第二十四話 クラスメートと初コラボ②
配信開始前のこと。
光留と二人でダンジョンのある林へ向かい、そこで姫川と顔を合わせた時、俺は度肝を抜かれた。
「なんだよ、その格好……」
「アタシのハンドルネームって『みーひめ』じゃん? ちなみに名前は本名の姫川みゆきから適当につけたんだけどさー。どうせなら設定に合わせてお姫様っぽいコスプレで配信したらいいんじゃ?ってことでやったら大成功!! どう、似合ってるっしょ?」
どうやら俺が忘れていた下の名前はみゆきというのか。……今ははどうでもいいが。
髪の巻き具合も化粧もばっちり。いかにもなギャルという風な普段の彼女の装いとはまるで印象が違い、確かに可愛らしくはあった。
でも心の中でツッコミを入れずにはいられなかった。もっとダンジョン内で実用的な服にしろよ、と。
あくまでコラボ相手だから下手なことは言わなかったし言えなかっただけである。
光留はというと、心配そうな顔をしつつも姫川のふわふわのロリータファッションを褒めていた。
正直『みーひめ』と潜ってしまって、自分たちも彼女も身の危険に脅かされるような事態にならないだろうかという不安が真っ先に思い浮かんだ。
だが実際複数回のコラボ経験がありながら姫川は無事。その事実から見るにきっと大丈夫なのだろう。そうであってほしい。
配信時間が目前に迫ってきたので、覚悟を決めて配信ボタンを押した。
せめて今後コラボする時は相手の素性をしっかり調べてから臨まなければならないという良い学びを得た俺だった。
……そんなこんなあったが、Aランクダンジョンに潜った俺たちは現在問題なく進んでいる。
モンスターとの戦闘はまだ三回。いきなりDあるいはCランクの平均的なボス並みの戦闘力を持ったモンスターが出現したが、光留を主体とし俺がサポートする形で難なく倒していった。
それを後方から懐中電灯で照らしつつ、撮影・配信実況するのは『みーひめ』だ。
「ヒカルちゃん、ここで斬り込むんですのー!? わわっ、カズくんの振るうバットの勢いがすっげぇですわー! これで冒険者の資格を取ってないとかもったいないですわー!!」
うるさいし、いかにもなとってつけたお嬢様口調に背筋がぞわぞわするが、構わず戦う。
ちらりと片手に握るスマホへ目を向けるとコメント欄が大賑わいだった。
『美少女二人と一緒とかカズ羨ましすぎ』
『ひかるたん今日もかっこいいし可愛いしで最高!』
『みーひめってやつ大興奮しとるw』
『顔可愛いけどぶりっ子っぽくない?』
『実況付きは見てておもろいな。めちゃくちゃ盛り上がるわ』
『いつも通りつよつよなひかるんとコラボ相手の前でいつもより無理してるカズの対比に笑う』
『みーひめが超絶ウザくて好き』
『雪山の時よりモンスターが強いはずなのに全然余裕に見える』
『どんどんいけ〜!』
『みーひめも叫んでるじゃなくて戦ってくれよ!! 戦闘力知りたい!』
『ゴスロリ美少女はマスコットに決まってんだろ』
『コラボ配信するんだったらカズならもっと大手もいけるだろうにな』
『お、こっちでも配信やってるw(byみーひめ推し民』
『ひかるちゃん?っていう子を贔屓にし過ぎてるだろカズくん』
『可愛いは正義!』
どうやら可愛い論争が巻き起こっているらしい。はっきり階級が分かれている強さと違い、女性同士でコラボするとありがちな話題だと聞く。
確かに戦いばかりであまり『みーひめ』を映していなかったので、カメラを向けながら言ってみた。
「ひめ……じゃなかった『みーひめ』にも戦ってほしいってコメントがあるんだけど」
「ちょっとムズいと思いますわー! でもアタシの自慢のこいつを振り回したいしなーって迷ってるところですわ!」
『みーひめ可愛い』
『お、化粧は濃いしひかるたんとは別系統だけど改めて見るとなかなか美少女じゃねえか』
『みーひめが持ってるあれって鞭だよね』
『冒頭は大声のインパクトでやられて気づかなかったけど確かにw』
