第18話 デストロイ

 囚われた男がいる岩に向け、進行する四人。

 湧き続けるスケルトンをロジェがなぎ払う。


 バルドが魔法で岩を飛ばし攻撃する。

「ストーンブレッド」


 イラついているバルドは、叫びながら魔法を唱えていた。

「ゴブリンもスケルトンもどんだけいるんだ。あそこまではもうすぐなのに、だぁぁぁっー、鬱陶うっとうしい」


 その時、湧き続けるスケルトンが、急に動きを止め、ボロボロと崩れて行った。


「あいつが……レイナルドがやったみたいだな……良し、チャンスだ。行くぞ」

 ロジェ達は男が囚われている大岩に、一気に近寄った。


 ミレーラが手を伸ばし、瀕死の男に回復魔法を掛けようとした、その時、ロジェは、足元の影が徐々に大きくなり、自分たちを覆っていくことに気づき、上を向く。


 ロジェが叫ぶ。

「上だ!! みんな逃げろ!!」

 頭上から巨大な何かが落下してきた。


「ミレーラ!!」

 ロジェはミレーラを抱えて後方に飛んだ。


「「「ズドーーーン」」」


 巨大な何かの落下により、激しい爆発音、地響きが起こると洞穴内は土煙に包まれた。


 土煙の中、後方に飛び、難を逃れたロジェが抱えたミレーラに声を掛ける。

「ミレーラ、大丈夫か?」

「……はい、大丈夫です……一体、何が……」


 バルドとメロも駆け寄ってくる。

「兄ちゃん達、無事か?」


「ああ、大丈夫だ。そちらも大丈夫そうだな」


 不安なメロが呟く。

「ええ、何とか……。でも……あれは……何だったのでしょう……」



 煙の中に巨大な黒い影が姿を現す。

 少しずつ煙が薄れていくと影は全容を見せた。


 そこには、見上げる程に巨大な魔物が突如として落下してきたようだった。


 頭に2本の角が生えた赤いゴブリンはズドンズドンと足を踏み仕切り暴れている。

 やがて、手に持った巨大な棍棒を振り回すと、突風が起き、周辺の岩壁が崩れてくる。


「アノ、ガイゴツ……ワシヲ、トジコメヤガッテ……フザケルナ!!!!!」


 赤いゴブリンは強烈な叫び声をあげた。


 怒りに任せて両腕を地面に振り下ろすと、ドカンと言う音と衝撃で洞窟内に亀裂が入った。


 怒りに任せてジタバタと暴れただけで、周辺は破壊され、巻き込まれたゴブリン共が、血溜まりと化している。


 なんだ、あのデタラメな破壊力は……

 ロジェは暴れまわる巨大な魔物に唖然としていた。


 レイナルドが後方から叫ぶ、

「全員、こいつから離れるぞ!!」


 大剣を構えて巨大な魔物目掛けて攻撃を仕掛けるレイナルド。。

 赤いゴブリンの首に大剣を振り下ろした。


 だが――ガチンと言う衝撃音に対して、僅かに傷が付いただけで、レイナルドの剣を弾き飛ばした巨大なゴブリンは、何事も無かったように五人を見下ろす。


「ウルサイ、ネズミドモガ、イルナ……」

 赤いゴブリンは、右手に持った巨大な棍棒を地面に向けて振り払うと、その衝撃で五人を吹き飛ばされた。


 ミレーラの魔法で五人を光の盾が包む。

「ディフェンスシールド」


 吹き飛ばされた衝撃をシールドが防ぐと、五人は距離を取り集まる。


 レイナルドが緊迫した声で話しかける。

「皆、無事だな」



 緊張した表情のバルドが答える。

「ああ、今のところは……レイナルドさん、あいつは……一体何者なんだ……」


「あれは……おそらく、キング・ゴブリン……しかも……特別種だ……数千年前に町1つを壊滅させた、赤いキング・ゴブリンの伝説を聞いたことがある……」


「あれは、そんなバケモノなのか?」


「分からないが……喋るゴブリンなど、聞いたことがない……赤いキング・ゴブリン『デストロイ』以外は……」


 不安そうにメロが話す。

「レイナルドさん、そんな伝説のバケモノ相手にどうすれば……」


 レイナルドはメロの頭をなでると、

「私とバルド、メロであいつを引き付ける……その隙にロジェ達は、岩の男を救出してくれ……その後は、一旦撤退して討伐隊と合流する」


「……分かった。死ぬなよ」

 ロジェは頷くとレイナルドの鎧を拳でコツンと叩く。


「貴様もな」

 レイナルドもロジェをコツンと叩いた。


「よし、行くぞ!!」

 レイナルドとバルド、メロの三人がデストロイの前に立ち塞がる。


「ミツケタ……オマエラハ、オレノ、メシ……ニガサナイ」


 バルドは怒りに震えていた。

「『メシ』だと……他の人たちを食ったのか、お前!! ……ゆるさんねぇ」


 レイナルドが風のような速さでデストロイ目掛けて大剣を振り下ろす――

 ――だが、デストロイは大剣を腕で防ぐと、レイナルドを目掛けて棍棒でなぎ払う。


 レイナルドは大剣を盾にして攻撃を防ぐが、ドカンと鈍い音を立てると、重い一撃にはじき飛んだ。

 地面に落下する前に、態勢を立て直し着地する――が着地を狙い、デストロイが棍棒を振り下ろす。


 メロが大剣で身を守るレイナルドの前に、魔法で三つの盾を出現させた。

「トリプル・ディフェンスシールド」


 魔法の盾はデストロイの攻撃による衝撃を抑えるようにパリパリと割れていった。


 魔法の盾では防ぎきれず、レイナルドが構える大剣にデストロイの棍棒が到達する。


 周囲の地面が下がる程の激しい衝撃が起きたが、レイナルドは耐え、棍棒を止めた。


 バルドがデストロイに向けて両手を構える、


「俺が使える最大魔法だ……左手に火魔法、右手に土魔法……爆裂魔法フレア・ボム」


 バルドは左右の魔法を合わせるように手を組むと、両手から放たれた魔法がデストロイに命中する、


「「ドガーーーン」」


 激しい爆発音と爆炎の中、巨大な魔物は膝をついた。


 膝を折り動けずにいるレイナルドに駆け寄る二人。


 メロが魔法を唱える、

「ハイヒール」

 回復したレイナルドはゆっくりと立ち上がった。


(大剣の使い過ぎか……握力が弱い)

(バルドとメロの魔力も限界が近い)

「ロジェ……まだか」


 冷静に状況を分析するレイナルドの前に、ゆっくりとデストロイが立ち上がった。






ストーンブレッド=土魔法 初級……岩を出現させ対象に放つ

ディフェンスシールド=光魔法 初級……物理防御の盾を出現させる

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