第7話 ギルド酒場

 ガヤガヤとうるさい室内。 

 冒険者ギルドでは、たくさんの冒険者達が食事やチームでの話し合いや、壁に掲示してある依頼を眺めている。


 ロジェ、ミレーラ、ガランの三人がテーブルに座ると一人の女性コツコツとヒールを鳴らし、近づいて来る。


「ガランとロジェが一緒にいるなんて、珍しいわね」

 笑顔で話しかけて来たのはジェマだった。


「よぉ、ジェマさん。西門でボッチと会って、飯を食べに来たんだ。いつ見てもベッピンだねぇ」


 ガランの言葉を軽くあしらうジェマ。

「あら、ありがとう、ガラン」


「ロジェ、依頼をしっかりこなしてるみたいね」


 口うるさいジェマに軽く頷くロジェ。

「ああ……」


 ジェマは同じテーブルに座るとミレーラに話しかけた。

「ミレーラさんも何か困ってない? 大丈夫?」


「はい、大丈夫です。早く兄を見つけたいのですが……」


「そうだね……何か進展はあったの、ロジェ」

 ジェマがロジェの顔を見ると、ロジェは少し怪訝な表情を浮かべる。


「……今日は情報集めで、あまり進展が無いな。行方不明の直前に乗った馬車を追っているが、まだ分からない…」


 ジェマの表情も曇った。

「そう……ギルドにも、お兄さんが襲われたゴブリンの情報は入ってないわ……」


 四人の座るテーブルに、食事と飲み物が運ばれて来る。

 運んで来たのは、緑色の髪が肩にかかる女性だ。スカートが短く、長い脚がスラリと伸びている。ジェマを見つけた女は、驚いて話しかけてきた。


「ジェマさん、ズルい。なんで、みんなと食事してるんですか。ロジェさんも、こんばんわぁ」


 ロジェに笑顔で元気な声をかける。


「こんばんは、ミルト。ジェマさんには、依頼の報告をしていたところだ。直ぐに仕事に戻るだろうから――」


 ロジェの会話を遮るように、ジェマは怒り気味でミルトに話し出す。


「ミールートー。私は、さっき、仕事が終わったのよ。帰ろうとしたら、珍しい二人を見かけたから一緒に食事をしてるの。プライベートよ、プライベート」


 ミルトはさらに驚いた顔すると、体をくねくねして、駄々をこねだす。


「えー、そうなんですかぁー。ズルいですよぉー!! ジェマさんだけぇー!! ズルい、ズルい。我がギルドの誇るSランク二人と食事なんて、うらやましぃーよぉー」


「あのね……ミルトは仕事中でしょ。ぶどう酒を三つ追加でお願い」


「えっーーー……はぁーい、分かりましたぁー。そちらのお嬢さんは、何か飲みますかぁ?」


 ミルトは呆気に取られているミレーラに声を掛ける。


「いえ、私は大丈夫です。あっ……ご挨拶が遅れました。ミレーラといいます。よろしくお願いします」


「初めましてミレーラさん、ミルトですぅ。こちらこそ、よろしくお願いしますねぇ」

 軽くお辞儀をするとミルトはスタスタと歩き、厨房に戻っていった。

 周りの冒険者がミルトの長い脚に見惚れている。


 ミレーラは自身の胸と足に目をやると、小さく溜息をついた。

(ジェマさんに、ミルトさん……綺麗な人が多いんですね……)


