろと思考錯誤できて、楽しかったです」


 ジジは、一度部屋を出ると、銀色の蓋を付けたトレーを持って来た。


「ジジ、なにそれ?」


「私が、自腹でルカお嬢様のために、お祝いを買ってきました」


 ジジは、そう言うとトレーをルカの前に置く。


「開けていいの?」


 ジジは、笑顔で頷いた。


 ルカは、トレーに付けられていた銀の蓋を開ける。


「わ、私の好きな……」


 ルカは、そこまで言うと、言葉が詰まった。


 黄金色と言われてもおかしくないぐらいの光沢。子供の頃から好きなケーキ。


「チーズケーキ!」


 ルカは、目を輝かせながら言った。


「ルカお嬢様。お疲れさまでした」


 ジジは、笑顔で言う。


「うん! ありがとう!」


 ルカは、お礼を言うと美味しそうに、チーズケーキを食べ始める。


 ルカは、ババ抜きには負けたが、ジジと信の三人で協力した思い出として、記憶に残ることになった。

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わがまま令嬢の尻にしかれる るい @ikurasyake

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