第8話 光聖教会
朝日の中、一心不乱に剣を振るロジェ。
ミレーラの家のドアがパタンと開きロジェが振り返る。
「おはようございます。朝食が出来たので、一緒に食べませんか?」
朝日を浴びるミレーラの笑顔はキラキラと輝いて見える。
ロジェはミレーラを見てドキッとしたが、悟られないように表情を変えずに答える。
「おはよう、ミレーラ。ごちそうになるよ」
ロジェは剣を置き、落ち着きを取り戻すように、ゆっくりと汗を拭くと、ミレーラの家に入りテーブルの椅子に座った。
ミレーラが慣れた手つきで食事を運びながらロジェに声を掛ける。
「今日は光聖教会に行くんですよね」
「ああ、あそこには知り合いがいるんだ」
ミレーラも席に着くと、食事を始める。
パンと目玉焼き、ソーセージと定番のメニューをロジェは頬張る。
「……知り合いの方は……どなたですか?」
「ん? 司祭のエルトン・ヴァルドネルだよ。昔、魔物から助けた事があるんだ」
ミレーラは目を見開いて驚く。
「エルトン様とお知り合いなんですか!! 光聖教会の副長ですよ……驚きました」
「副長!? そうなのか……(知らなかった)」
ミレーラは目を輝かせて嬉しそうに話した。
「はい。とても素晴らしい人格者で、人気もあり、私が尊敬する方の一人です」
あいつ……そんなに偉い階級だったんだな……
……人気もあって、ミレーラが尊敬するような人格者だったとは……
ロジェとミレーラは別の理由から、お互いに驚いていた。
ミレーラは不安気な顔をしている。
「でも……エルトン様はお忙しい方ですから、お会いできるでしょうか?」
「そうだな……何とかなるだろう」
強引にでも会うしかないだろう……
二人は朝食を食べ終えると、光聖教会に向けて出発した。
魔大陸との境界に位置する町、グレース。
その中心に光聖教会は建っている。
長い階段を上った先にある、大きな広場を抜け、立派で巨大な石造りの礼拝堂が光聖教会の入口になっている。
礼拝堂の奥には、塔や建物が幾つか立っていて、回復院や研究所、読み書きや歴史を学ぶ教育院など様々な用途で使われている。
その中には、孤児院や避難所などもあり、魔族や人間族の隔たりもなく多くの者が利用できるようになっていた。
ロジェは光聖教会の階段を上りながら、高い建物を見上げる。
「いつ来ても大きな建物だな、ここは……」
「ふふふ、そうですね……言い伝えによると、人魔大戦が終結する時に平和の象徴として建てられたそうです。最初は小さな教会だったようですが、数千年の時を経て、ここまで大きくなったそうですよ」
「数千年前からここにあるんだな……」
「……さぁ、行きましょう。入口は階段を上がった先にあります」
二人が長い階段を上りきると、広場から続く通路の先に礼拝堂の扉が見える。
広場で遊ぶ子供たちがミレーラを見つけて集まってくる。
「あっ、ミレーラ姉様だ!」
「ミレーラさんだ」
「ミレーラお姉ちゃん!」
「お姉ちゃん、ずっといなかったけど病気だったの?」
「姉様に会えなくて寂しかった……」
「ごめんね……私は元気よ! もう少しお休みしたら、また、みんなと会えるから……」
ミレーラは集まってきた子供たちの頭を撫でながら、心配させまいと元気に振舞った。
彼女は子供たちに人気があるんだな……早く兄さんを見つけて、前と変わらない生活に戻してあげないとな……
少しは離れた場所で様子を見ていたロジェは、自身に気合いを入れていた。
ミレーラが子供たちに手を振ると二人は礼拝堂に向けて歩き出した。
ロジェが笑いかける。
「凄い人気があるんだな。驚いたよ」
ミレーラは嬉しそうに笑っていた。
「はい、私は光聖教会に住んでいた時期が長いので、良く子供たちとも遊んでいたんですよ」
礼拝堂の建物に入ると正面に受付見えた。
ミレーラは案内役の女性に話しかける。
「おはようございます。エルトン司祭様はいらっしゃいますか?」
「おはようございます。あなた様は……確か……ミレーラ様ですね」
「はい、私を知っているのですか?」
「ええ、もちろん存じ上げております。失礼ですが、司祭様にはどのようなご用件でしょうか?」
ミレーラは受付係の不意の質問に黙ってしまう。
「ええっと、それは……ですね……」
あたふたするミレーラを見て、ロジェが会話に割り込んだ。
「私は冒険者ギルドのロジェ・デュンヴァルトというものです。本日はエルトン司祭様から依頼の相談を受けて来ました。エルトン様にお繋げ頂けますか?」
いつにもまして、きちんとしているロジェは、本当にS級冒険者のようだった。
「そうでしたか、それでは確認致しますので、お待ちください」
受付の女性はボタンのようなものを押してから、筒のようなものを耳に当て話し始めた。
ミレーラは不安そうな顔でロジェに
「ロジェ、大丈夫ですか?」
受付の女性がロジェに話しかける。
「申し訳ありません、司祭様は何も聞いてないとの事ですが……」
「いや、そんなことは無いですよ」
ロジェは、受付の女性が話している、筒のようなものを奪うと自分の耳に当てて話し出す。
「司祭様、依頼の詳細をお話するためにお伺いしました。ええ、そうです。……ああ、申し訳ありません、……そうですね、では、これから参ります」
ロジェは筒についているボタンを押し通信を切ると、受付の女性に返した。
「司祭様が、部屋に来てくれとのことです。どうやら、依頼の相談は
「そうでしたか……では、私は何も聞かなかったことにしますね」
ロジェはニッコリと笑った。
「ありがとうございます、助かります。」
「……ところで、司祭様のお部屋はどちらになりますか?」
「十階になります。あちらの魔法陣にお進み下さい」
受付の女性は右の魔法陣を指差した。
「そうでしたね」
ロジェはお辞儀をすると、魔法陣に向けて歩き出した。
キョトンとしていたミレーラもロジェに着いて行く。
「エルトン司祭様はギルドに何か相談事があったのですね」
「……無いよ」
無表情で答えるロジェ。
「えっ!? でもさっき……えっ!?」
「あれは音信機という、音を離れた相手と繋ぐことが出来る魔道具だ。ここら辺では滅多に見かけないが、中央都市なんかでは良く見るものだ……俺が適当に話しをしていただけだよ。だから……バレる前に司祭の部屋に急ごう」
「……はい……(大丈夫かしら…)」
二人が急いで魔法陣に入ると、ブゥンという音と共に魔法陣が光り出し、その場から消えると、別のエリアに飛ばされていた。
正面に部屋が見える。
正面のドアを開けると、青いローブに白い肩掛けを付けた男が立っていた。
痩せ型で女性のような顔立ちの、その男は、怒っているように見えた。
「ロジェ、貴様。さっきのはなんだ! 私はお前に何の用もないぞ!!」
ロジェは笑いながら近づく。
「そう言うなよ、俺とお前の仲だろう」
「貴様などに何の
ロジェの後ろにいたミレーラが、エルトンの前に出る。
「申し訳ございません、司祭様……ご
「……あなたは……ミレーラさん……」
ミレーラに気づいたエルトンは驚き、冷静さ取り戻したように見えた。
「……何か事情が、おありのようですね……こちらにお座り下さい」
ロジェを軽く睨んだエルトンは自室に二人を招き入れた。
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