第24話 可愛い朝

 可愛らしいベッドでミレーラが目を覚ます。


 銀の細工が施された清楚な化粧台の上には、たくさんの化粧品が並んでいる。

 窓辺には植物が育てられ、腰程の高さがある白いドレッサーの上には、語学本や歴史本などの他にも、時計やランプ、アロマオイルが置かれた棚が綺麗に整頓してある。


 ミレーラは、憧れを抱くような瞳で小さく呟いた。

「素敵なお部屋……」


  (この部屋は…………そうだわ!? ジェマさんの……ロジェの……お家だわ……)


 ミレーラは俯き、寂しそうな顔をしながら何かを納得して、一人頷いた。


(ジェマさん……とても素敵な女性だから……仕方ないなー……)


 ミレーラは笑顔を作ると、ドアを開き部屋の外にでる。


 ドアの開く音で、台所で朝食を作っているジェマがミレーラに気づいた。


「おはよう、ミレーラさん」


「おはようございます」


「もうすぐ、朝食が出来るから外にいるロジェを呼んできてもらえる?」


「はい、分かりました」


 ミレーラが外に出ると、ロジェがいつも通り、剣の稽古をしていた。


「ロジェ、おはよう。朝食の準備が出来たそうよ」


「おはよう、ミレーラ。すぐに行くよ」


 ロジェが家に入ると、テーブルの上には食事の準備が整っていた。

 全員がテーブルに着くと朝食を食べ始めた。


 ミレーラが恥ずかしそうにジェマに話しかける。

「ジェマさん、昨日はベッドを借りてしまって申し訳ありませんでした」


 ジェマは笑顔で答える。

「ミレーラさん、良く眠れたみたいで、疲れていたのね……いいのよ、気にしないで。それに、私は、ロジェと一緒のベッドで寝たから、大丈夫よ」


「あー……そうでしたか……」


 ミレーラは無表情のまま、静かに笑っている。


 驚いて食事をのどに詰まらせるロジェ、

「ゴホッゴホッ、ちょっとジェマさん、変なこと言うなよ」


「あはははは、冗談よ、冗談。昨日は、そこのソファーで寝ていたから、ミレーラさん、気にしないで」


 噴き出すロジェを見て、ジェマは手を大袈裟に振りながら、大笑いしている。


 ミレーラは言いにくそうに話し出す。

「その……ジェマさんとロジェは、一緒にこの家に……」


 ジェマは楽しそうに、

「そう、ここに住んでるわ……。、家は別だけどね」


「えっ……」


 ミレーラは、予期せぬ答えに瞳孔が開く。


「ほら、すぐ隣にもう一つ家があるでしょ。あれがロジェの家よ」


 ジェマは窓の外の家を指差した。


「ここはギルドの貸し家なの。マスターがロジェは一人じゃ何にも出来ないから、私に面倒を見ろって、あの家をロジェに貸してるのよ」


「そうだったんですか……ハハハハハ」


 ミレーラ自身、安心したのか、何なのか良く分からないが自然と笑いがこぼれていた。


 ロジェは不満そうに

「いやいや……ジェマさんは一人だと無茶するから、近くに住めって言われたのは俺だが……」


 ロジェを睨む、ジェマ。

「ん……何か言った?」

「いや……何も……」


「まぁー買い出し頼んだりするから、家の鍵は渡しているけど……もしかして、ミレーラさん、……心配した?」


 ジェマの言葉にドキッとしたミレーラは、顔を赤らめて下を向いている。

「いえ、そんなこと無いですよ。ホントに、全然、何でもないですよ」



 食事を終えると準備を済ませ、三人は冒険者ギルドに向けて出発した。



 冒険者ギルド


 ジェマがミルトに声を掛ける。

「おはよう、ミルト」



「ジェマさん、おはようございます。あ!? ロジェさん、ミレーラさん。良かったぁ……心配したんですよぉ、もぉー」


 ロジェを見つけたミルトが駆け寄ると、両手でロジェの胸をポコポコと叩いた。


 申し訳なさそうなロジェ。

「ああ、すまなかった……」


 ミルトは涙を浮かべて近寄るとミレーラをギュッと抱きしめた。

「ミレーラさんもぉ……無事におかえりなさい」


 ミレーラも涙を浮かべてミルトを抱きしめ返す。

「ミルトさん……ありがとう」



「ミルト、もうそろそろ良いだろう……そこまでにしておきな!」


 騒がしい音に気付いたギルドマスターのヘレンが、自室のドアを開け顔を出した。


「二人とも、良く無事に戻ってきたね。安心したよ……さて、早速だが、こっちで報告してくれ」


 ヘレンは二人を部屋に呼んだ。



「ジェマから大体の話しは聞いているよ……よく戻って来たね……嬢ちゃんも、大変だったね」


 優しい目で二人を見つめるヘレン。


 ロジェは静かに頷くと、これまでの経緯を話し始める。

「婆さん……ゴブリンの巣穴に突入してから後の事だが……」


 話を聞いたヘレンが静かにロジェを見つめた。

「そうかい……そのキングゴブリン……デストロイが、噂の『赤い悪魔』だったのかい?」


 ロジェはヘレンの言葉に驚いている。

「婆さん、何でその名前を……」


「あたしゃ、これでもギルドマスターだよ。大抵のことは聞いておるよ」


 ロジェは下を向き考え込む。

「……どうだろう……確かに強かったが……」


「そうかい……。それで……神殿の魔法陣で飛ばされた先が、星降る丘だったんじゃな……」


「ああ、そうだ。あの神殿もイフリートも、何だったか分からないが……」


「……そうかい……報告ご苦労さん。これから光聖教会に行くのかい」


「ああ、あいつらは、ミレーラの兄さんの件で、何かを隠しているみたいだしな……」

 そう言って部屋を出ようとする二人。


 ヘレンはミレーラに向けて頭を下げた。

「ミレーラ。危険な目に合わせてしまって、本当にすまなかったねぇ……私の判断ミスだよ……」


 ミレーラも深々と頭を下げた。

「いいえ……お婆ちゃんには色々と気を使ってもらって、ありがとうございました」


「兄さん……無事に見つかることを願っているよ……」


 ヘレンが優しく微笑むと、もう一度、ミレーラは頭を下げる。

 二人は部屋を後にした。


 二人が出ていった後、部屋に置かれている写真をぼんやりと眺めているヘレン。 


 ヘレンは、懐かしそうな顔で一人小さくつぶやく。

「……星降る丘か……何とも、あのお方らしい場所だね……」

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