第6話 西門のガラン

 西門に到着した二人。


 西門

 ミレーラは歩き疲れたのか、息を整えるように空を見上げている。


 初日から、急ぎ過ぎたか……疲れさせてしまった……


 ロジェは、申し訳なさそうに声を掛けた。

「西門は魔大陸側で、魔物が多く発生するから、門を突破された時に対策が立てやすいよう、町からだいぶ離れている。俺はいつもの事だから気にならないが、この距離を歩くのは疲れただろう。気を使えずに申し訳ない」


「いえ……私こそ、ごめんなさい。兄さんを探すのに、無理やりついてきて、邪魔になったらダメですよね。大丈夫ですので、気にしないで下さい。さあ、行きましょう」


 ミレーラは心配させまいとスタスタと足早で西門の門前へと歩き出した。


 石造りの大きな西門前に、これまた大きな人影が見える。


 身の丈の大きな男が、ブンブンと手を振っている。

「おや、珍しい奴が来たなー。ボッチじゃないか」


 あのデカい奴は……


「お前、ガランじゃないか。どうしてここにいるんだ? 冒険者を辞めて、門番になったのか?」

 ロジェは大きな男に近づくと、軽く右コブシで男の胸をコツと突いた。


「バカ言うな、最近は魔物が大量発生しているから、俺はギルドの依頼で、やりたくもない門番をしてるんだ」


「あははは、お似合いだよガラン。どうせ、ジェマさんに頼まれて断れなかっただけだろ?」


「うるせい!!」

 そう言うと、ガランもまた右コブシでロジェの胸をコツンと突いた。


 ガランが意地悪そうにロジェに話す。

「ところで、何しにこんな所まで来たんだ? 魔物退治のソロクエストなんて無いはずだが……」


「人探しで来た……一ヶ月前の夜中に、この門を馬車が通らなかったか?」


 頭を捻り考えるガラン。

「馬車だぁー。さて、どうだろうなー」

 振り返ると西門の大きな扉を指差した。


「見ての通り、西門は厳重管理中だ。通行許可がある者だけしか通れないように、いつも閉め切ってある。しかもだ、日が暮れたら俺は帰るから、通る事は出来ない。つまり、夜中に馬車など通れる訳がないってことだ。どうだ、参ったか」


 大きな男は自信たっぷりに答えて見せた。


「そうか……」

 ロジェは考え込んいた。


 ガランが大声で話し続ける。


「西門の外は魔物が大量発生中だからな。夜は外出禁止だ。まーそんな中、出ていくバカはいないだろうが」


 ロジェの眉がピクリと反応する。


「ん? ……だったら、討伐組のギルドメンバーはどうしてるだ? 夜に門を通れないなら、帰って来れないじゃないのか?」


 自信たっぷりのガランは、さらに浮かれ声で話し出す。


「あー、それは大丈夫。討伐クエストの連中は、みんな西門の鍵を持っているから。鍵って言っても、この巻物なっ。これを使って門の内側と外側を行き来できるって寸法よ。ボッチはクエストに

 参加できないから知らないのも仕方ないけどなー、わっはっはっは」


 豪快に笑うガランを余所に、ロジェは考え込んでいる。


「そうなのか……か……」

 裏を返せば、鍵があれば……夜中の通行も可能ということだ……


 ガランはロジェの後ろを覗き込むように見ると、笑顔で話しかけた。

「ところで……後ろにいる可愛いお嬢さんは誰だい?」


 ミレーラは大きな男がヌッと出てきて驚いたが、動揺を照れ笑いで隠しロジェの前に出る。


「始めまして、ミレーラ・フランセルと申します。ロジェさんに今回の件を依頼をした者です」

 深々と丁寧にお辞儀をするミレーラを前に緊張するガラン。


「ご依頼者さんだったかい、ご丁寧にありがとう。俺はガラン、剛腕のガランと言われております。ボッチが一人じゃないと思ったら、こんな可愛い子を連れて……珍しいことだと思ったよ。よし、ボッチ!! ジェマさんは俺に任せてくれ」

