第19話 絶体絶命

 磔の男がいる岩に到着した二人、ミレーラが手を伸ばし魔法で、男の傷を癒す。


 ロジェが磔された鎖を破壊し救出すると男が目を覚ました。

「……ここは……」


「ここは、ゴブリンの巣穴の中だ」


「そうか……俺は、あいつらに……助けに来てくれたんだな……」


「そうです、早くここから逃げましょう……他に……他に生きている人がいませんでしたか?」


「いない……俺以外は……もう……」


 うつむくミレーラの肩に手をやるロジェ。


「みんなが待っている……急ごう」


 ミレーラは静かに頷く。


 ロジェ達は洞穴の入口に向かい走った。


 レイナルド達の前には、立ち上ったデストロイがいた。

 バルドの魔法の衝撃でも傷は与えられていなかった。


「ガァッハッハッハ、ワレニハ、キカンゾ、ネズミドモ」


 その時、男を救出したロジェがレイナルドに手をあげ、合図を送り、デストロイの横を走り抜けた。


「撤退するぞ……バルド、さっきの魔法をもう一度、私に合わせ唱えてくれ……いくぞ」


「人使いが荒いな……しょうがない……」


 レイナルドとバルドは同時に魔法を放つ。


「【トルネード】【フレア・ボム】」


 辺りを激しい光が包む。

 二つの魔法がデストロイに直撃すると巨大な体は後方に倒れていった。


 三人は急いで洞穴の入口に向かい走った。


 ロジェとミレーラが洞穴の入口近くで待つ。

 レイナルド達三人も向かってきている。だが、倒れていたデストロイも立ち上がり、ドスンドスンと向かって来ていた。


 ロジェが叫ぶ。

「早く来い、この先なら、あのデカい体では追ってこれない」


 その時、後方を走っていたメロが急に失速するとその場に倒れた。


 レイナルドとバルドが足を止める。


 ロジェはメロに向けて走った。

「俺が行く。お前達は急げ!!」


 倒れたメロを抱えると背中には血が滲んでいた。

 ロジェの手が血でにじむ。

 ……出血が酷い……


「メロさん!!」

 メロに近寄る者が声を掛ける。


 ……ミレーラ、どうして……

 ロジェが戸惑うとミレーラは小さく頷き、答えるようにロジェも頷くとメロを抱きかかえて走る。


「走りながら回復魔法を掛けます……ヒーリング」


 ミレーラはメロの背中に手を当て魔法で傷を癒した。


 もう大丈夫だ……


 ロジェは安心すると、

「ありがとう……ミレーラさん……」

 メロもミレーラに弱々しくも微笑んだ。



 その時、後方のデストロイから大きな音が響いた。


「「ドン」」


 振り返ると、大きな腕で巨大な大岩を持ち上げたデストロイが、ロジェ達目掛けて大岩を投げつけて来た。


「ニガサンゾ、ネズミドモ」


 救助者の男、レイナルド、バルドはすでに、洞穴の通路に入っている。


 レイナルドがロジェ達に叫ぶ。

「早く来い!!急げ」



 しかし、次の瞬間、デストロイより放たれた巨大な大岩が、洞穴入口近くの天井に衝突するのを、三人は目の当たりにする。


 大岩の衝突により、激しい落石が起こると、ロジェの目の前に巨大な大岩が崩れ落ちてくる。


 ロジェは、抱えていたメロを、瞬時にレイナルドに向けてほうると、後方にいたミレーラを抱えて、落下してくる大岩を避けるように同穴に引き返した。


 天井が崩れ、大岩が次々と振ってくる。


 ミレーラを抱えながら、全速力で駆け抜け、岩をかわしたロジェ達の前に、真横から巨大な棍棒が振り払われた。


 咄嗟とっさに剣でガードしたロジェだったが、激しい衝撃と共に、剣は半分に折れ、ミレーラと一緒に遠くまで吹き飛ばされた。


 横壁に衝突する瞬間、ロジェはミレーラをかばうように抱きかかえた。

 叩きつけられた二人は、壁の下に落下した。


 ミレーラが目を開くと血まみれで倒れるロジェがいた。


「ロジェ、ロジェ……」

