第4話 朝日の決闘

 朝日が登り朝を迎えた。


 ミレーラは自室で目覚めると、玄関に向かいとそっとドアを開けてロジェの様子をのぞいてみた。


 外ではロジェが稽古のためか、一心不乱に剣を振っている。

 ミレーラはその姿に声を掛けるのを躊躇していた。


 人の気配を感じたロジェがドアの方に目をやる。

「おはよう、ミレーラさん」


 ミレーラは覗いていたことがバレてしまい、驚きと恥ずかしさから、ドギマギしている。


「お、おはようございます、ロジェさん。――これから、朝ごはんを作りますが、一緒にどうですか?」


「ありがとう、よろしく頼むよ」


「はい」


 ミレーラは、驚いたことを隠すように急いでドアを閉めると、朝食の準備を始めた。


 ロジェが稽古を終え、汗を拭いていると朝食の準備が終わり、家の中へと呼ばれる。


 テーブルに向かい合って座り、パンと目玉焼きソーセージのある朝食を食べ始める二人。


 パンを頬張りながらロジェが話す。

「ミレーラさんは料理が上手なんだな。おいしいよ」


 ミレーラは嬉しそうに微笑んだ。

「ずっと、兄と二人でしたから、自然と上達したんですよ」


 そうだ、探索の件を相談しないとな……

 ロジェが思い立ったようにミレーラに話しかける。


「ミレーラさん、お兄さんの捜索の件だが…俺が探している間はあなたの警護が出来ない。そ

 こで、危険が無いようにギルドにかくまってもらおうと思っている」


 ロジェの言葉に手が止まると、少し考えた様子のミレーラが口を開く。


「……ロジェさん、私の心配をして頂けるのは嬉しいのですが、私も兄を探したいと思っております。ご一緒させてもらえませんか」

 ミレーラの小さい声からは、強い意志を感じとれた。


 そうきたか……

 ロジェは驚き、たまらず食事の手を止める。


「だが……もしかしたら危険な事があるかもしれない……君の安全も依頼に入っている……すまないが、一緒に連れて行くことは出来ない」


 その言葉にうつむいたミレーラだったが、顔を上げてジッとロジェの目を見る。


「……私は魔法を使えます。光魔法以外で水と風の魔法が使えます。いざという時は、自分の身くらなら守ること出来ます。兄さんを早く見つけたいんです。お願いします。私も連れて行って下さい」

 ミレーラは先ほどとは違い、はっきりとした声でロジェに意志を伝えた。


「ミレーラさんは、三属性も魔法を使えるのか?……それは凄いな……でも、何が起きるか分からない……連れては行けない」

 ロジェは首をゆっくりと横に振った。


 ミレーラはしっかりとロジェを見ながら話す。

「どうしても駄目ですか?」


 ロジェもまた、真剣な顔でミレーラを見据えていた。

「ああ、どうしてもだ」


「…………」

 黙り込んだミレーラが不意に立ち上がる。


 ミレーラが真剣な眼差しをロジェに向ける。

「わかりました……では、ロジェさん……あなたと戦って、私が勝ったら、私も兄の捜索そうさくに同行します。いいですか?」


 予期せぬ言葉に慌てるロジェは、椅子がひっくり返るのを堪えると、手をブンブンと振り、オーバーアクションでミレーラに説得を始める。


「……なんでそうなるんだ、ダメだ。それに、俺が負けたら、あんたを守るのに俺の力なんて必要なくなるだろう、そしたら依頼の必要が無くなるんじゃないのか」


「それは、それです。警護対象の力を知っておくのも大切でしょう」


 動じないミレーラは食事を食べ終え、さっさと家の外に出て叫んだ。


「冒険者ロジェ、あなたに決闘を申し込みます。さあ、正々堂々、戦って下さい」


 無茶苦茶だな……

 ロジェは呆気にとられながらも、外へと出て行く。


 やれやれ、とんでもない依頼主だな……

 苦笑いを浮かべるロジェは頭をくとミレーラの前に向かった。


「ミレーラさん……馬鹿なことは止めよう、俺は戦うとは言ってない……」

 呆れた顔のロジェがミレーラに近づこうと歩きだした。


 ミレーラは、杖をロジェに向ける。

「いきます!! 光魔法……フラッシュ」

 ピカリと杖が輝くと、辺りを閃光が包んだ。


 ……おいおい、本気か……やれやれ……仕方ない……

 大きな溜息をつくと、ロジェは目をつぶり、素振りで使っていた木剣を拾った。


 ミレーラは、さらに魔法を唱える。

「水魔法……ウォータボール」

 掲げた杖先から丸い水の塊がロジェに向かって放たれる。


 ロジェが魔法目掛けて木剣を振り下ろす。

 ズサッとした音と共に、水の塊を半分に切り裂いた。


「それなら、風魔法……ウィンド」

 風の刃が放たれ、ヒュゥ唸りを上げロジェの足もとに迫る――が、ロジェはジャンプで風の刃を華麗に躱した。


 ロジェが空中にいる一瞬を狙うミレーラ。


「(今がチャンス!!)空中なら逃げられないでしょう。ウォータボール」


 構えた杖から、水の塊がジャンプ中のロジェを目掛けて勢いよく飛んでいく。


 着地する僅かな時間を狙った水魔法はバンと音を立て、ロジェに炸裂したように見えた――が、魔法が接触する瞬間、ロジェは消え、ミレーラの目の前に現れると、ピタリとミレーラののどに木剣を当てていた。


「ミレーラさん、これで終わりだ」

 身動きが取れないミレーラ。


 天を仰いだミレーラは、ゆっくりと膝から崩れ、その場に座り込んだ。

「……降参こうさんです……」


 座り込んだミレーラは、下を向き涙を流した。

「ロジェさん……ごめんなさい。どうしても兄を探したかった……ごめんなさい」


 ロジェは腕を組み、考え込んでいる。

「…………」

 驚いた……なかなかの魔法速度と精度だった……


 ミレーラに近寄り、片膝を立てて座ると、ロジェは彼女の肩に手を置いた。


「……ミレーラさん、結構強いんだな……分かった、一緒に君の兄さんを探そう。依頼人の頼みだし、あなたの気持ちも大切にしたい。それに……それだけの力があれば、きっと助けてもらう事もあるかもしれない」


 ミレーラは顔を上げ、ロジェに近寄る。

「本当ですか……ロジェさん、ありがとうございます」


 ミレーラの顔があまりに近寄いので、ロジェは少し照れながら、二、三歩下がった。

「ただし条件がある……絶対に一人で行動しないこと。危なくなったら必ず逃げること」


「はい……分かりました」


「それともう一つ、俺の事はロジェと呼んでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」


 ミレーラは少し黙る。


「……では、私のこともミレーラと呼んでください」


 ロジェはその申し出に、一瞬驚いた顔をした。

 依頼人を呼びつけか……断って、また、決闘を申しまれたら……


「ああ、分かったよ。ミレーラ」


「ありがとう、ロジェ」


 朝日が輝く中、二人はお互いの顔をみて笑いあった。






フラッシュ=初級 光魔法……周囲を激しい閃光で包み、目をくらませる

ウォータボール=初級 水魔法……球状の水を対象に向け放つ

ウィンド=初級 風魔法……風の刃を対象に放つ

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