初コラボと憧れと
第二十一話 冬休み明け、校内にて出会す二人
冬休み明けの一月初旬、ひんやりとした澄んだ空気の朝。
俺は数日ぶりに登校すべく家を出ていた。
ここ最近はダンジョンに潜るためにずっと光留と過ごしてばかりいたので、しばらく顔を合わせないかも知れないと思うとなんだか妙な気持ちになる。
楽しいゲームのひとときを終えて彼女が帰ってしまってから、ずっとこうだ。
次なるダンジョンに潜る日程は未定。
連絡ツールを光留が持っていないので遠隔での打ち合わせができないから、もし都合が良さそうな日があれば光留の方から来てくれることになっている。
その日を心待ちにしながら学校生活を送っていくしかないだろう。
命の危険があるほどのスリル満点なダンジョンと違って、俺の日常は特別なことなど何一つとしてない。呆れてしまうくらいありきたりなものだ。
いつもと同じ通学路を行き、変わり映えのしない校門をくぐり、何事もないまま見慣れた教室へ――。
行くはず、だった。
「あの……もしかして加寿貴さんじゃない?」
後ろからそんな風に呼び止められるまでは。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
聞き間違いではないかと思った。
だって俺は、この学校においてぼっちでもなければ人気者でもないという微妙な立ち位置。声をかけられること自体は不思議ではないが、生憎親しい女子はほとんどいないのである。
けれど声は聞き覚えのあるものだった。いいや、聞き覚えどころではなく、昨日聞いたばかりなのだから忘れるわけもない。
たまらずに振り返れば、そこには華のように可憐な少女の笑顔があった。
「ひか、る?」
どこからどう見ても栗瀬光留まんまである。
彼女は今、普段のラフなパーカー姿ではなく制服のブレザーを着ていた。
地味で彩のない服のはずなのに、彼女が纏っているというだけでとんでも可愛く見えてしまう。いつもボブカットに下されている黒髪は一つに纏め上げられて色気を放っていた。
と、そんなことはどうでもいい。
俺は寝坊をしていて夢の中にいるとでも言うのか。それとも学校に酷似したダンジョンの中にでも迷い込んでしまったのだろうか?
ストーカーという線は光留に限って考えにくい。
かと言って、冬休み期間中の疲れが溜まっていた故の幻聴と幻覚にしてはあまりにリアル過ぎる気がする。
「やっぱり加寿貴さんだ! 後ろ姿が似てるなぁって思って、追いかけてきたの」
光留は俺の手をギュッと力強く握った。
教室へと向かう廊下のど真ん中。他の生徒の注目が集まりまくっているが、俺は呆気に取られてしまってどうすることもできない。何度か瞬きを繰り返し、ようやく目の前の彼女が実在していることを認めた。
「これは一体、どういう」
「私たち同じ学校だったみたい。加寿貴さん、二年生なんだね。そっか、学年が違うから気づかなかったんだ」
この学校は学年を見分けるためにブレザーにある紋章の色がそれぞれ違う。
一年は黄、二年は赤、三年生は青。光留の胸元を見ると青の紋章があった。
――ちょっと待て。
一気に色々な情報を知り過ぎて頭の処理が追いつかない。
そういえばお互いの年齢も、どこの高校かも教え合っていなかった。
彼女の事情を聞かされてからは通学してすらいないのではないかと疑っていたのに、まさか一学年上にいたなんて。
これほどの美少女ならば校内に知れ渡っていても良さそうなものだが、そうなっていないのは彼女が訳ありだからに違いない。
光留がこの場にいるというだけでも充分な衝撃だったが、何より驚いたのは。
「光留、年上だったのか」
せいぜい高校一、二年生だろうという推測をしていた。
別に背が低いわけではないが、雰囲気的になんだか少し幼い感じがしたから。
「加寿貴さんとは同い年くらいかと思ってたよ」
くすくすと笑いながら、「でもまあ歳なんて関係ないよね」と彼女は続け――悪戯っぽく首を傾げて見せた。
「これからはダンジョン以外でも会えるってことでしょ。それってすごく楽しそうだと思わない?」
「……そうだな」
俺は素直に頷く。
これまでまるで特筆することのなかった日常に光留が加われば、きっと鮮やかで楽しいものになるだろうと確信した。
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