第25話 暗雲
部屋を出るとミレーラはジェマに呼ばれた。
「ミレーラさん、こっちに来て。【紫花採取依頼】を完了するわ」
ロジェは一人。
椅子に座ると飲み物を口にしながらミレーラを待った。
「ロジェさん!!」
聞き覚えのある声が響く。
パタパタと走って来たメロがロジェに声を掛けてきた。
「ロジェさん、無事で何よりです。とても心配しました」
メロの後ろから歩いて来たレイナルドが、憎まれ口をたたく。
「ふん、死にぞこなったな。貴様の顔を見なくて済むと、
バルドも一緒だ。
「レイナルドさん……そんな言い方しなくても……。二人が閉じ込められて、一番心配して暴れてたのに……」
両手を頭の後ろに挙げて近づいてきたバルドがニヒヒヒと笑う。
「バルド、余計な事を言うな!!」
大きな声を出すレイナルドがバルドを睨む。
「大変だったんだぜ、巣穴の前の岩をガンガン叩いて、『助けに行く!!』って叫んでさ……婆ちゃんが止めなかったら、今でもあそこにいただろうね」
「うふふふ、そうですよ。姉さん、変な強がり言わなくても」
バルドとメロは、恥ずかしそうなレイナルドを見て笑っていた。
「うるさい、黙れ……」
怒り顔のレイナルド。
ロジェがキョトンとした顔で、レイナルドを見つめる。
「……『姉さん』……???」
レイナルドをじっと見つめるロジェ、
じっと見られるレイナルドが顔を赤らめている。
「何だ!! ジロジロ見て、何か用か!!」
「あの……レイナルドさん……。あなたは、もしかして、女性なのですか……」
「あ゛ぁぁぁぁぁ、貴様、失礼な奴だな。私は女だ!!」
レイナルドは顔を真っ赤にして
殴られ、吹っ飛んだロジェを満足そうな顔で眺めるレイナルド。
「ふん、まー無事で良かったな。今夜、ゴブリン討伐の祝勝会をギルドで開催する。お前達も来て良いぞ……じゃあな」
レイナルドはヘレンの部屋に入って行った。
「素直じゃないなー。あっ、俺たちも婆ちゃんに呼ばれていたんだ。じゃあな、兄ちゃん」
「ロジェさん、ミレーラさんによろしくお伝え下さい」
メロがロジェにお辞儀をすると、二人も部屋に入って行った。
ロジェは殴られた頬を押さえて、苦笑いを浮かべた。
「何だったんだ……」
ギルドのカウンター
「それではミレーラさん。これで【紫花摂取依頼】は完了です。初めてのクエスト成功、おめでとうございます」
ジェマが拍手を送ると、自然とギルド全体がパチパチと拍手に包まれた。
ミレーラは、恥ずかしそうに、ギルドの仲間たちに深々とお辞儀をした。
拍手をしていたロジェもミレーラに近づく。
「そろそろ、行くか……」
「はい……」
二人はギルドを出ると光聖教会に向かった。
光聖教会入口
受付に行くと案内係の女性が話しかけて来た。
「こんにちは、ミレーラ様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「はい……エルトン司祭様は、いらっしゃいますでしょうか?」
「エルトン司祭様ですか……」
案内係は何やら予定の書いてあるノートをパラパラとめくっている。
「申し訳ございません。司祭様は、現在、外出しております」
「外出中ですか……、お戻りはいつ頃でしょうか?」
「はい、えっーと……出張のようで、三週間後の予定になっております」
驚いたロジェが案内係に詰め寄る。
「三週間だと!? ……どこに行ってるんだ」
「……それは、ミレーラ様の従者の方にも、お教えすることが出来ません」
「……」
黙るロジェ。
ミレーラが話しを続ける。
「……では司教様は、いらっしゃいますでしょうか?」
「司教様ですか……司教様は代表会議にご出席するため、こちらを離れております」
「司教様も司祭様もご不在なのですね……」
「はい、その通りでございます」
「……分かりました、ありがとうございます」
二人がその場を立ち去ろうすると、
「ミレーラ様、お待ちください。二日前に出発する際、エルトン司祭様からこちらを預かっております」
ミレーラは、案内係から手紙を受け取った。
封を切り、手紙を読むミレーラ。
ミレーラ様
テオドル殿の件でご報告がございます。
一ヶ月程前の西門の記録を調べたところ、夜中に一台の馬車が西門を通過しておりました。
しかしながら、詳細な記録が何者かに改ざんされ、消されております。
おそらく、テオドル殿の失踪に関係していると思われます。
西門は、我々の光聖教会と冒険者ギルドが管理しております――が、例外がございます。
クルム伯爵の関係者ならば、許可は必要ありません。
私は伯爵との
クライン城に出向き、真相をお聞きして参ります。
急な予定ゆえ、手紙にて失礼致します。
光聖教会 司祭 エルトン・ヴァルドネル
手紙を読み終えたミレーラは、険しい表情をしていた。
「……この手紙によると……エルトン様は二日前にクルム伯爵にお会いになるためにクライン城に行かれたと……」
ロジェも状況が分からず困惑している。
「……だとしたら、三週間の出張とは……どういうことだ……」
二人はミレーラの家に向かって歩いていた。
俯くミレーラ。
「兄の失踪に伯爵様が関係しているのでしょうか……どうしたら……」
ロジェもまた、思い悩んでいるようだった。
「エルトンが伯爵と会って、何かを聞き出した……そして、表向きは出張になっているが……戻って来ていない……」
ミレーラの家に着く頃には、夕暮れが近づき、辺りは薄暗くなっていた。
考えがまとまらないロジェは、ミレーラを家に帰す。
「ミレーラ、今日は取り敢えず休もう」
「……はい、分かりました。おやすみなさい」
ミレーラはロジェの言葉に違和感を感じた――が、(何か考えがあるのかしら……)と思い、家に入って行った。
こうなったら……仕方ない、こちらから出向くしかないな……
ロジェはミレーラが家に入るのを見届けると、全力で走り出した。
樹々を駆け上がり、あっと間に屋根の上に飛び乗ると、風のような速さで屋根伝いを走っていく。
「……!?……」
その行動に驚いた一つの影。
「よう……あんた、あの子に何か用か?」
ロジェは離れて屋根の上で、二人を監視していた、黒装束を着た者と対峙した。
「……あんたの知っている事、全て話してもらう」
ロジェは剣を抜き構えた。
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