第16話 ゴブリン殲滅戦

 ゴブリンの巣穴近く。

 五人が身を隠して本部隊の到着を待った。


 巣穴からは時折、ゴブリン数匹が出入りしていたが、警備がいる訳でもなく、辺りを気にする様子も無かった。


 あいつらが気付く前に、婆さん達……早く到着してくれよ。

 ロジェはミレーラに危険が無いかを気にしながら、本隊の到着を今や遅しと待っていた。


 5人の頭の中にヘレンの声が響く。

「先行隊、待たせたねぇ」


 驚いたミレーラがロジェに振り向くと、ロジェは安心しろと言いたげに軽く頷く。

 婆さんのスキル、念話だ……相手に直接、言葉を届けることが出来る……


 到着した討伐隊本体は、巣穴を包囲するように配置に着く。

 遠距離の弓矢、魔法部隊が構えた。


「それじゃ始めるよ、お前達」


 ヘレンの掛け声と共に巣穴の入口に、大きな火柱が吹き上げる。

 熱風が辺りを包む。 


 驚いたゴブリン達が巣穴から飛び出してくる。

「ギャィギャィギャィギャィ」


 討伐隊から飛び出したゴブリン向け弓矢が放たれた。


 次々と溢れ出すゴブリンに矢の雨がヒュンヒュンと降り注ぐ。

 ゴブリン共は慌てふためき、頭や体に矢が命中し次々と倒れていった。


「よーし、突撃じゃー」


 ヘレンの合図で接近戦を得意とする、剣、槍、斧、武術家の部隊が、一斉に飛び出した。


 混乱するゴブリン共を討伐部隊が次々と攻撃していく。

 ゴブリン達も棍棒で対抗しているが、討伐隊の冒険者達には、連携して後方の魔法部隊から強化魔法が付与され、ゴブリンの屍を築いていった。


 戦闘は討伐隊が圧倒的に有利に進めていた……だが、巣穴から出てくるゴブリンの数は一向に減らない。

 倒しても倒しても減らないゴブリン共に、討伐隊に疲労が見え始める。


「どれだけいるんだ……」


 誰もがそう思っていた時、巣穴から出てくるゴブリン達の中に武装し、一回り大きなゴブリンが混ざり始めた。


「ギャィギャィギャィギャィ」

 武装したゴブリンは、これまでの者共とは違い、ただ闇雲に突っ込んで来るのではなく、討伐隊の攻撃をガードし、隙を見て反撃する。明らかに知性が高い戦い方だ。武装ゴブリンが増え続け、ゴブリン同士、連携を強めて攻撃してくる。


 増え続けるゴブリンに、討伐隊は苦戦。数的不利な状況も加味し、傷を負い倒れる者が出始めた。


 倒れた冒険者を抱えて走る者目掛けて、ゴブリンから放たれた矢が容赦なく突き刺さる。


(被害が大きい……このままでは死者が出るねぇ……)

