第12話 ミレーラの決意

 ギルドマスター、ヘレンの討伐依頼の掛け声が響くと歓声に包まれる。


 ギルド内は興奮に包まれていた。


「俺もやるぞ!!」

「町を守るのが冒険者だ!!」

「ゴブリンなんて倒してやる!!」



 そんな中、ロジェは頭をもたげ、考え込んでいる。

 俺は……俺は……


 ミレーラは心配して声を掛けた。

「ロジェ、大丈夫ですか……」


 ロジェはミレーラを見ると、暗く沈んだ声で話し始める、

「ミレーラ……俺は、討伐隊に参加出来ないんだ……兄さんの件は、婆さん達に任せることしか、出来ない……」


 ミレーラは、思いがけない答えに驚く。

「それは……どうして……」


 ロジェが黙っていると、様子を見ていたジェマが話し出す。

「ミレーラさん、ギルドにはルールがあるの……。同時に依頼を受けることが出来ないルールが……」


 下を向き悔しそうにこぶしに力を込めるロジェを見て、言葉を失うミレーラ。

「そんな……」


「ロジェは、ミレーラさんの依頼を受けているわ……同時に依頼を……討伐隊に参加する事は出来ないの……」


「そんな……私のせいで、兄さんを助けに行けないなんて……」


 ロジェは立ち上がると、ズカズカとヘレンの前に近づいた。


「婆さん、俺を討伐隊に入れてくれ!!」


 ヘレンが鋭い眼光で睨む。

「Sランクのお前さんが入ってくれれば力強いが……お前は今、別の依頼を受けているのだろう? それなら参加は無理じゃ」


「だが……俺の依頼である行方不明者が、ゴブリンに捕まっているかもしれない……」


「……だからなんじゃ。それなら、あたしらの報告を待っておるが良い。ギルドのルールを忘れてはおるまい?」


「ああ……それは、知っているが……、頼む……連れて行ってくれ……」


 ヘレンは、ロジェの顔をいきなり殴った。

 その、小さい体からは想像できないほどの勢いで殴られたロジェは、吹っ飛び、床に倒れた。


「ロジェ、お前が討伐に出ている間、お嬢ちゃんの護衛はどうするつもりだ? 討伐でお前が死んだら、誰が依頼を続ける? 少し頭を冷やせ……」


 ヘレンはゆっくり近づき、ロジェの顔に手を当てる。

「……少しは、あたしらを信じておくれ……」


 立ち上がりジェマを呼ぶ、ヘレン。

「ジェマや、あたしは討伐の件を偉いさん方に話してくる、後は任せたよ」

 そう言うと、ヘレンはギルドから出て行った。


 ロジェは椅子に座ると、口に手を当て黙ってしまった。

 くそっ……どうしたら……


 重い時間が流れる……




 ミレーラは不意に立ち上がると、スタスタと依頼が掲示けいじされている壁に向かうと、一枚の依頼書を持ってきた。


 俯くロジェにミレーラが笑顔で依頼書を見せる。

「ロジェ、この依頼書を見て下さい」


 それは……Fランクの依頼書であった。。

 依頼書には回復薬の原料である紫花の採取依頼が書いてある。


 ロジェが不思議そうに依頼書を眺めていると、


「この依頼の紫花なんですが、魔窟の森の入口に生息しているって書いてあります。西門を通る事が出来る依頼では、一番ランクが低いんですよ」


 ロジェは困惑しながら話し出す、

「でも、ミレーラ……ギルドのルールで俺は……」


 言いかけるロジェの口を塞ぐように、ミレーラが手を添える、


「昨日と今日、ギルドに長い時間いたので、色々と見て回ったんです。そして、これを見つけました……」

 そう言って、もう一枚、紙を出した。


 それは、冒険者募集の案内書だった。


「案内書を読みましたが、冒険者になるとGランクから始まるみたいです。でも、この特別採用欄に『二属性以上の魔法使用者はFランクから始められます』って書いてあります」


 ロジェは驚いている。

「ミレーラ……何を言っているんだ……」


 そんなロジェを見て、ミレーラは微笑んだ。

「……わたし、冒険者になります!!」


「…………」

 ロジェは驚きのあまり、声を失った。


 ロジェが急に笑い出す。

「あっはっはっは、そりゃ良いな。冒険者か、あっはっはっは」


「凄いよミレーラ、それならこの依頼『』を受けて、魔窟の森に行ける……行けるよ」


 話しを聞いていた、あきれ顔のジェマが近寄る。

「ミレーラさん……本当にいいの? 本業としてでは無くて、副業としてギルドに登録している冒険者もいる事はいるけど……」


「……なれないのでしょうか?」


「登録自体は問題ないと思うわ……ただ、この『紫花採取依頼』は一人クエストよ。二人分の通行証は発行できないわ……」


 ロジェがジェマの話を遮るように手をかざす、

「ちょっと待てジェマさん。別に一人クエストだろうが、上限人数に制限は無いはずだろう? 一人分の報酬が減るから、普通はしないが、ダメじゃないはずだ」


「……確かにそうよ、初心者の冒険者に同行者が付くこともあるから……」

 困惑するジェマ。


「それなら俺は同行者としてミレーラに付いていく。俺の依頼では無いから、問題ないだろう?」


「……問題は…………ないわ……」


 ロジェは上を向きながら、オーバーアクションで頭を左右に傾げている。

「……俺もミレーラも、魔窟の森は良く分からないな……もしかしたら、迷って、ゴブリンの住む洞窟に入り込んでしまう……」


 ミレーラに笑いかけるロジェ。

「――かもしれないな」


 ミレーラは言葉の意味を理解すると微笑み、

「そうですね!!初めての依頼で、道を間違えないように気を付けましょうね、ウフフフ」


 顔を見合わせた二人は笑いあった。


「……どうなっても、知らないわよ……」

 ジェマは、呆れた顔で二人を見つめていた。

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