7(ナナ)を継ぐもの ボッチ剣士と奇妙な人探し
ためぞう
第1話 依頼
一人の男がテーブルに座り、骨付き肉を食べながら、黙々と酒を飲んでいる。
周りは騒がしく、大きな話し声、笑い声、楽器の音、踊りを踊っている者もいる。
ゆっくりと入口の扉が開き、その場所には、到底似つかわしくない一人の少女が入って来た。
神官の法衣を着た少女。長い黒髪が後ろで綺麗に一つに結ばれている。
白い肌に大きな目をした少女は、オドオドしながら周りを見渡している。
騒がしい場所に戸惑っているのか、キョロキョロと周囲を気にしながら中央のカウンターに歩いて行くと、制服を来た女性に話しかける。
「こんにちは……その……」
目鼻立ちがクッキリとした女性が笑顔で答える。
「いらっしゃいませ、こんにちは」
赤い髪が肩に掛かる、背の高いスタイルの良い美しい女性は、背筋を伸ばし、凛とした態度で目の前の少女に深々とお辞儀をした。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ」
顔を上げて、神官の法衣を着た少女に
「本日はどのようなご用件ですか?」
目の前の女性が丁寧に対応してくれたことで、少し安心した様子で法衣の少女も深々とお辞儀をした。
「その……人探しの依頼をしたいのですが……」
「『人探し』ですか……かしこまりました。それでは奥の部屋で詳しいお話をお聞かせて下さい」
制服を着た女性は、スルリと振り返ると、中央カウンターの後ろにある扉へ、少女を案内するように歩き出した。
(歳は、十代後半くらいかしら……人探し……最近では、めずらしい依頼だわ……)
コツコツとヒールを鳴らしながら歩く案内役の女性に依頼者の少女は緊張しているためか、足早に付いていく。
扉が開くと、テーブルと椅子があり、制服を着た女性と依頼者の少女は、それぞれ向かい合って座った。緊張で強張った表情をしている少女。
(法衣を着ているから、ただの町民って訳では無いわね……)
制服を着た女性が話を始める。
「はじめまして、私はこの冒険者ギルドで受付を担当しております、ジェマと申します。お客様は当ギルドは初めてでしょうか」
「はい、初めてです」
「それでは、お客様のお名前とご依頼内容をお聞かせ下さい」
「あ、はい、よろしくお願い致します」
礼儀正しくお辞儀をすると、少女が話を始めた。
「私はミレーラ・フランセルと申します。人探しの依頼に来ました……私の兄テオドル・フランセルが一カ月程前から行方不明になっています」
「お兄様が行方不明……失礼ですが、町の衛兵に相談はされたのですか?」
「ええ、衛兵には相談し捜索依頼は出したのですが……今だに、見つかっておりません……」
「そうですか……お兄様は、その……どうして行方不明になられたのでしょうか?」
ミレーラは悲しい目で遠くを見るかのように話し出した。
「……兄はクルム伯爵邸で、光魔法の術師として働いておりました。一カ月前の事です……」
静かな夜
「「ドンドンドン」」
何の音!? こんな夜中に……
ドアを叩く音にミレーラは目を覚ました。
ベッドから起きるミレーラ。
辺りは暗く、窓から入る月明りを頼りにロウソクに火を灯す。
「テオドル殿、テオドル殿」
「「「ドンドンドン」」」
ドアの叩く音は、一層大きくなる。
ミレーラは、何事かと思い、自室を出て声がする玄関に向かい歩き出す。
暗闇で良く見えないが、玄関ドアの前で兄テオドルが男と何かを話していた。
(……こんな夜中に、どうしたのかしら……)
不安な表情のミレーラは、ロウソクの灯りを兄に向けた。
「兄さん、どうしたの」
テオドルはミレーラの存在に気が付かなかったのか、驚いたように振り返り、慌てる様子で身支度を始めた。
「ミレーラ、クルム様のお屋敷で怪我人が出たらしい。私はこれから、屋敷に行って来るよ」
「こんな夜中に怪我人なんて……」
「なにか事故が起きたみたいだ。急用らしい」
テオドルは急いで支度を終えると、玄関に向かってスタスタと歩き出す。
「ミレーラ、行ってくるよ。怪我の具合だと数日は帰れないかもしれないけど……」
「……分かったわ、兄さん、気を付けて」
テオドルは、慌てた様子で男の馬車に乗り込む。
テオドルが乗り込んだことを確認した男は、手綱を握ると、急いでいるためか、バチバチと勢い良く鞭を打った。馬は一気に走り出し、馬車はあっという間に見えなくなった。
(兄さん……大丈夫かしら……気を付けて……)
ミレーラは兄を見送り自室に戻ると、小さなあくびをしてベッドで横になった。
翌朝
目が覚めて自室を出るが、兄の姿は見つからず、まだ帰って来てはいなかった。
「お屋敷の方の怪我は酷かったのかしら……兄さん、大丈夫かしら……」
ミレーラは心配になり、不安な表情をしながら、朝食の準備を始めた……。
ギルドの部屋
暗い表情のミレーラ。
「それから一カ月が経ちましたが……兄はまだ帰って来ていないんです……」
(えっ!? そのまま帰って来てないの……)
「…………」
シンと静まり返る部屋。
驚きながら話しを聞くジェマが重い口を開く。
「……クルム伯爵には、お兄様の事を尋ねましたか?」
「はい……兄が戻らなくなった日から三日後、お屋敷を尋ねたのですが……屋敷では兄さんが三日前から仕事に来ていないと言われました」
「ん!? ……どういうこと? その……お兄様は、夜中にクルム伯爵のお屋敷に行っていないと言われたのですか? 」
「はい……それに、怪我人なども出ていないし、夜中に使いの者を出してもいないとも言われました……」
ジェマは、眉をひそめ唖然としている。
(じゃあ……どこに行ったのよ……)
「……兄はどこに行ったか分からないのです。あの夜に出ていったまま……いなくなりました……」
ミレーラは
「クルム伯爵邸に向かった日、衛兵に相談をしに行きましたが、『どこかで遊んでいるんじゃないか』って、『もう少し待ってみたら?』と、真面目に相手をしてくれませんでした……」
ジェマは涙をこぼしながら話すミレーラに、かける言葉が見つからない。
「そんな……」
「それから一週間が経っても兄は戻らず、私は衛兵に再度、行方不明捜索の依頼をしました。昨日、衛兵から捜索結果が届いたのですが……」
斜めにかけた肩掛けカバンから、一枚の紙を取り出し、ジェマに見せた。
捜索結果
汝の兄、テオドル・フランセルは、一カ月前の夜中に家を飛び出し
森の中歩いていたところ、ゴブリンの群れに襲われ
時間の経過を考えると生存の可能性は低い。
現在、ゴブリンの住処を探索中だが、発見出来ていない。
ジェマは口に手を当て、驚きながらも考えながら丁寧に話す。
「……森の中を歩いて……どうして夜中にそんなところを……それに、ゴブリンの群れ……お兄様はクルム伯爵邸に向かうと言って、馬車に乗ったのですね……」
「はい……私は――確かに、兄が馬車に乗って出かけて行く姿を見送りました……兄の身に何が起きているのか分からないのです。……この報告書も……信じられなくて……」
ミレーラはポツリポツリと涙を流しながら、精一杯の声をふるい出した。
「……ですので、冒険者ギルドに、兄を探してもらいたいのです」
しばしの間、沈黙が訪れる。
「それに……」
ミレーラは、少し言葉を詰まらせた。
「それに……最近、誰かに監視されているような気がするのです……気のせいかも、しれませんが……」
「…………」
(奇妙な人探しの依頼……これは……何か裏がありそうね……)
ジェマは、ミレーラを手を握る、
「事情は分かりました。ぜひ、あなたの力にならせて下さい、お兄様を一緒に探しましょう」
ミレーラはジェマの手を握り返すと、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます」
握られた二人の手の甲には、涙の粒がこぼれ落ちていた。
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