 ガランはそう言うと、ロジェの前で自分の胸を叩いて見せた。


 呆れた顔のロジェが静かに呟いた。

「……お前は何を言ってるんだ……」



 ミレーラはガランの体の大きさにたじろいでいる。

「ガランさんは本当に大きいですね。それに、凄く強そうです」


 ガランは喜び、浮かれているように見える。

「そうかい、分かるかいミレーラちゃん。俺は強いぜぇ、アッハッハッハ」


 大声で笑うガランだった。


 ロジェが神妙な口ぶりでガランに質問する。

「……さっきの馬車の件だが、例えば商人や城の使用人なんかも、鍵…巻物を持っているのか?」


「ん? まー持ってる奴もいるだろうが……討伐メンバーの冒険者以外は、夜の使用は禁止だ」


「禁止か……それでも緊急で使用することは無いのか?」


「無いだろうなー、クルム伯爵から直々じきじきに禁止令が出ているもんだから、バレたら牢獄行きだぞ。わざわざ危険を犯すより、酒でも飲んで、朝まで待ってから、安全に通るだろう」


 ロジェは少し驚いた顔した。

 クルム伯爵が禁止令を出している?だと……


「なんで……そこまで厳重なんだ?」


「ああ……なんでも夜中に強力な魔物が発生しているらしいぞ。伯爵の騎士団でも倒せないぐらい強いらしい。無駄に死人を増やすだけだから、ギルドにも討伐依頼は出てないみたいだなぁ……噂だ、噂」


「ガラン……お前が、そんな情報まで……(あの脳筋のガランが……)」

 ロジェは分かりやすく動揺していた。


 照れくさそうに頭をかくガラン。

「……こんな所で、一日中門番なんてやってたら、聞きたくなくても聞こえてくるんだよぉ」


「……なぁ、ガラン。西門の管理は何処がやってるんだ……」


「管理……たしか……光聖教会だな。なんでそんな事聞くんだ?」


「光聖教会か……ありがとよ、助かったよ。またな」

 そう言うとロジェはガランに手を振り、町に向かって歩き出した。


 手を振りながら大声でガランが叫ぶ。

「ちょっと待てよ。もう日が暮れる、俺の馬車で町まで送って行ってやるから、待ってろ。お前は良くても、ミレーラさんは大変だろう」

 ガランはミレーラにニッコリと笑いかけた。


 ガランが……気遣いをしている……

 ロジェは悟られないように心の中で驚いていた。


 せっかくの誘いだ……ミレーラも疲れているだろうし……

 ミレーラと目が合うと小さく頷いた。


 ミレーラは深々とお辞儀をした。

「ガランさん、ありがとうございます。お願い致します」


 二人はガランが手綱をとる馬車に乗りギルドへと向かった。


 ゴトゴトと揺れる馬車の中、ロジェは静かに考えごとをしていた。

 ガランの話は矛盾が無いように聞こえるが……引っかかるな……


 ミレーラもまた、沈黙の中、兄がいなくなってから昨日までの事を考えていた。

(兄さんがいなくなって昨日まで一人で寂しくて不安だったけど、今日はロジェやガランさんがいてくれる……)


 ミレーラは少し心が軽くなった気がした。


 ヒヒーンと馬の鳴き声が聞こえると、二人を乗せた馬車がギルドに到着した。


「よーし、着いたぞー二人とも」

 ガランの大きな声が馬車の中まで聞こえてくる。


 ロジェとミレーラが馬車から降りると、ガランが笑顔で話しかけてきた。

「俺はギルドで飯を食って行くけど、お二人はどうだい?」


 ミレーラが疲れているだろう……

 ロジェは断ろうと顔を横に振ろうとした。


「本当ですか、ご一緒させて下さい。いいですよ……ね?」


 ミレーラの予想外の反応にロジェが驚く。


 ……あまり長居はしたくないな……

「……ああ、分かった。でも、飯だけだぞ。明日の予定も相談したいしな」


「ありがとう。ロジェ」


 三人はギルドに入って行った。

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