『あの子に打たれたらキモチイイだろうなあ』
『やめろ変態』
『鞭使い冒険者とは珍しい』
『みーひめ』の得物は長くたゆむ鞭。攻撃力を高めるために無数の刃物がついた特別性だ。
それでも、Cランク程度ならまだしもAランクの魔物に通用する武器とは思えなかった。
しかしそれは思わぬところで役立つこととなる。
モンスターを倒し続けることしばらく。
それまで順調に前進していた光留が足を止めた。
「……ここ、行き止まりだ」
「え?」
「ヒカルちゃん、それホント? ここに来るまでの分かれ道は全部辿ったはずですわ!!」
『みーひめ』の言う通り。他のルートなんてないはずなのだ。
あたりをぐるりと見回して、抜け道などがないことを確認し――引き返そうかと思ったその時。
「ちょい待って、見っけた! 視聴者様から『仕掛けだろ多分。上に何かあったりしないか?』って言われて見てみたらあったんだけど!」
すっかり元の口調に戻った姫川が天を指した。
その先にあったものは二つ。
片や、一枚の鉄扉。けれども地上からの高さが3m以上あり、とても入れそうにない。
そして片や天井から頑丈そうなロープで吊り下げられた石の台座。おそらくそれに乗ることで鉄扉に手を届かせるのだろうが……。
「光留、切れるか?」
「やってみるね」
結果は最初からわかっていた。
だってロープは扉よりさらに上に薄ぼんやりと……4mか5mくらいの位置に見えていたのである。そしてやはり、剣先が掠りもしない。
他には肩車をして同じことをするくらいしか手段を思いつかないが、それにしたってきっと届かない。
そこで活躍を見せたのが、姫設定を取り戻した『みーひめ』だった。
「仕方がないですわ。アタシにお任せくださいませ!」
刀付きの鞭が振るわれる。
一度、二度、三度、四度……幾度も幾度も。
そんな時間がどれほど続いただろう。やがて、ブチっという音がした。
『やばい』
『マジでやりやがった』
『有能過ぎる鞭』
『みくびってた、すまぬ』
『みーひめ意外にすげーw w』
『カズ、石に押しつぶされたりするなよな!』
途端に始まる石の台座の落下。
かなり距離を取っていてもその衝撃から逃れることはできず、一瞬体が宙に浮いたし、危うく転びそうになった。
でもそのおかげで――。
「道は開けましたわッ!!」
鉄扉の向こうに行ける。
「すごいよ『みーひめ』さん! 私とカズくんだけじゃこれ以上進めなかったね」
「……ヒカルちゃんなら多分、どうにか機転利かせて進めたっしょ。アタシの方が手軽に手を貸せたってだけ。美味しいところ、いただいちゃったー」
姫川がにやりと笑いながら呟いたのを聞いたのは、配信には映らなかった。
台座をよじ登り、鉄扉を潜ればコラボ配信もいよいよ最終盤だ。
眼下にはダンジョンボスの姿がある。
真紅の瞳がいくつも煌めかせる、五つの頭を持つ凶悪な大蛇のようだった。
本来なら力の足りないダンジョンボスに『みーひめ』は手を出してほしくないところだが、『みーひめ』チャンネルの主として活躍しなければならない。なので三人で分担し、着実に倒すという手段になるだろう。
油断は禁物。しっかり作戦会議をしてから挑もうと思っていた。
だが、そううまくはいかなかった。
なぜなら――俺でも光留でも、はたまた『みーひめ』のものでもない言葉が聞こえてきたのだ。
「モンスターの新しい亡骸が多いと思えば、やはり先客がいましたか」
この場に似つかわしいとは言えない、どこか幼なげな声。
暗闇のせいで姿はわからない。なのになぜだろう、その人物からとても冷たい……雑魚モンスターを倒す時のような視線を向けられている気がした。
「仕掛けを解いていただきありがとうございました。貴方たちのお役目はここまでですので、下がっていてくださいね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます