第34話 月明の剣士
胸に自身の剣【デーモンブレイド】が突き刺さったロジェは、その場に倒れた。
ミレーラはロジェのもとへ走り寄って行く。
「ロジェ、ロジェ」
返事が無い。
「また、あなたを傷つけてしまった……」
抱き寄せるロジェの顔にミレーラの涙が零れ落ちた。
魔法を受け倒れていたマリオンがスッと浮かびがある。
空中からミレーラを睨むマリオンの顔には、
激しい怒りに満ちた目でミレーラを見下ろすマリオン―ー顔の傷が治って行く。
「下等な生物が、妾に傷を負わせるなど……」
両手に力を込めたマリオンが叫ぶ。
「この報い……貴様!! 楽に死ねると思うなよ!! 光の超級魔法など……ふざけた
マリオンが力を込めた両手ミレーラにかざすと黒い魔弾がミレーラを襲う。
ロジェを庇うように離したミレーラが魔弾に弾き飛ばされた。
「
マリオンから、さらに魔弾が放たれる。
吹き飛ばされたミレーラだったが、静かに立ち上がると、倒れたロジェに向けて歩き出す。
「……邪魔をしないで……」
「エリアソルト」
放たれた魔弾はミレーラに到達する前に、魔法の壁に阻まれた。
ミレーラの首飾りが光り輝く。
聖なる光に包まれたミレーラは、長い髪がなびく程の溢れ出る魔力に覆われている。
「
マリオンは無数の魔弾をミレーラに向けて放つ。
魔弾を
周囲は無数の魔弾により激しい爆発が起きている。
激しい爆発音の中、ミレーラが小さく呟く。
「ホーリーレイ」
指先から放たれた光のレーザーは、いとも簡単に魔法障壁は貫通し、マリオンの肩に傷をつけた。
肩についた傷を、唖然とした表情で眺めるマリオン。
「またしても……たかが人間如きの魔法が、妾の体に傷を付けるとは……許さんぞ!!」
マリオンは大鎌を出現させると、構えと同時にミレーラに向かってくる。
光に包まれているミレーラが、両手を広げるように魔法を唱えた。
「「「「「ホーリーレイ」」」」」
ミレーラの魔法が何重にも
大鎌で数発の光を叩き落としたが、たまらず空中へと飛び避けたマリオンだったが―ー
光はマリオンを狙う猟犬のように、空中を飛び回る標的を追いかけ続ける。
ロジェの傍へ近寄るミレーラが、そっと手をかざす。
「ハイヒール」
ロジェの体が光に包まれた――が、傷は癒えない。
「やはり、これではダメなのね……」
ミレーラは手を組み、祈りを捧げる。
「……主よ、迷える子らにお導きをお与え下さい……」
光る指で呪文を
ミレーラを
(魔力が……足りない……でも……)
光の追尾から逃れたマリオンが、ミレーラの前に降り立つ。
構わずに呪文の詠唱を続けるミレーラ。
「さっさと、死ぬがよい」
ミレーラに大鎌が振り下ろされる瞬間。
「我を忘れるなよ。ニードルスフィア」
ヒュームの結界がマリオンを囲むと無数の針が襲う。
翼で体を覆い防御するマリオン。覆った翼を一気に広げると結界を弾き飛ばした。
「
怒りの滲む拳で放たれた黒い刃が、ヒュームを貫く。
その時、ミレーラが詠唱を終え、ロジェに両手を向けた。
「神級魔法……リバイバル」
ロジェが光に包まれていく――が、光は途中で消え、剣が刺さったまま、状態は何も変わっていなかった。
(ごめんなさい……成功しなかった……)
魔力を使い切ったのか、ミレーラを覆っていた光は消え失せていた。
大鎌を掲げるマリオン。
「
デーモンブレイドが体に刺さったまま横たわるロジェ。
剣先から黒い魔力がロジェの体に流れていく。
ロジェは暗い、暗い、空間を漂っていた。
体の自由が利かず、冷たい空間に一人浮かんでいる。
「……き……て……」
何かが聞こえてきた。
「……き……て…………け……」
ロジェは聞こえてくる音に耳を傾ける。
「お……き……て…………すけ……」
ロジェの意志に体がほんの少し動く。
「お……き……て……みんなを……助けて」