「……戦況は、良くないねぇ……」

 死者を出さないように、支援部隊を使い戦況をコントロールしていたヘレンが冷静呟く。


 その時、ヘレンはゴブリンの巣穴から奇妙な魔物が出てくるのを確認した。


「何だい……あれは……」


 それは、腕が六本ある、剣士のような出立をした骸骨がいこつだった。

 六本の腕には4本の件と2つの盾を装備している。


 ヘレンの額から汗が流れた。

「あれは……ジェネラル・スケルトン……何であんな奴がゴブリン共といるんだい……」



 ジェネラル・スケルトンは四本の剣を振り回し冒険者たちを圧倒した。


 冒険者たち陣形が崩され、連携が取れなくなると、傷つき血を流し、その場で倒れる者が出始めた。


「負傷者の回復を優先させるのじゃ」

 ヘレンの掛け声と共に、倒れた者達に防御魔法が掛けられる。

 次々と回復魔法が負傷者に向けて放たれ、傷は治って行ったが、ゴブリン達の猛攻は止まらなかった。


「……立て直しが必要だねぇ……お前達、距離を取り態勢を整えるのじゃ。魔法使いは、負傷者の回復を優先しろ。……その間は、あたしに任せな。ファイヤウォール……」


 ヘレンがそう言うと、魔物と冒険者の間を隔てるように、巨大な炎の壁が湧き上がる。


 炎の壁は次々と湧き上がり、魔物達を中心に包囲して行った。


 ジェネラル・スケルトンが、おもむろに角笛を吹く。

「ピィーーーーー」

 辺りに笛の音が響くと、奥の森からズドン、ズドンと言う爆音と振動が木々をなぎ倒しながら進んでくる。


 ヘレンが顔をしかめる。

(魔笛か……何かを召喚したな……魔物どもめ!! )


 森の中から巨大な緑色の魔物が五体現れた。


「ブオォォォォォ」

 不気味な声を上げる巨大な魔物は、ドシン、ドシンと炎の壁をものともせずに無視して突っ込んでくる。


「トロールまで居るのかい……厄介だねぇ」


 ヘレンは頭上に両手を広げた。



 戦闘を見ていたミレーラが、心配してロジェに声を掛ける。

「ロジェ……大丈夫でしょうか……私たちも助けに行った方が……」


 ロジェは何も心配していない様子だった。

「大丈夫だろう、見てみなよ」


 ロジェが指差す方向を見ると、空を覆いつくす程、無数の炎が浮かんでいる。


「あれが婆さんの得意技だ。……といっても、初級魔法のファイヤボールを無数に出しているだけだがな」


 ミレーラは見たことのない光景にビックリしている。

「あんな数の魔法を一度に出すことが出来るなんて……」


 ヘレンが頭上に掲げた両手の上には、空を覆いつくす程、火球で埋め尽くされている。


「さあ、派手に行くよ。シューティング・ファイヤ」


 ヘレンが両手を振り下ろすと、茫然と見つめるゴブリン共に無数の火球がに降り注いだ。


 辺り一面が炎に包まれ、熱風の中、ほとんどがゴブリンが息絶え、その死体は次々と燃えていった。


 回復魔法で傷を治した接近戦部隊が戦闘に復帰すると、残りのゴブリンにトドメを刺していく。

 だが、巨大なトロールは大きな腕を振り回し、討伐隊でも手をこまねいていた。


「……あいつらも、邪魔だねぇ」


 ヘレンは再び両手を広げると、無数の炎の槍が空を覆いつくした。


「お前達、巻き添えを食うよ、そのデカブツから離れな。シューティング・ランス」


 ヘレンが両手を振り下ろす。


 トロールに向かって放たれた無数の炎の槍は、唸りをながら、正確にトロールの頭上より飛来すると、豪雨のように降り注ぐぎ、体に突き刺さる。


 一気に激しい炎に包まれたトロール共は、その場で倒れ、黒く焼け焦げている。


 ヘレンはジェネラル・スケルトンを睨んだ。

「さぁて、後はスケルトン、お前さんだけだねぇ」




「おっかねぇ婆さんだ……あれがギルドマスター、『猛火もうかの魔術師』と呼ばれる由縁ゆえんだよ」

 ロジェがそう言うと、ミレーラはその圧倒的な強さに言葉を失っていた。


 その時、ヘレンがレイナルドに念話で合図を送った。

(今じゃ、用心して行って来な!!)


