第3話 誓約
ギルドの一室で剣士ロジェはミレーラから依頼内容を聞いていた。
身振り手振りで必死に兄の失踪事件を話すミレーラの言葉を、微動だにせず真剣に聞くロジェであった。
ミレーラの話しが終わる。
すかさずジェマがロジェに話しかけた。
「……ということだから、依頼内容は、お兄様の探索とミレーラ様の護衛になります」
腕を組み、静かに聞いていたロジェには疑問があった。
おかしな話だ……疑問点が多すぎる……
「ミレーラさん、兄さんはクルム伯爵邸の光魔術師だったんだろう……」
「はい、そうですが……」
「うーーん……伯爵に使えるほどの魔術師だ、たとえゴブリンの群れが襲ってこようが、撃退できるだろう……倒せないまでも、逃げる事なら十分可能だ……」
ジェマは首を
「確かにそうね……」
それだけじゃない……
ロジェはまだ納得できない疑問があった。
「仮にゴブリンの洞窟に連れて行かれたとしたら、そんな大事件、ギルドに討伐依頼が来ないはずがない……ジェマさん、そんな依頼は来てるか?」
「……いいえ、ゴブリンに人が
やはり依頼が出てない……
ロジェの頭には、疑念の念が渦巻いていた。
「おかしな事件だな……呼びに来たはずのクルム伯爵邸に行かなかったこと……そもそも屋敷では何も起きていない……それだじゃない、森に一人でいて連れの男も消えている……憲兵の捜索結果も辻褄があわない……さらに……誰かに監視されている……」
ロジェは、ゆっくり立ち上がりミレーラ瞳をじっと見つめた。
綺麗な目をしている……嘘を付いている訳ではなさそうだ……
何かを納得したように小さく頷くロジェ。
「よし、この依頼、受けよう」
ミレーラは嬉しそうに立ちあがる。
「本当ですか……ありがとうございます……」
ロジェの手をギュッと掴むと、ミレーラは安心したようかのように微笑んだ。。
そんなミレーラをロジェは真剣な顔で見つめる。
「……ただ、兄さんの安否は不明だ。時間も過ぎてしまっている。最悪の可能性もある。それだけは覚悟してくれ……」
ミレーラは寂しそうに下を向くと静かに頷く。
「……はい、分かりました」
「ただ、警護に関しては、俺は、依頼主のことは絶対に守る。だから安心してくれ」
そういうと、ロジェはにっこりと微笑んだ。
そんな二人にジェマも手を差し出し、ロジェとミレーラと三人で握手をする。
「これで依頼は成立ね」
ジェマはミレーラに振り向く。
「ご依頼ありがとうございます。お兄様が無事に発見されることを祈っております」
緊張がほぐれた安心からか、涙を浮かべるミレーラ。
「こちらこそ、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
今度はロジェに振り向くと、手を掴み、強引に握手をした。
「依頼のご契約ありがとうございます。ロジェ、しっかりね……。ギルドでも情報を集めるわ」
ロジェも真剣な表情を見せる。
「ああ、頼む」
三人が部屋から出るとミレーラがジェマに呼ばれる。
「ミレーラさん、契約書にサインが欲しいから、向こうにお願いします」
ミレーラは、ギルドのカウンターで書類にサインを済ませた。
ジェマはカウンターから出ると騒がしいギルドの中、ロジェに近づいた。
「依頼、頑張るのよ『ボッチ』」
「……そうやってジェマさんが呼ぶから、他の奴らが真似するんだ!!」
「アハハハハ、良いじゃない。少しは人気が出て依頼が増えるかもよ」
ジェマは笑いながら、ロジェの背中をバンバン叩いている。
急にロジェは真剣な顔になり、小声で話しかける。
「……あの依頼主のことを調べておいてくれ、嘘をついているとは思えないが、念のため……」
「相変わらず慎重ねー。分かったわよ」
ロジェが歩き出そうとした時、ジェマはロジェの腕を引っ張り近くに寄せた。
「あーそれと、可愛いからって手を出しちゃダメよ。なんかあったら、あんたに依頼を紹介した私の責任になるから、ちゃんと真面目に働きなさいよ」
そういうとジェマはドンとロジェの肩を叩いた。
「そんなことは分かってるよ……」
ギルドの館から、ロジェとミレーラが出てくる。
ミレーラを家まで送るのに、ロジェが護衛についている形だ。
月明かりで照らされた道を二人が歩いていく。
ミレーラの家は町の東側にある東門の近くだ。
町の東側は居住者が多く、レンガ作りの家々が多く立ち並んでいる。
「ミレーラさん、探索は明日からだ。……護衛する上での注意としては、この事件が解決するまで、なるべく一人での行動は避けてほしい」
「分かりました。ロジェさんの命令に従います」
「命令では無い……お願いさ。ところで、ミレーラさんは、光聖教会で働いているんだって? 」
「はい、そうです。今は休暇を頂いておりますが、光魔法で病気や怪我で困っている方々を癒しております」
「……行方不明の兄さんは、クルム伯爵邸で働いていたんだったな」
「はい、もともとは光聖教会で働いていたのですが、実力を認められて、クルム伯爵様のお屋敷で専属の魔術師として働いておりました」
「引き抜きがあって、クルム伯爵……領主に雇われたのか……兄さんは優秀だったんだな」
……やはり……ゴブリンなんかに攫われないな、それに……
ロジェは歩きながら、辺りを警戒している。
遠くから、気配を感じる。様子を見られているな……仕掛けて来ないなら、俺としても相手の出方を見ておくか……
ミレーラの家に到着した。
小さいが庭のある平屋の一軒家だ。
「ロジェさん、お見送りありがとうございます」
「ああ、俺はここで見張りをするから、何かあったら声を掛けてくれ」
「ここで……お庭で寝るのですか? 」
「ああ、まあ、それが護衛の仕事だからな」
「そうですか……わかりました。それでは、よろしくお願いします。おやすみなさい」
ミレーラはロジェに一礼すると、家に入って行った。
辺りを見渡すロジェ。
それにしても、気配は感じるが、どこにいるか尻尾を掴ませない。なかなかの相手だ。失踪事件……久しぶりに楽しくなってきた。
こみ上げてくる好奇心に月明りの下、ロジェは
遠くからロジェを見る黒い影。
「まさか『ボッチ』のロジェが出てくるとは……」
そう言うと黒い影は、夜の闇に消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます