第13話 冒険者登録
呆れ顔で二人を見ていたジェマが、テーブルを拭いているミルトに声を掛ける。
「ミルト、ミレーラさんにギルドの説明と登録をお願い」
ジェマの言葉に驚いたミルトは唖然としてミレーラに近寄る。
「ミレーラさん、ギルドに入るんですかぁ……本当ですかぁ?」
ミルトの質問に笑顔で答えるミレーラ。
「はい、よろしくお願い致します。」
ミレーラの言葉に、目をパチパチしながら苦笑いを浮かべたミルトだった。
「そうですかぁ……じゃーあちらの部屋に行きましょう」
ミルトはミレーラを連れてカウンターの奥の扉から、別の部屋に移動した。
部屋には教壇があり、テーブルと椅子が並べられている。
ミルトは教壇の前に立つ。
「ミレーラさんは、この部屋はミーティングルームになりますぅ。説明を始めますので、そちらの椅子に座ってください」
ミレーラを教壇の一番前の椅子に座らせた。
ミルトは不思議そうな表情でミレーラを見ている。
「あの……ミレーラさん、本当にギルドに入るんですかぁ? 危険なこともありますよぉ」
ミレーラは真剣な顔つきでミルトを見つめる。
「……兄さんを探すためです。でも……それだけじゃなくて……自由な冒険に憧れもあるんです。
良く覚えていないのですが、昔読んだ絵本に、自分を犠牲にして皆を助ける。そんな英雄のお話があり、大好きでした……物語では英雄は愚か者と言われていましたけど……」
「その絵本は……」
ミルトはうんうんと頷くと、小さく微笑んだ。
「ミレーラさんは、本当に物好きですねぇ……分かりましたぁ。では、登録の前に簡単に説明しますねぇー」
ミルトはミレーラに『ギルド指南書』というタイトルの本を渡すと説明を始めた。
「――という感じですねぇ。ルールですが――
依頼を重複して受けられない。
最低でも半年に一度は依頼を受けなければならない。
この二つを忘れなければ、だいたい大丈夫ですぅ。何も質問はないですよねぇ」
ミルトはニッコリと笑いかけた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
ミレーラもニッコリと笑った。
「……では、次に登録を始めますねぇ、こちらに来てください」
ミルトはミレーラを連れて、教壇の奥にある小さな部屋へ案内した。
部屋の中には二つの大きな水晶が置かれている。
「どうぞ、こちらの水晶の前に来てくださーい」
ミレーラを水晶の前に立たせるミルト。
「これからミレーラさんに魔法属性の
ミレーラは言われた通りに、二つの水晶に両手を置いた。
「この水晶で、魔法属性を調べるのですか?」
「はい、そうですぅ。魔力を込めると、水晶が光ってその色で属性が分かるんですよぉ。魔法属性は生まれながらに決まっていますからねぇ。この左にある水晶で、得意属性、右にある水晶でその他属性が分かりますぅ」
水晶を不思議そうに眺めるミレーラ。
「得意とか不得意とか、あるのですね……」
ミルトは得意げに答える。
「ありますとも。得意属性だと上位の魔法を覚える事ができますがー、その他属性は、どんなに頑張ってもある程度しか上達しません。自分では得意属性だと思って訓練していても、実はその他属性……サブ属性だったぁー、なんてことも、たまにありますぅ、それだと強い魔法を習得できなくて、時間の無駄になりますから、自分の属性を知ることは、とても大切ですぅ」
「それじゃ、水晶に魔力を込めちゃってください」
「はい……」
ミレーラが魔力を込めると水晶が輝き出し、左の水晶は白く、右の水晶には青と緑の二色が現れた。
「ミレーラさんの得意属性は……光ですねぇ。サブに水と風の属性があります。凄いですねぇ……3属性なんて、なかなかいないんですよぉ」
ミルトは紙を出すと、水晶にかざす。
かざした水晶に魔法属性が書き記されて浮かび上がる。
「はい、これで登録は終わりですぅ。ミーレラさんは、魔法使いの賢者タイプで登録しますねぇ」
「賢者タイプですか?」
