第10話 ゴブリン退治の依頼
ギルドに向けて歩く二人。
昼下がりの路地を抜けると前から緑髪の女が二人に向けて走って来た。
「ロジェさーん」
あれはミルト……?
大きく手を振りながら近づいて来た女性は、冒険者ギルドのミルトだった。
「はぁはぁ、やっと見つけたぁ……」
「どうかしたのか? ミルト」
「はぁはぁ、ふぅーふぅー……、ロジェさん、大変ですぅ。今朝、ギルドにゴブリン退治の依頼が入りました」
ミルトは全力で走ってきたのか、息を整えながら、必死に話している。
「西の森……魔窟の森に、ゴブリンの巣穴が見つかったようですぅ」
ロジェとミレーラは驚く。
ゴブリンは本当にいたのか……
「……それで、今はどうなってる」
「詳しくは分かりませんが……ジェマさんが私に、ロジェさん達を呼んで来いって……早くギルドに向かって下さい……」
「分かった、ありがとう」
ロジェとミレーラは、ギルドに急いだ。
(私も行かないと……休んでから行こう……)
ミルトはその場にしゃがみ込んだ。
ギルドの扉が開きロジェとミレーラが入って来る。
ロジェは中央にいるジェマに話しかけた。
「ジェマさん、ゴブリン退治の依頼が入ったんだって?」
「ええ、今朝一番に依頼があったわ、今はCランク冒険者五名が依頼に当たっているわ」
「そうか……」
「ゴブリンの巣穴が見つかっただけで、今のところ被害は確認されていないの」
被害がないのにCランク冒険者……どういう事だ……
焦りの表情を浮かべたミレーラが話しに加わる。
「Cランクの依頼ということは、攫われた被害者がいる可能性もあるのですか?」
「……それは分からないけど……本来はDランク程度の依頼よ。最近の魔物発生状況から、危険度が上がってCランクの扱いになったの……洞窟内に被害者は見つかっていないわ」
ジェマは不安気なミレーラの両肩に手を置く。
「今は、報告を待ちましょう……」
安心させるように、優しく椅子に座らせた。
ジェマがロジェとミレーラに飲み物を出した。
「これは、ハーブティー。飲むと気持ちが落ち着くわ」
「ありがとうございます……」
表情が曇ったままだったミレーラは、気を紛らわせるように、ハーブティーを口に運んだ。
連絡の無いまま、ただ時間だけが過ぎて行った。
「「ドン」」
大きな音と共に、ギルドの扉が開く。
見覚えのある大きな男が入って来た。
大きな男はドカドカと中央まで進むと、ロジェを見つけ声を掛けてくる。
「よーボッチ、最近、良く会うなー」
声を掛けてきた大男はガランだった。
「ガランか……西門の守りは終了か……もう、そんな時間が経っているのか……」
「うーーん……どうした、暗い顔をして」
「いや……そうだガラン、西門の外からCランクの冒険者が五人、戻って来なかったか?」
腕組をしながら、考えるガラン。
「Cランク五人……うーん、朝出て行ったゴブリン退治の奴らか? 戻ってきてねぇなー」
「そうか……」
ロジェは待つだけしかできない自分への苛立ちを押し殺していた。
ガランがテーブルに手を付き、ロジェの顔を覗きながら話す。
「なんだボッチ、あいつらを待ってるのか? 今日はもう夜だから戻って来ねぇだろう。どっかで野宿だろうなぁー。ゴブリンの巣穴が見つかったとかで退治に行ったんだろう?」
ロジェの顔には、いつもの余裕が感じられなかった。
ガランは呆れた顔で話を続ける。
「ゴブリン退治なんて、Cランクの依頼じゃねぇさ、EかDランクだ。あいつらも適当にやってるんだろうよ。どうせ、巣穴が見つかんなくて夜になっちまったから、明日に仕切り直しとか、そんなとこだろうよぉ」
確かにそうだが……嫌な予感がする……
「……そうだと良いんだがな……」
ガランは奥のテーブル指差す。
「やけに気にするねぇー、まぁいいや、俺は向こうで飯を食ってるから、暇なら一緒にどうだ? ミレーラちゃんも」
下を向いたまま答えるロジェ。
「いや……今日は遠慮しとく……」
ミレーラも小さな声で答える。
「ごめんなさい」
「そうかー、つれないねー」
ガランは、ミレーラに軽く手を振ると奥のテーブルに座った。
下を向いていたロジェが立ち上がる。
ガランの言うことにも一理ある……ここに居ても仕方ないな……
「ミレーラ、今日は報告はなさそうだ……そろそろ俺達も帰るか……」
「ええ、そうですね……」
ミレーラの表情からも喪失感が伺えた。
席を立とうとする二人。
「ちょっと待ちなさい。こんな時間よ、夕飯を食べていきなさいよ」
そう言って、ジェマが二人の前に食事を並べた。
「すまないジェマさん……」
二人が食事を始めるとジェマが元気のないロジェに話し掛けてきた。
「今日はどうだったの?」
コップに水を入れてロジェの前に差し出す。
暗い表情のロジェ。
「……光聖教会に行ったんだが……馬車の足取りは掴めなかった……」
「そう……残念ね……」
何とも言えない重い空気が流れる。
ロジェは、ハッとした様子で話し出す。
「そうだ、ジェマさん、頼みごとがあったんだ」
ジェマは首を傾げた。
「……頼みごと?」
「西門を通るために、許可証を出してもらいたいんだ」
ジェマは真剣な顔で考えると、厳しい表情で答える。
「それは……申し訳ないけど難しいわ……理由が無いと許可証は出せないのよ……」
ロジェが食い下がる、
「……ミレーラの兄さんが、西の森にいるかもしれない……」
ジェマはさらに難しい顔をしている。
「……でも、その情報は当てにならないし、それだけでは、ギルドとして通行の許可を出すことは出来ないわ……ごめんなさい」
仕方ないな……くそっ……
「……そうだよな……分かった、無理を言ってすまなかった……」
ロジェの表情には悔しと悲壮感が漂っていた。
「そんな悲しい顔するんじゃないの。ミレーラさんが不安になるでしょう……。あなたがしっかりしないと……冒険者なのだから」
そう言うと、ジェマはロジェの頭を叩いた。
「痛て!! ジェマさんは厳しいな……でも、確かにそうだな(ジェマさん、ありがとう)」
下を向いていたロジェは、顔を上げてミレーラを見る。
「また、明日だミレーラ。今日は休もう」
暗く重い表情だったミレーラも明るく返事をした。
「ええ、そうですね」
二人はギルドを出て、ミレーラの家に向かって歩いている。
ミレーラが口を開く、
「何とか西門の先に行くことは出来ないのでしょうか? 北門や南門から出て周って行くとか……」
「うーん……難しいだろうな……町の西側には、大きな河が流れている……そこを渡る橋は西門の街道だけにしか無いんだ……」
「そうなんですか……舟で渡ることは出来ないのでしょうか?」
「……その河を舟で渡ろうとした者もたくさんいたが、大きな渦に巻き込まれるか、魔物に襲われて沈むか……誰一人、渡りきった者はいない……大昔に呪いでも掛けられたんじゃないかって話しだ……」
「それは……難しいですね……」
「……明日、ゴブリン退治の報告があるかもしれない……今は、それを待つしか無いな……」
今日も一日中、見られていたな……
ミレーラの家に着くと、いつも通り、ロジェは一人、周囲の警戒を強めた。
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