ロジェが目を見開くと、今まさにマリオンの大鎌がミレーラを斬りつける瞬間であった。
胸の剣を引き抜くと振り下ろされた大鎌を間一髪のところで防いだ。
「貴様……死んだはずでは……」
立ち上がるロジェ。
ミレーラを抱えてマリオンと距離を取る。
デーモンブレイドが刺さっていたはずの胸の傷が塞がっていた。
真紅に染まる眼光でマリオンをジッと見るロジェ。
力が溢れてくる……それに、これは……
呆れた様子のマリオンが大鎌を背負い、話し出す。
「生命力は褒めてやろう……残念だが、妾は
マリオンが無数の魔弾を出現させると大鎌を構えてロジェに突っ込んできた。
ロジェは、無数の魔弾とマリオンの大鎌、まるで嵐のような攻撃を、いとも
やはり……これは……この力は……
「貴様……何じゃその動きは……まるで全てが見えているかのような……」
ロジェには見えていた。
マリオンが繰り出す攻撃所作から軌道、空気の流れ……それだけでは無い。
マリオンの全身に流れる魔力経路さえもはっきりと見る事が出来た。
マリオンを睨むロジェ。
「
「ほう、それは面白いが……少々、しつこいのぉー」
マリオンは一瞬の内に、夜空を多い尽くす程の巨大な黒い魔弾を作り出す。
「見えていようが、避ける事が出来なければ、造作もないこと。消えるがよい」
巨大な魔弾がロジェに向けて放たれた。
ロジェは近くには倒れているミレーラに目をやる。
これは……くそっ……逃げられない……
ロジェは倒れたミレーラの前に立つと剣を構え盾となり、巨大な魔弾をその身で防いだ。
巨大な魔弾がロジェを包む。
「さあ、消えてしまえ。下等な者共」
魔弾は急速に小さくなると、無傷のロジェが姿を現した。
マリオンは動揺したのか、
「貴様……まさか……」
ロジェは自分の身体を不思議そうに見ていた。
まただ……力が溢れてくる……
怒りで震えるマリオン。
「おのれ……妾の魔力を奪いおったな!!」
マリオンは大鎌を振り被ると、ロジェに攻撃を仕掛けるが、ロジェは心全眼の力で全ての攻撃を見切っていた。
透視するかのように張り巡らされた魔力回路の動き、血管一つ一つの巡りさえも見ることが出来るロジェには、マリオンの中心で、全身に繋がれた黒い核を見つけた。
あの悪魔の中心にある黒い核から、禍々しい気配を感じる……今の俺なら……使えるかもしれない……
ロジェは、マリオンから距離を取ると「ふぅー」と息を吐いた。
真紅の目がマリオンを捉える。
剣を鞘に納めるロジェ。
世界が息を呑んだかのように、一瞬の静寂が時を包む。
「……
ロジェは剣を抜き、一刀の後、また直ぐに剣を鞘に納めた。
時が止まったかのような刹那、一筋の光がマリオンを通り抜けた。
自身の体を何かが通ったことを認識したマリオンが胸に目を凝らす。
マリオンの体にある黒い核にピッとヒビが入った。
目を見開き驚くマリオン。
「バカな……人間如きに……」
次の瞬間、黒い核は二つに割れ粉々に弾けた。
「……妾が……悪魔が……負けるなど……そんなことが……」
マリオンから激しい黒い光が周囲に放たれる。
悪魔マリオンだった者は、コーデリアに姿を変え、その場に倒れた。
少女から邪悪な禍々しい気配が消えていた……
勝者を祝福するかのように、月明かりが剣士を優しく照らしていた。
エリアソルト=光魔法 上級……自動で攻撃を防ぐ壁が現れる
ホーリーレイ=光魔法 上級……光魔力を圧縮しレーザーのように放つ
ハイヒール=光魔法 中級……重い傷も回復する
ニードルスフィア=攻撃結界…結界で閉じ込めた相手を無数の針で貫く
リバイバル=光魔法 神級魔法…死者を蘇らせる。生存者は完全回復
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます