第20話 決着

 落石を免れたレイナルドとバルドは、洞穴の入口通路でメロに声を掛けていた。


「メロ……メロ、大丈夫か?」


 意識を戻したメロが周囲を見渡す。

「……はい、大丈夫です……でも、ロジェさんとミレーラさんが……」


 同穴の通路は大岩で完全に塞がっていた。


「くそ、私が付いていながら」


 レイナルドは怒りで岩に拳を打ち付けた。


「戻ろう……討伐隊と合流する」

 レイナルドは自分に言い聞かせるように発した。


 三人は救助者と共に洞窟の出口に向かった。


 洞窟から外に出ると、ジェネラルスケルトンと討伐隊の戦闘が、今まさに終結する瞬間だった。


「ファイヤレイ」


 ヘレンが放つ炎の光がジェネラルスケルトンを貫くと、炎に包まれ燃え尽きていった。


「マスターッ!!」


 ヘレンを見て安心したのか、うろたえたレイナルドが叫び、ヘレンに近づいた。


「マスター、ロジェとミレーラが……」


 その時、激しい地響きが起きると、レイナルド達三人が出てきた洞窟は、完全に崩れ落ちた。




 洞穴

 デストロイをにらむロジェ。


「ギサマ、ネズミガァァァ」


 デストロイはロジェ目掛けて棍棒を振り下ろした。


「……第三ノ剣……蜃気楼しんきろう


 デストロイの棍棒がロジェの頭に直撃し、グッチャリと鈍い音と共に辺りが鮮血で染まった。


「ガッハハハ、ツブレタ、ツグレタ、ガッハハッハハ」


 デストロイは、ドカンドカンと何度も棍棒を床に叩きつける――が、背中に感じる気配に振り返ると、剣を横に構えるロジェを見つける。


「???????」


 確実にロジェを頭から潰した手応えを感じていた。

 血飛沫ちしぶきさえ、見えていた。

 デストロイは、その奇妙な状況に混乱し、忘れていた【感情】をその小さな人間から感じた。


「グオォォォォォォォォ!!」

 デストロイは、久しく忘れていた【恐怖】を振り払うように叫び、棍棒を振り上げ、ロジェに向かい突進する。


 剣を横に構えるロジェ、


「……第一ノ剣……高速剣」

 そう口にした刹那せつな、棍棒を振る上げ、突進するデストロイの体が斜めに分断されていた。


 分断され二つになった巨大な肉塊にくかいは、重力に逆らうことができず、くずれ落ちていく。


「ガ、ナニガ、ァァァァァァ」


 崩れ落ちる中、デストロイは数千年前に似た構えをした剣士から、初めて【恐怖】を感じ、逃亡していたことを思い出していた。


 デストロイだった肉塊にくかいが地面に落ちると、ズドーーーンという、激しい衝撃音と地響じひびききが辺りを包んだ。


 ロジェは折れたを軽く振ると、剣に付いた血をビュッと振り払った。





 ミレーラが目を覚ますと見知らぬ場所のベッドだった。

 (ここは……どこ?)

 上半身を起こし、周りを見渡すとベッドにもたれ掛り、寝ているロジェを見つけた。


 ミレーラが声を掛ける。

「ロジェ!!」



「……ミレーラ、目を覚ましたのか……良かった……」


 混乱するミレーラ。

「ここは、どこですか……? 私たちは、どうなって……あの赤いゴブリンは……?」


 ロジェは立ち上がり、コップに水を入れ渡しながら話す。


「ここは、俺の魔道具まどうぐの中だ。ゴブリンは、ミレーラの魔法のおかげで倒すことが出来たよ」


 唖然とした表情でロジェを見つめるミレーラ。


「……赤いゴブリンを倒したのですか……」

(記憶が曖昧で……魔法を成功させた時の記憶が……)

 ミレーラは困惑している。


 辺りを見渡し冷静になろうとするミレーラ。


「……ここがあの『便利魔道具』の中……」

 ミレーラは生きている現実が、とても信じられずに言葉を失っていた。


「魔力を使い果たして、気を失ったみたいだから、安静にしていれば良いと思って、ここで寝かしていたんだ……」

 優しく声を掛けるロジェが、あっけらかんと話した。


 ミレーラも安心したように冷静さを取り戻した。

(危険は……とりあえず去ったのですね……)



「……そうでしたか……私は、どれくらい気を失っていたのでしょうか?」


「そうだな……それは外に出てみれば分かるよ。歩けるかい?」


「ええ、大丈夫そうです」

 ミレーラはデストロイの恐怖を思い出し、恐る恐る魔道具の入口へと向かった。


 ロジェとミレーラは、魔道具の部屋から外に出る。

 そこは、紛れもなくデストロイと戦った洞穴だった。

 洞穴のあちこちには、激しい戦いの後が残っていた。


 ……だが、魔物の死骸しがいは嘘のように綺麗に消えていた。


「魔物達の死骸が消えているだろう……」


「はい……」


「ゴブリンのような魔素まそから生まれる魔物は、死んでから一日半も経つと、自然に魔素まそに戻るんだ」


「そういえば……ギルドに入る時に聞きました。……そういう魔物を討伐した時は、直ぐに肉体の一部をギルドに持って来なさいと……」


「そうだな。そして、死んだ動物が魔素に取り込まれて生まれてくる魔物は、爪や皮なんかの素材を残していくから、それが討伐の証拠になる」


「……では、私は倒れてから少なくても、一日半は経過しているのですね」


「ああ、おそらく二日ほどだろう」


「……そんなに、経っているんですね……」


「……討伐隊の連中も心配しているだろうから、動けるようなら、すぐに移動したいのだが……」


ミレーラは心配させまいと元気に答える。

「はい、大丈夫です」


「よし、俺は外で待っているから、準備をして来てくれ。テーブルに干し肉とパンが置いてあるし、風呂もあるから、もしよければ入ってきてくれ」


「ありがとうございます。では、準備してきます」


 ミレーラは、準備のため魔道具テントに戻って行った。



 ミレーラはテーブルに置かれたパンを食べると、奥のドアを開けた。

 小さいながら、風呂とトイレがある。

 蛇口を捻るとお湯が噴き出す。

(どういう原理だろう……こんな場所でお風呂に入れるなんて……なんて便利なの……)

 ミレーラは驚きながらも嬉しそうに笑うと、服を脱ぎ、頭からお湯を流した。


(あっ! 鍵はないのね……ロジェ……まさか……入ってこないでしょうね……)

 ドキドキしながら、急いで体を流すミレーラだった。





ファイヤレイ=火魔法 上級……炎を圧縮しレーザーのように放つ

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