「行くぞ」

 レイナルドが静かに告げると、五人はゴブリンの巣穴に突入した。



 洞窟内


 巣穴はゴツゴツとした岩が突き出る一方で、歩きやすいように整備されているのか、曲がりくねった洞穴が、真っ直ぐに続いていた。

 レイナルドを先頭にゴブリンが潜んでいないか、警戒しながら進む。

 進んだ先に、左右の分かれる道が現れた。


 レイナルドはバルドに近寄る。


「バルド、何か気配は感じるか?」


 バルドは左の道を指した。

「ああ…『探索』してみたが、こっちの道に誰かいるな。捕まっている冒険者かもしれない」


「分かった。私はここに残って後方を見張る。お前達四人で向かってくれ」


 レイナルドを残して、四人が左の道を進むと奥に洞穴を見つける。


 ロジェは足を止める。

「バルド……」


「ああ、分かっている。奴らがいるね」

 ロジェが気配を消し、洞穴をそっと覗くと、そこには二匹のゴブリンが見えた。


 バルドに合図を送るロジェ。

「フャイヤランス」

 後方にいたバルドが魔法を唱え、炎の槍が二匹のゴブリン目掛けた放たれると、ゴブリン共は炎に包まれた。


「助けてくれ……」

 洞穴の先から、助けを求めるかすれた声が聞こえる。


 声のする方に向かうと、牢屋のような場所で捉えられている人達がいた。


 ロジェは牢屋に掛かっている鍵を剣で破壊するすると、扉を開き中に入る。


「大丈夫か?」


「……たすけて…」

 傷つき、衰弱している者達が大勢いる。


 遅れてメロが牢屋に入って来る。


「直ぐに、傷を治します……エリアヒール」

 メロが魔法を唱えると一帯が光に包まれ、捉えられていた人達の傷がみるみる内に治っていった。


「これで、ひとまず大丈夫です」

 メロは捕まっていた人たちを安心させるように微笑んだ。


 一人の女性がロジェに近づいてくる。

「助けてくれてありがとう、あなた達はギルドの救助の方ですか?」


「そうだ、ギルドの討伐隊で来ている。」


「私は、ゴブリン退治に来た冒険者です。少し前に仲間の一人が奴らに連れて行かれました……」


「何処に連れて行かれたんだ」


「分かりません……ただ、今まで奴らに連れて行かれて、戻ってきた者はいません……」


 ミレーラに一人の少女が駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん、私を助けてくれたおじさんも、助けてあげて!!」


 ミレーラは少女を抱きしめると優しく囁く。

「ええ、大丈夫よ。安心して……」



 少女は涙を流しながら、

「……私があいつらに叩かれそうになった時に、替わりに叩かれて助けてくれたの……クルム伯爵様のお家で働いているから、伯爵様の騎士が必ず助けに来るって……頑張れって……」


「クルム伯爵ですって!?」

 少女の言葉にミレーラは驚き、顔を見つめた。


「うん……そのおじさん、その次も助けてくれたの……そしたら、あいつらに、どこかに連れて行かれたの……」


(もしかして……兄さん……)


 ミレーラは動揺していたが、泣いてる少女を怯えさせないように優しく微笑んだ。



 ロジェ達は救助者を連れて、レイナルドのいる別れ道に戻った。


 バルドがレイナルドに近寄る。

「レイナルドさん、捕まっていた人達は助けたけど、何処かに連れて行かれた人もいるみたいだ」


 救助者の傍に寄るレイナルド。


「……ゴブリン退治に出ていた冒険者達はいるか?」


 三名が手を挙げた。


「我々は、救助者を探しに先へ進む。こんな事があったばかりで悪いが、救助者を連れて、洞窟の外にいる討伐隊と合流してくれ」


「……分かりました。私たちも冒険者です。救われた命に替えても、皆さんを守ります」


「入口からここまでの道に、魔物はいなかったが、気を付けてくれ。よろしく頼む」


「はい。皆さんも、気を付けて下さい」


 五人は救助者を任せ、先に進んだ。






ファイヤボール=火魔法 初級……炎を放つ

ファイヤウォール=火魔法 初級……炎の防御壁を出現させる

フャイヤランス=火魔法 中級……炎の槍を放つ

エリアヒール=光魔法 中級……エリア内にいる者達を回復する

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る