第21話 祈り

 洞穴で待つロジェ。 

 しばらくすると、準備を終えたミレーラが魔道具テントから出てきた。

 

「あの先に通路を見つけた。先は分からないが、そこしか道は無かったから進むもう」

 ロジェが指差す方向に横穴が見える。


 ロジェは渋い顔をすると、言いにくそうに口を開く。


「……それと……ここでもテオドルさんは見つけられ無かったが、まだ、ここにいたと決まった訳ではない……あきらめずに探索を続けよう」


「はい……そうですね。まだ分かりませんから」

 そう言ってミレーラの目は悲哀に満ちていたが、作ったような笑顔でロジェに答えた。


 ミレーラは、無理をして笑っているな……

 ロジェはミレーラの心配を掛けまいとする作り笑いにすぐに気が付いたが、普段通り大きくうなずき、 明るく返事をした。

「とにかく、ここから出よう」



 歩き出すミレーラが辺りを見渡すと、悲しげな表情でロジェに話しかけた。

「ロジェ、お願いがあります……死者の魂をとむらいたのですが……」


 ロジェは不思議そうに聞き返す。

「魂を弔う?」


 ミレーラが寂しそうに呟いた。

「ええ、この洞穴には、たくさんの成仏できなかった魂が存在しております……」



 洞穴の中心でひざまずき、手を胸の前で組み、祈りをささげるミレーラ。


 ロジェはミレーラの姿を見ながら、彼女の言葉を思い出す。


「成仏出来ない魂……無念にも亡くなった多くの魂が、行き場を無くして彷徨さまよっています……本来の場所に行けるように祈りをささげたいのです……」


 ミレーラを中心に温かい光が洞穴を包む。


 洞穴のあちこちから、たくさんの白い煙のようなものが、天井に向かい消えていった。


「……安らかにお眠り下さい……」



 凄い能力だ……これが、聖女の力か……

 ロジェがミレーラに近寄る。


「ロジェ……ここに兄の魂はありませんでした……」


「そんなことまで分かるのか……」


 その時、ミレーラの前に、光に包まれた男が1人現れた。


「あり……が……とう……テオ……ドルさ……ん……生きて……いる……光……聖教会……知って……いる……」


 そういうと、男は天に消えて行った。


 呆然と立ち尽くすミレーラ。

「今のは……」


 ハッとしたように何かを思い出した。

「……今の男の人は……あの夜に兄を迎えに来た方……」


 ミレーラは顔をおおうとうつむき涙を流した。

「……兄は……生きている……」


 ロジェは、そんなミレーラの肩を優しく抱き寄せた。



 しばしの時間が経つ。

 ミレーラは泣き止み、立ち上がる。


「ロジェ……ここから出ましょう」

 ミレーラは、諦めかけた希望に一縷の光が差し込み、力強く歩き出す。


「ああ、まずはここから出ることが先決せんけつだ」

 ロジェもまた、消えかけた希望を胸に前進する。 


 二人は、ゴツゴツした洞穴内を歩くと、壁に空いた通路に入って行った。



 通路を進む二人。相変わらずゴツゴツと岩が突き出た通路だったが、どんどんと奥に進むにつれて、次第に人口的に作られたような整備された通路になっていった。


 ミレーラが整列された石が並ぶ通路を見て、不思議そうに話す。

「ここは、誰かに作られた場所なのでしょうか……」



「どうだろう……だが、自然に出来た訳ではなさそうだな……」

 不思議な光景だな……広い洞穴もそうだが、こんな場所が魔窟の森にあったなんて……

 ロジェは警戒心を強めて、通路を進む。


 さらに奥まで進むと壁に囲まれた、何もない部屋が見えてきた。


「何もない部屋ですね……」

 ミレーラは注意深く辺りを見渡すが、そこには四方が上下が壁に囲まれ、ただただ何もない部屋があるだけだった。


「行き止まりなのか……何かあるかもしれない、念のため、良く調べて見よう」

 二人は手分けして、慎重に左右の壁を調べた。


 正面の壁に小さい絵が掛かれたタイルを見つけたミレーラ。

「ロジェ、見てください。ここに紋章のようなものが描いてあります」


 壁には長い年月により、消えかけているが、紋章のようなものが描かれているように見える。


「見たことない紋章だな……」


 ロジェが何気なく手を伸ばしその絵に触る。

 急に部屋全体が光り出すと床に魔法陣が現れた。


 しまった!?

 ロジェがそう思うと同時に、二人は魔法陣の力で、どこか別の場所に飛ばされていた。


 飛ばされた先でロジェがミレーラに近寄る。

「ミレーラ、無事か?」


 ミレーラも変わった所はない。

「はい……大丈夫です。ここは、どこでしょうか……」


 二人は周囲に目をやると、石畳の床に石柱が並ぶ。まるで神殿のような場所に飛ばされていた。


「どこかの神殿のような感じだな……」


 ロジェは警戒しながら歩き出す。


 神殿の中心付近には階段があり、その先に祭壇さいだんのようなものが作られていた。


 謎めいた祭壇を前に不安そうなミレーラ。

「あれは何でしょうか?」


「いってみよう」


 ロジェは階段を上っていった。


「ロジェ、見てください。ここにも先ほどと同じような紋章がありますよ」


 ミレーラが指し示した祭壇下部分には、紋章が描かれている。


 これは……剣か……


 祭壇には、剣と思われる物が根本まで突き刺さるようにまっている。


 ロジェは不思議そうに祭壇を見つめる。

「この剣をまつっている場所なのか……」


 ワクワクしているのか、ミレーラは嬉しそうに笑う。

「そうかもしれませんね……この剣……引き抜いてみますか?」


 ……お宝の剣なのかもしれないが……また、罠が発動するかもしれない……

「いや……また何かが発動するかもしれない……外を見てみよう、どこかに通じる道があるかもしれない…」

 ロジェは帰ることを第一として、危険回避のため、その場を後にした。


 神殿内の端まで移動した二人。


 警戒しながら外を見渡すと、神殿は水に囲まれたおり、周囲は、今だ洞窟内のようで、天井と周辺は岩壁に覆われていた。


 ロジェは困惑した表情を見せる。

 ここは、一体、どこなんだ……



「ロジェ、見て下さい。あそこに通路がありますよ」


 ミレーラは、水に囲まれた神殿から、唯一延びる石橋の先に、横穴の通路があるのを発見した。


 あの道以外の通路はないな……


「よし、あそこに行ってみよう」


 ロジェは神殿から出るために歩き出す。


 神殿から出ようと、足を踏み出した瞬間……

 ブーーーーーーーという警戒音が鳴り響く。

 突然、神殿にいくつも設置されていたトーチが順々に明かりをともす。


 何かの気配を感じ天井を見上げる二人。

 そこには、炎に包まれた何かが、不気味に浮かんでいた。

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