 ミレーラが必死に声を掛けるとロジェは目を開いた。


 ロジェが、壁に空いている小さな空間を指差す。

「無事か……ミレーラ……あそこに……隠れ……」


 ミレーラは動けないロジェに肩を貸し、壁の穴に隠れた。


 ドスンドスンとデストロイの近寄る振動が徐々に大きくなる。


「ホーリーフィールド」

 暖かい光がミレーラ達の周辺を包み明るく照らした。


「カクレテモ、ムダダ。ネズミハ、オレガ、クウ。ソコダナ」

 デストロイの手が壁の穴に伸びる――が、魔法の光にさえぎられ、近づく事が出来なかった。


「これで、少しは時間が稼げます。この間にロジェを回復します……ヒーリング……?……ヒーリング……回復しない……」


 ミレーラが魔法を唱えても、ロジェの傷は回復しなかった。


「なんで……ヒーリング……どうして……ハイ・ヒール……ヒーリング……なんで……」


 何度魔法を唱えても、ロジェの傷が治ることはなっかった。


「……ロジェ……傷が……傷が治らないの……ごめんなさい……ごめんなさい」


 ロジェは自身に触れられている、震える手を握った。


「君の……せいじゃ……ない……すまない……俺は……生まれつき……魔法が……効きづらい……体質……なんだ……」


 そういうとロジェは、折れた剣を握り、必死に立ち上がろうとしている。


「君のことだけは……必ず守って……みせる……最初に……約束した……からな……大丈夫だ……」


 ミレーラに微笑むロジェは、デストロイに立ち向かうため、前を向いて立ち上がった。


 ミレーラはロジェの後ろ姿を呆然と見つめていた。


(諦めないで、私。まだよ……まだ、終わってない……ロジェも諦めてない……私も諦めない)


 折れた剣を持ち、ボロボロになっても立ち向かおうと歩き出す背中を、ジッと見つめていた目に力強さが宿る。ミレーラは手を組み祈りを捧げた。


 ミレーラが光に包まれていく。

「……主よ、迷える子らにお導きをお与え下さい……」


 光る指をゆっくりと前に出すと、呪文を唱えながら、空中で光る文字をつづっていった。


 光る文字は1行、二行、三行と増えていく。

「……その……光に…………大いなる……」


 さらに書き連れていく。

「……御心…………思し召し…………」


 八行目の最後の文字を書き終える。

 と同時に呪文の詠唱を終えたミレーラはロジェに両手を向けた。


「神級魔法……リバイバル」


 ロジェの体が光に包まれると、全ての傷が治っていた。


 ロジェは自身に起きた変化に驚いた。

 傷が……治っている……


「良かった……」

 意識を失い、力なく倒れるミレーラ。


 ロジェが優しく抱きとめた。

「ミレーラ……」


 ……息と脈がある。気を失っただけだな……足りない魔力を生命エネルギーで補ったんだ……ありがとう……少しだけ、待っていてくれ


 そっとミレーラを寝かせると、折れた剣を持ち、ロジェは結界の外へと歩き出した。



 結界の外では、デストロイだけではなく、どこからか十数匹のゴブリンが囲んでいた。


「キャッハッハッハッハ」


 折れた剣をみてゴブリン共が笑っている。


「ネズミガ、デテキタナ、モウ、シネ」

 デストロイの掛け声と共に、ゴブリンが一斉に襲い掛かってきた。


「……第四ノ剣……円舞えんぶ


 ロジェが口にした瞬間、全てのゴブリンは二つに斬られ、吹き飛んでいた。


 ゴブリン共の死骸が広がる中心で、ロジェは、怒りに染まる冷たい目でデストロイを静かに睨んだ。





ヒーリング=光魔法 初級……簡単な傷を回復する

ホーリーフィールド=光魔法 中級……一定時間、侵入不可の結界を張る

ハイヒール=光魔法 中級……重い傷も回復する

リバイバル=光魔法 神級……死者を蘇らせる。生存者は完全回復

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