「そうですぅ。剣士や弓使い、戦士に魔法使いなど色々なジョブが合って、その中でさらに分類されますぅ。光魔法系で回復、サブで攻撃魔法を使えるミーレラさんは、賢者タイプになりますぅ」
「そうなんですね……ロジェは何になるのですか?」
「ロジェさん? ロジェさんは剣士タイプですねぇ。確か……魔法は全く使えないと思いますぅ。魔法を全く使えない人も、今では珍しいんですよねぇ……」
「そうなんですか……」
「あれぇー、何か気になりますぅ、ロジェさんのことぉー」
慌てるミレーラ。
「えっ、そんなことないですよ」
「そうですかぁ、何か怪しいですねぇ……」
ミルトの質問に、顔を赤くするミレーラだった。
ミレーラとミルトから別室で説明を受けている間、ロジェは西門より先の地図を眺めていた。
「ロジェ、少し話しがあるの……」
そう言って近づいてきたのはジェマだった。
ロジェは頭をテーブルに押し付けるように下げた。
「ジェマさん、無理言ってすまない」
腰に手を当てプンプンと怒るジェマ。
「……ホントよ、依頼人がギルドに入るなんて、聞いたことないわよ!!」
そんなジェマを見て、ロジェは堪えられず笑ってしまう。
「あははは、怒るのも仕方ないな。どうも成り行きで、そうなってしまったからな、申し訳ないよ」
ジェマは怒りを通り越して呆れている。
「あのねー笑いごとじゃないの!! まー、『来る者拒まず』がマスターの考えだから、仕方ないのだけど……」
「『来る者拒まず』か……そのおかげで、俺やあんた、ガランみたいな変わり者が生きて行けてるんだから、婆さんには感謝するしかないな……」
「うふふ、そうね。ところで、ミレーラさんの件なんだけど……」
ジェマは周りに声が聞こえないように、ロジェに顔を近づける、
「彼女と彼女の依頼を調べたけど、特におかしなところは無かったわ」
「そうか……ありがとう」
「でも……彼女の事なんだけど……彼女は光聖教会で『聖女の卵』って呼ばれているわ」
「……『聖女の卵』……」
「かなり優秀な人みたいね……三属性使いで潜在魔力も相当高いらしいわ。性格も良くて、仕事熱心。光聖教会では、次期聖女候補の一人として扱われているの」
「それで……『聖女の卵』ね……」
「ロジェ……未来の聖女様になるかもしれない人よ、ぜっっったいに変なことすんじゃないわよ!! 全世界の光聖教会に、あなただけじゃなく、このギルドも潰されるわ……」
「……ああ……大丈夫だ……」
不満顔のロジェが答えると、ちょうどミルトとミレーラが部屋から出てきた。
「ロジェ、登録が終わりました。無事にFランク冒険者になれましたよ。これで、ロジェとは同僚ですね、うふふふふ」
そう笑うミレーラに、ジェマの話しを聞いたばかりのロジェが苦笑いを返した。
ミレーラは依頼書をジェマに見せる。
「それでは……ジェマさん、この『紫花採取依頼』を受けさせて下さい」
仕方ないなと、優しい目で微笑むジェマ。
「ええ、分かったわ……ここにサインをちょうだい」
ミレーラは依頼書にサインをした。
「紫花を十束手に入れたらギルドに渡して依頼は終了よ。その時に報酬が払われるわ。初めての依頼、気を付けてね。それと……」
ジェマは、小さなプレート二つを渡した。
「これが西門を通ることができる通行証よ」
「このプレートが通行証なのですか? 通行証は、巻物かと思っていました……」
「巻物……誰に聞いたの? それは
「…………」
ロジェは、ガランの顔を思い出していた。
ロジェに近づいたジェマがドンと背中を叩く。
「ロジェ、ミレーラさんのこと、しっかり守るのよ」
「ああ……分かっているさ」
ギルドを出る二人、ミレーラを家にお送り届けたロジェがいつも通り、周囲を警戒していた。
相変わらず監視されている……だが、何もして来ない……こちらが探ると気配を上手く消すんだよな……何者なんだ、一体……
ロジェは不気味な気配の方向を睨んだ。
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