 ミレーラは二人を見ながら、目を丸くして驚いていた。

「それにしても、ガランさん、ロジェも…Sランクなんですね……凄いですね」


「そうなのよ、こんな中央から外れているギルドにSランクがいるなんて、ちょっと自慢なのよ」

 ちゃっかり座っているジェマも誇らしそうにぶどう酒を飲む。


「そうだぜ、ミレーラさん、俺はSランク剛腕のガラン。強力な魔物がどれだけいようが倒してやるぞー。がぁっはっはっは」

 ガランは豪快に笑いながら、ガブガブとぶどう酒を飲み干した。

「ミルトちゃん、おかわりだ!! ドンドン持ってきてくれ!!」


「はーーい。すぐに行きますよぉー」

 ミルトは次々とぶどう酒を持ってくる。


 ミレーラはロジェを見つめると感慨深げに話しかける。

「ロジェもSランクだったなんて……私の依頼を受けてもらえて……ありがとう」


 そんな二人を見た、ガランは少し酔った様子でミレーラに笑いかける。

「ミレーラさん、こいつはボッチだから魔物討伐に参加しないんだよ、それでもSランク。なんでか分かるかい?」


「……何でですか?」


 ロジェは少し慌てた様子で話しに割り込む。

「おい、やめろ、別にランクなんて関係ないだろう」


「まー良いじゃねぇか、自分が雇った冒険者の情報も必要だろう? こいつはなー……」


「「ドン」」


 ジェマが突然テーブルを叩く。


「こら、ガラン、酔い過ぎだぞ。余計な事は言わなくて良いの!!」


 ガランはジェマの剣幕にビックリしていた。


「……そんなに怒るなよ、ジョーダンだよ。悪かったな、ちょっと飲み過ぎた、がっはっはっは」


 ロジェは、何とも言えない顔をしていた。

 俺が怒るところを取られた……


「そういえばガラン、あなたも真面目に門番をしているじゃない」

 ジェマも酔っているのか、少し言葉が荒くなっている。


「そうだろぅ……一ヶ月前に無理やり押し付けられたけどな……がっはははは」

 ガランは当たり前のように、豪快にぶどう酒を飲み干した。


 その後は、ミレーラがクライン城のおとぎ話をジェマから聞いたり、ガランの武勇伝を聞いたり、愉快な時間と共に何ともくだらない話しが続いた。


 テーブルで寝ているガランを横目に、ロジェとミレーラが立ち上がる。

「俺たちは、そろそろ帰るよ」


 ジェマは笑顔で軽く手を振る。

「依頼、頑張るのよ。引き続き、ギルドでも情報を集めるから、また立ち寄ってね」

 ロジェは小さく頷くとギルドを出た。


 ミレーラの家に向かって歩く二人。

 辺りはすっかり暗くなり、家々から漏れてくるはずの灯りも消えていた。


「遅くなってしまったな……」


「ええ、でも楽しかったです。無理に食事に誘って、すいませんでした」


「いや、そんな事はないさ……ただ……ガランの事だが……少し警戒しておいた方が良い……」


 ミレーラは驚き立ち止まる。

「えっ!? ガランさんをですか?」


「ああ……あいつの門番の依頼だが、おかしなところがある」


 ミレーラは困惑した表情を見せた。

「……おかしなところ?……」



「あいつの門番は昼間だけだ。魔物は夜に活発に動く……だから、夜は門の通行が禁止されている……。でも、それなら……より危険な夜に門を監視する必要がある。無人にして良いわけがないんだ」


「確かに……そうですね……夜に魔物が押し寄せて来たら……対処出来ませんものね……」


「……それに、厳戒態勢の中、門番が一人だけというのもおかしい……西門には、何かあるのかもしれないな……もしかしたら、失踪事件も、その『何か』が関係しているのかもしれない……」


「兄さんの失踪が……西門に関係しているのですか!?」


「断定はできないが……明日は、西門の管理をしている光聖教会に行こうと思っている……確か、ミレーラはそこで働いているんだったな」


「はい……私は、回復魔法で治療や、子供達に読み書きを教えています」


「……それだけじゃないんだ。光聖教会は……領主であるクルム伯爵から、門の通行許可や警備なども任されている……詳しく調べる必要があるな……それに……」


 ロジェは足を止める。


「一日中、俺たちは監視されている……今は、何もしてこないが、気を付けたほうが良いだろう……」


 ミレーラは不安そうな顔で、頷いた。


 二人は、ミレーラの家に到着した。


「俺は外で見張りを続けるから、ゆっくり休んでくれ」


「ロジェ……ありがとう。でも、今日も外で寝るなんて大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ」

 そういうと小さな指輪を見せた。


「これは変わった魔道具で、寝床が出せる」

 指輪を地面にかざすと魔法陣が現れ、テントの様な入口が出現した。


 ミレーラは驚いている。


「中は広くないが、風呂とトイレも完備している。俺はここで休むから、心配いらないさ……それに、この中で俺が寝ていても大丈夫だ。近くに侵入者が現れると知らせてくれる」


「それは、本当に凄く便利な物ですね」


「ああ……東側の強国が使用している魔道具の一つだ」


「東の国ですか……」


「ああ……では、明日も早い。そろそろ休んでくれ」


「はい、明日もよろしくお願いします。お休みなさい」


 ミレーラは家の中に入って行った。


 ロジェは、月明かりに照らされる夜空を見上げていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る