第11話 ギルドマスター

 朝、目が覚めるとミレーラはドアの隙間から外を見る。


 剣を振るロジェを見つけると、朝食の準備を始める。


 朝食が出来るとドアを開け、ロジェに声を掛ける。


「おはようございます、朝食が出来ましたが、ご一緒にどうですか?」


「おはよう、ミレーラ。ありがとう、ごちそうになるよ」


 そう言って笑うロジェを見る事が、最近の日課になっていた。


 朝食を食べる二人。


「ミレーラ、今日も冒険者ギルドでゴブリン討伐の報告を待とうと思う」


「そうですね、今のところ、他に情報がありませんからね……」


「ところで……昨日、エルトン司祭様がおっしゃっておりました『赤い悪魔』という魔物のことですが……『四大魔族』と同じくらい強いと言うのは本当でしょうか?」


 ロジェは食事の手を止め、眉間にしわを寄せて考えている。

 ……四大魔族級の……か……


「うーん……どうだろうな……『四大魔族』と言えば人魔大戦の時の伝説の魔族だ。それぞれが、災害級の魔法を使い、数万の軍勢を一人で壊滅させる力があったとか……」


「ええ……人魔大戦が終結してからは、魔王と共に西側を統治とうちして、魔族の平和に尽くした方々と言われてますね……各地で彼らの伝承やお伽話とぎばなしがたくさん伝えられています……」


 ミレーラは食事の手を止めると、不安気な曇った表情を見せる。


「……そんな伝説の魔族と同じくらい強い魔物が現れたとしたら……私たちは……どうなってしまうのでしょうか……」


 ロジェは、少し黙り、真剣な表情で口を開く。


「……『四大魔族』はだからこそ、その力があったと思う。周囲の魔素を発生源としている魔物が、いくら進化したとしても、伝説級の力は無いだろう。もしかしたらエルトンは、俺達を遠ざけるため、わざと、そう言ったのかもしれない……」


「……そうかもしれませんね……」


 確かに気になるが……正直なところ……依頼が……人命が最優先だ……

「魔物の件は光聖教会に任せるしかないだろう……俺達はテオドルさんの行方を探そう」


「……はい」


 朝食を済ませると、二人はギルドに向かった。



 ギルドに着いた二人。扉を開けるとざわざわとした人だかりの中、慌ただしく働く、ジェマとミルトが見える。

 人だかりを押しのけた先には、血を流して意識を失い、倒れている者がいた。


 ……何があったんだ……


 ロジェはジェマに声を掛ける、

「ジェマさん、何があった」


「ロジェ、話しは後よ。今は怪我人を助けるのが先だわ」


 ジェマが怪我人に近寄ると回復薬を飲ませた。


「ミルト、回復魔法をお願い」


 ミルトが怪我人に両手を添える。


「ヒーリング……」


 怪我人の傷口が塞がっていった。


 ほっとした表情のジェマ。

「ふぅ……とりあえずは大丈夫そうね。この人を医務室に運んでちょうだい」


 怪我人は奥の部屋に運ばれて行った。


 額の汗を拭いながら、ジェマがロジェに声を掛ける。

「ふぅー、さっきはごめんね」


「いや、俺こそ邪魔して悪かった。何があったんだ?」


 ジェマの表情が急に曇る。

「……あなた達が来る少し前に、怪我人が運ばれて来たの……彼は……ゴブリン退治の依頼を受けたグループの一人よ……」


 思いがけない答えに、ロジェとミレーラが驚く。

「何だって!?」


 不安気な表情のミレーラが呟く。

「……他の……他の方々はどうなさったんですか?」


「分からないわ……戻ってきたのは彼一人……。詳しい話は意識が戻ってから聞くしかないわ……」

 ジェマが険しい顔で答えると、


 また……だけしか出来ないのか……

「くそっ……」


 ロジェは苛立ちから、テーブルを叩いた。



 ……数刻の時が流れる。



 医務室のドアが開きミルトが出てくる。

「ジェマさん、怪我をされていたデールさんが目を覚まされました」


「ありがとうミルト、ご苦労様」


 ジェマがロジェに近寄る。

「ロジェ、怪我人のデールさんが目を覚ましたわ。今、マスターが話しを聞いているから、もう少し待っていて」


「ギルドマスター……婆さんも来ているのか……」


 ロジェは一瞬、怪訝な表所を見せた。

 苦手なんだよな……あの婆さん……


 横にいたミレーラも、怪我人を心配して表情が暗かったが、報告を聞いて安心しているようだった。




 医務室のドアが開き、赤いローブを着た、背の低い老年の女性が出てくる。


 颯爽さっそうとフロア中央のテーブルの上に立つと両手を広げた。


「みんなー、静かにして、話しを聞いておくれ」


 その声は、不思議とフロアにいる者全てに響き渡った。


「初めて会う者もいるだろうねぇ……あたしゃ、このギルドでマスターをしている、へレン・リードじゃ。冒険者の皆さん、いつもご苦労様です」


 深々と頭を下げた。


「今朝の怪我人の件じゃが……昨日、ゴブリン退治に出たCランク冒険者五人のうち四人が、夕方、巣穴に入ってから連絡が取れなくなっておる。巣穴の外で警戒中だった者も、ゴブリンに襲われて、傷を負って戻ってきた」


 フロアの冒険者達がざわつき始める、

「たかがゴブリン相手に……」

「寝てたんじゃねぇのかー」

「調子のって下手へた打っただけだろう」


「静かにしとくれ!!」

 両手を叩き、パンという音が響き渡るとフロアに静けさが戻る。


 ヘレンの表情が、神妙な顔つきに変わる。

「怪我人の話しだと……そのゴブリンじゃが……武装して陣形を組んで、襲ってきたそうじゃ……」


 ロジェは驚きヘレンを凝視した。

 なんだって!? ゴブリンが……そんなことがあるのか……


「婆さん、それは本当か? ゴブリンが武装して、統率を取ってくるなんて、聞いたことないぞ……」


 へレンもロジェを見る。

「……何とも信じらんれん話じゃが、嘘はついておらんじゃろう……。おそらく進化したゴブリンか、別の魔物が奴らを従えていると考えられる……とても危険な相手じゃ、放っておく事は出来ん。討伐隊を作り、明日、出発することになるじゃろう、手の空いているBランク以上の者は参加しておくれ。」


 ヘレンは両腕を広げ、訴え掛ける。

「このままでは、ゴブリン共がいつ町に攻め込んでくるか分からん。町を、家族を、命を守るため、皆の力を貸してもらいたい」


 静かに聞いていた冒険者達から一斉に歓声が上がる。

「「「うおおーーーーー」」」


 興奮の中、冒険者達が声を上げ、次々と討伐隊に名乗りを上げていった。


 そんな中、ロジェは手を前に組み、頭をもたげ、考え込んでいた。

 ……討伐隊……だが俺は……


 ロジェの表情は暗く沈んでいた。

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