第37話 ミレーラの冒険

 ロジェはクルム伯爵邸に来ていた。


 ロジェに感謝しているからか、親しげに話してかけてくるクルム伯爵。

「今日は来てくれてありがとう。娘のこと……本当に感謝している」


 別室に招かれたロジェは、クルムと向かい合っている。


「本日は……お招き頂き……」

 頭を下げようとするロジェをクルムが止める。


「まあ、そう固くならずに。今日は城ではなく、別邸にお呼びだてしたのは、貴殿とゆっくり話がしたかったからだ。まあ、座ってくれたまえ」


「はぁ……」

 ロジェは気のない返事をすると椅子に腰を下ろした。


「まず、この度の件、改めて礼を言おう。それで……何か褒美ほうびをしたいのだが、望みはあるか?」


「うーん……」

 ロジェは頭をひねり、考えている。


「そうですね……では、今回の件をおおやけにしないで頂きたい」


 クルムが黙り、真剣な表情を見せた。


「……なぜだか、理由を聞こう」


 ロジェもまた、いつも以上に真剣な眼差まなざしをしている。


「……ここだけの話しにしてくれ……」


「ああ……約束しよう」


「俺が使う剣技は、門外不出の技だ。その情報が漏れれば……俺は消されるだろう。それだけじゃない……周りにまで迷惑を掛けることになる」


 ロジェはうつむきながら、重く鋭く、言葉を発するとクルムを見た。


 クルムはロジェからすごみを感じていた。


「……分かった。これ以上の詮索せんさくは止めよう……。貴殿の望み通り、此度このたびの件は内密にしよう……。まぁ、コーデリアの事があるから、そもそも公には出来んが……」


 クルムはロジェの顔をジッと見る。

「……だが、これでは、褒美にならんだろう……何か他にはないのか?」


「他……そうだな……特に無いな……」


「はっはっはっ、何とも欲のない男だな」

 クルムは思いもよらない答えに笑いが込み上げてくる。


「……実は、頼みがあるのだが……」

 急に厳しい顔でクルムがロジェに話しかける。


「頼み?」


「コーデリアの事だが……。貴殿の使う剣技は、どうやら体の……細胞の力を操作して、極限にまで高める技だと聞いたが……」


「なぜ!? そんな事を……(あの爺さんか……)」


「その……オレク殿に教えて頂いた。それでだ、剣技とまでとは言わんが、その力の操作をコーデリアに教えて貰えないか……」


「お嬢様に?」

 ロジェは首をかしげた。


「ああ……悪魔の力は消えたが、もともと持っていた力が悪影響を及ぼすかもしれないと……力を制御させるために、貴殿の技を教えて頂きたい」


 腕組をして考えるロジェ。

「…………剣技は無理だ……。だが……表向きの技として武術がある……」


「武術だと?」

 予期せぬ返答にクルムが驚く。


「そう……世に出ている武術のと呼ばれる流派で、これならば教えられる。きっと、自身の力を制御できることだろう……」


「そうか……武術か……体の弱いあの子にできるだろうか……」

 クルムが不安そうに聞き返す。


「この武術は、体の強さは関係ない。誰にでも内蔵するオーラを使うから、少しずつ覚えれば、問題ないだろう」


「そうか……それならば、是非ぜひともお願いしたい。して、その武術とは……」


「……無双流と言います。その依頼、冒険者として、喜んでお受けしますよ」

 ロジェはニッコリと微笑んだ。




 クライン城の城門


 警備の兵士にミレーラが話しかけた。

「こんにちは……」


 警備兵は槍を手にして答える。

「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「……はい……」


 ミレーラは、勢いでここまで来てしまったが、城に入るための理由が無く、入場できない事に気付きあせっていた。


(どうしたら…………そうだ!)


「療養中の兄、テオドルに会いに来ました」


「テオドル殿の妹君ですか……確認、致します」

 警備兵は何やら連絡を取っている。


「ミレーラ様ですね。確認できました、お通り下さい」


「はい、ありがとうございます」

 ミレーラは胸をなで下ろし、城門をくぐった。


 城内に入るとテオドルが出迎えてくれる。

「ミレーラ、今日はどうした? 何かあったのか?」


 ミレーラの態度は落ち着かない。

「兄さん……具合はどう?」


「もうすっかり良いよ。城内の仕事が片付いたら、光聖教会に戻る予定になっている」


「光聖教会に戻られるのですが?」


「ええ、こちらはもう大丈夫そうだから」


「そうですか……」


 ミレーラはテオドルとの会話中も落ち着かない様子で、キョロキョロと辺りを見回していた。


「ところで……ロジェはこちらに来ておりませんか? 伯爵様とお会いする約束みたいですが……」


「ん? ロジェどのは来ていないな」


「えっ!! そんなハズはないのですが……」

 ミレーラには、驚きと落胆の表情が伺えた。


「ああ、そういえば、伯爵は別邸にご用事があり、出ていったぞ。もしかしたら……ロジェ殿とはそちらでお会いするのかもしれないな……」


「そんな……」

 肩を落とすミレーラ。


「ロジェ殿に用件があったのだな……」

 テオドルは妹の落胆ぶりに、どうにかして力になれないか考えた。


「……では……」

 テオドルは、手をポンと叩いた。



 空の上

 ペガサスに乗り天空を駆けるミレーラ。

(空飛ぶペガサスに乗れるなんて……夢みたい)

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